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漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第2章 カーライム王国内乱編
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第72話「奮戦」

 オウガ=バルディアスはシャイニーヌ=アレンティアと戦い、そして破った。

 だが、とどめを刺すことはせず、後始末は配下の兵たちに任せると、オウガ自身は側面よりなだれ込んできたコンドラッド隊とスペンダー隊の対応へと向かってしまった。

 虫の息でもはや抵抗することもできないシャイニーヌに兵たちがどのようなことをするかは容易に想像できた。しかし、オウガにはそれを止める理由などどこにもない。略奪や凌辱は戦において兵たちの士気を高めるのに有効な手段である。

 果たして、シャイニーヌは兵たちに凌辱の限りを尽くされ、そしてそんな絶望の中息絶えた。乱世の習いと言ってしまえばそれまでであるが、その光景が残酷極まりないことには変わりない。

 シャイニーヌ=アレンティアの壮絶な死とアルネス騎士団の壊滅。それはシアン軍の将兵たちに動揺を与えるには十分すぎるものであった。

 戦いの流れはこれを機に大きく変わった。






「どうした小僧。あれほど吠えて、その程度か?」


 そう吐き捨てるオウガの足元には散々に打ちのめされてボロボロとなった若武者の姿があった。

 辛うじて息はあるが、もはや自力で立ち上がることは不可能なようで、ただぴくぴくと指を動かすだけである。

 無様な姿を晒すこの男、名をオータス=コンドラッドという。彼は、シャイニーヌの死を嘆き、怒り、そして無謀にも単騎でこの鬼神に挑み、一蹴された。

 自慢の黒き剣は彼の手から離れ、今はオウガが持っている。


「どんなに優れた業物でも、使い手にそれに見合う技量がなければ、ただの鈍らとなんら変わらぬ。この剣は俺が貰おう。俺ならば存分に使いこなせるだろう」


 オウガはそう言うと、その剣でオータスに止めを刺さんとした。シャイニーヌと異なり、オータスにはもう利用価値はない。

 寧ろ内乱の実質的首謀者であるオータスの首を挙げることで、この長き内乱を終わらせることができる。

 オウガの容赦のない一撃がオータスを襲う。刹那。


「ぬうっ!」


 風を切る音が聞こえたかと思うと、オウガの背には一本の矢が刺さっていた。

 続く第二射。これはオウガの刃によって防がれる。

 第三射にもなると余裕で斬り落とされた。

 もはやオウガに矢は通じぬ。だが、その三本の矢はオウガの注意をオータスより逸らすには十分であった。

 

「まさか……!」


 オウガが射手の狙いに気が付いた時にはもう遅かった。振り返ると、そこにはオータスの姿はもうなく、代わりに一人の偉丈夫がいた。


「殿をここで散らせるわけにはいかんのでな。これよりはこのトレグル=ハリアッドがお相手仕る!」


 矢を射たのはトレグルの娘・ミーナであった。

 ミーナが遠くより矢を射ってオウガの注意を向け、その間に騎兵がオータスを救出する。そしてそれを追わせぬため、トレグルがオウガの前に立ちふさがる。

 ユイナより援護に向かうよう言われた二人が、状況を見て咄嗟に思いついた策である。

 こうして、天下の大将軍はまんまとトレグル・ミーナの親子に出し抜かれたのであった。






 ユイナにオータスが重傷を負い、後方へと運ばれたという連絡が伝わったのはそれからしばらく経ってのことであった。

 現在、ユイナはオータスに代わりコンドラッド軍の指揮をしていた。


(そんな……! やはりあの時私が止められていればこんなことには……)


 壊滅した中央部隊を見て、一人でオウガに駆けていったオータスをユイナは止めることが出来なかった。

 冷静さを失っていることはすぐにわかった。嫌な予感がし、なんとか制止しようとしたが、オータスは聞く耳を持たなかった。

 もっと強引に止めていれば。そんな考えが頭に浮かぶ。不安と後悔に胸が押しつぶされそうになる。

 だが、ユイナは強い女性(ひと)であった。


(落ち着け私……。いま私のするべきことは……)


 深く深呼吸をする。

 弱気な気持ちを心の奥へと押し込め、冷静に自軍の兵たちを見渡す。

 シャイニーヌの末路は既に伝わり、またオータスが長く不在なこともあって士気は見るからに低かった。

 その上、オータスが負傷したことが伝われば逃げ出す兵たちも出てくるかもしれない。

 ユイナはしばし思案し、そして決断した。兵たちに向かって口を開く。


「たった今、オータス=コンドラッド伯爵が負傷し、後方へと退かれたという報が入りました! しかし、私は確信しています! あの人は必ず帰ってくると! 精鋭たちよ、奮い立つのです! オータス=コンドラッドが戻るその時まで私たちに退くことは許されません! 戦はまだ半ば! さあ、コンドラッドの意地を見せつけてやりましょう!」


 ユイナの勇ましい号令が響き渡ると、兵たちは鬨の声をあげた。

 オータスが負傷したという事実に、はじめは戸惑いを見せる兵たちもいた。だが、それでもなお強気なユイナの姿に、兵たちはかえって大いに勇気づけられた。

 あえてオータスの負傷を明かすというユイナのイチかバチかの賭けは見事成功したのだった。

 オウガ軍の猛攻を、コンドラッド軍は頑強に耐え続ける。

 かすかに見え始めた希望の光。

 だが、またしても彼らは奈落の底へ突き落とされる。


「報告します! トレグル=ハリアッド様、お討ち死に! ご息女・ミーナ様は行方が分からず生死不明です!」


 伝令兵からの報告にユイナは無言で拳を握り締めた。

 指揮官という立場でなければ、とっくに泣き崩れていただろう。だが、彼女は決して強気な態度を崩さなかった。

 挫けそうになる心を必死に奮い立たせ、兵たちを何度も何度も鼓舞する。言葉が思いつかなければ、自ら敵兵を何人も斬り伏せ行動で兵たちを勇気づけた。

 だが、いくら待てどオータスが戻ってくる気配はなく、彼女の頑張り虚しく、戦況はひたすらに悪化の一途を辿った。

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