第76話「処遇」
コーロの関をめぐる激闘はシアン軍の勝利という結果に終わった。
これで王都までの進軍を阻むものは何一つとしてなくなり、あとは王都を包囲するのみとなったのだが、しかしシアンが進軍を命じることはなかった。
それもそのはず、この戦いでは勝利と引き換えに多くを失い過ぎた。主戦力であったアルネス騎士団は壊滅、貴族諸侯の軍にも甚大な被害が出ていた。
兵だけではない。シャイニーヌ=アレンティアをはじめとする多くの優秀な将も失った。
なんとか生き残った者たちも負傷者がほとんどで、とてもすぐに軍を動かせる状態ではない。
「関の兵糧・物資から爆発の影響を受けなかったものを選別し、まとめてください。死者は残念ですが故郷へ送る余裕がありません。明朝、ここより少し離れたところにあるシェンデの丘にまとめて埋葬を。軍勢の再編成は、ショーン卿とユーウェル卿の御二方、大至急お願いします」
戦後処理に奔走するシアン。
彼女の指示は的確かつ素早いもので、生き延びた忠臣たちもその命に従い、戦で疲弊した身体をせわしく働かす。
彼女の元にオータスが目覚めたとの報が届いたのはそんなときであった。
翌日の昼、諸将が集められ、軍議が開かれた。
現在の軍の状況確認と、今後の方針を決めるためである。
そしてこの席には目を覚ましたオータスの姿もあった。
「オータス卿、貴方はこの戦いの前、私に誓ったはずです。私の元に雑兵一人行かせない、と。その言葉は……偽りだったのですね」
開口一番、シアンはオータスに冷たく言い放った。
その彼女の顔はオータスのよく知るそれとは違う。国の統治者、そして軍の総指揮官としての顔。すなわち、王の顔である。
オータスは背筋に冷たいものが走るのを感じながら、答えた。
「申し訳ございません。このオータス=コンドラッド、陛下に大言を吐いておきながら、判断を誤り、結果多くの者を死なせるという愚を犯しました。決して許されることではありません。どのような処罰も受け入れる所存でございます」
だが、そのオータスの言葉に、シアンは顔色一つ変えず。
彼女はゆっくりと立ち上がると、頭を垂れるオータスに近づいた。
そして。
「戦犯たる貴方に下す処分など、決まっているでしょう?」
そう言って、手刀でオータスの首元を切り裂く仕草をして見せた。
瞬間、場が一気に凍り付いた。
長い沈黙。その場の誰もが息をのんだ。
オータスは己の心臓の鼓動が早くなっているのを感じながらも、冷静にただ次の言葉を待った。
やがて、シアンはゆっくりとその口を開いた。
「斬首……。他の者であればそれが妥当なのでしょう。ですが、オータス卿にはこれまでの多くの功があります。恩があります。此度は、此度だけは……許しましょう」
オータスはこのとき改めて確信したのだった。彼女こそ、やはり王の器だと。
なぜならば、彼女のその言葉に、態度に、オータスはただこう答えることしか出来なかったからである。
「寛大な処置、感謝いたします。このオータス=コンドラッド、より一層陛下のためこの身を捧げる所存にございます」
当然、その言葉には一点の曇りもなかった。




