第6話「王子」
戦いは一進一退の攻防となった。
3万対1万。兵力差を考えれば一方的な展開になってもおかしくないのだが、カーライム軍はよく持ちこたえていた。
これは総大将・ユーウェルの巧みな采配のおかげである。
また、貴族諸侯による連合軍だというのに統制がきちんととれているというのも大きい。
どの隊もユーウェルの命令を忠実に守っている。
これもユーウェルの人徳によるものだった。
そんな中、カーライム軍本陣にうれしい報せがもたらされる。
「スタンドリッジ伯爵、王宮からの援軍5万がもうじきこの戦場に到着するとのことです!」
待ちに待った援軍の到着。これにはユーウェルの顔も少し緩む。
王宮の兵達はみな精鋭ばかり、しかも5万の大軍だ。
援軍が到着すれば形勢は一気に逆転、敵を追い払うどころか殲滅することさえできるだろう。
「して、その指揮官は?」
ユーウェルは報告した兵士に尋ねる。
特に深い意味はない。ただ、少しでも戦上手な人ならば嬉しいと思った。
「率いているのはカスティーネ王子です」
その予想外の名に場が一瞬にして凍りついた。
カスティーネ王子は現在18歳。
カーライム王国の第一王子である。
といっても国王には子は二人しかおらず、もう一人は女なため王子は彼しかいない。
そのため、カスティーネ王子が次期国王と目されている。
カスティーネが先に生まれたということもあるが、なにより代々カーライム王国で女が王になった試しはないからだ。
だが、カスティーネ王子が国王となることを不安視する者は多い。
ユーウェルもまたその一人であった。
いまから2年ほど前、国内で反乱がおきた際に王子の采配の下で戦ったことがあった。
しかしそのとき、ユーウェルは王子のあまりの無能さに愕然とした。
功を焦っていたのだろうか。王子はまわりの静止を振り切り、自ら前線に出て突出。その結果、敵に囲まれ危うく討たれそうになった。
ある家臣がそれを助けると今度は「もう少しで敵を討てたのに余計なことをしやがって」と怒鳴りわめき、こともあろうにその家臣を殺してしまったのだ。
このことをきっかけに軍の士気が低下、兵力で大幅に勝っていながら苦戦。
反乱はなんとか鎮圧されたものの、多くの将兵が命を落とす結果となった。
(あのときから少しは成長されているといいが……)
ユーウェルは心の中で天に祈った。
オータスは戦場の真ん中で血に塗れていた。
といっても、この血はオータスのものではない。敵兵のものであった。
もう何人斬っただろうか。オータスはすでに肩で息をしていた。
「新入り、休むのはまだ早いぜ。ほれ、新手だ」
トレグルの指差した先。
そこには迫り来る数多の敵兵の姿があった。
「うへぇ……早く援軍来てくれねえと俺の身が持たねぇよ……」
オータスの口から思わず愚痴がこぼれる。
だが、文句を言っても敵は減らない。
息を整えると、オータスは再び剣を振るった。
その剣さばきはまるで今回が初陣とは思えないほど美しい。
次々と足元に骸が積まれていった。
(何も考えなくても勝手に動く……。やっぱ身体が戦い方を憶えてるんだな)
それは記憶を失う前、何度も戦場で戦っていたことの何よりの証拠である。
だが、いまはそんなことを悠長に考えているときではない。
「おい、新入り!また来たぞ!」
「うげぇ……」
オータスはもう疲弊しきっていた。
体力的な疲れはもちろん、精神的にも限界だった。
骸から漂う異臭が頭をおかしくする。
だが、それでも剣を振るわなければならない。
そうしなければ、己の命を失うことになる。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
オータスは残る力を振り絞り、雄たけびを上げながら敵に斬りかかった。