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漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第2章 カーライム王国内乱編
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第68話「結界」

 コーロの関は王国最古にして最強の、文字通り最後の砦である。

 ここを抜ければ王都までの間に進軍を阻むものはなにもない。そのため、ここは長い王国の歴史の中で幾度も戦場となった。

 だが、この堅牢な城砦を突破した者は誰一人としていない。カーライム王国初代国王により築かれてから現在に至るまで、ここはずっと王都を守ってきた。

 さらにそこの守備を任されているのは大将軍・オウガ=バルディアス。11万の大軍をもってしても力押しでは決して落とせない。

 オータスは思案を重ね、そしてある策を思いついた。


「ケルビン殿の術であの城壁を吹き飛ばします。当然敵は詠唱中のケルビン殿を襲ってくるでしょうが、こちらには11万も兵がいる。いくら相手があの大将軍だとしても、11万もの兵たちを一瞬にして葬り去ることは不可能です。あの堅牢な城壁さえなくなれば、あとは数で押せる。いかがでしょう?」


 オータスは集めた主だった将たちに尋ねる。

 すると将たちは「その手があったか」と感心したように頷いた。皆誰もが攻城兵器を用いた攻城戦を想定していた。だが、王国最強の魔術師が味方にいるのだからそのような手間をとる必要などない。

 本気を出せば町の一つは消せるといわれるほどの強大な魔力。ならば関の一つくらい容易に消し飛ばすことが出来るだろう。

 期待を込めた皆の視線が一人の老人に集まる。だが当の本人、大魔術師・ケルビン=メンティの顔はあまり浮かなかった。


「もしや不可能……なのですか?」


「いや、不可能というわけではないがな。あの城壁には強力な魔術結界が張られていてな。いささか時間がかかるかもしれん」


 不可能ではない。その答えに諸将は安堵の表情を浮かべた。たとえ時間がかかったとしても防備に徹するのならばいくらでも持ちこたえられる。

 しかし、オータスと魔術師団の面々だけはとてもそれを楽観視することは出来なかった。






 軍議を終えた後、オータスはケルビンを呼び止めた。ケルビンもオータスに話しておきたいことがあったらしく快く応じた。

 場所をケルビンの幕舎へと移し、二人は机を挟んで向かい合う形で席に着いた。


「流石は指揮官殿。気づきましたか? この内乱の裏に潜む魔術師の存在に」


「ええ。こちらの陣営に貴方が付いた時点で、敵が対魔術用の対策を練る、それはごく当たり前のことです。しかし、それを実行できる駒が向こうにはない。王国最強の魔術師である貴方とその配下のノーネス魔術師団がこちら側にいる以上、あちらにまともな魔術師は一人も残っていないはず……。なのに、貴方の手を煩わせるほどの結界を張ることが出来たということは……」


「我々の知らぬ魔術師が向こうの陣営にいる。それもわしと対等な魔力を持った者が、な……」


 重たい空気が幕舎の中を包み込む。

 100を数えるほどの長い沈黙。

 それをようやく破ったのはケルビンのほうであった。


「まあ、ここでいくら考えても詮無き事。なぁに、確かに強固な結界ではあるが、わしの手にかかれば一日もかからず解除できるわい」


 そう言ってケルビンはニッと笑って見せる。

 オータスはその年長者の気遣いに深く感謝し、力強く頷いた。


「ならば一日! 我らは全力で貴方を守るのみ! 決して貴方の詠唱を阻ませはしません」


 策は定まった。

 翌朝、シアン軍11万はコーロの関の前に展開。中央にシャイニーヌ率いる騎士団、その左右を貴族諸侯の軍が固めた。オータスは左翼部隊を指揮、右翼部隊はスペンダー公爵が率いる。ケルビンと護衛の魔術師団はその後方に、そして軍の最後尾にはシアン率いる本隊とそれを護衛するスタンドリッジ隊が控える。

 地形的に背後や側面からの奇襲の心配はないと判断、よって軍の前方を練度の高い部隊で固め、後方を詠唱で身動きのとれぬケルビンらと決して倒れてはならぬ御旗であるシアンを置くという編成となった。

 やがて、ケルビンが結界を解除しようとしていることに気が付いた守備側はオータスの思惑通りに攻勢に出た。

 城門がゆっくりと開かれる。

 そしてそれと同時にカーライム王国内乱の最終章の幕もまた開かれたのだった。

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