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漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第2章 カーライム王国内乱編
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第67話「最大の障壁」

「お似合いです陛下」


 オータスはそのシアンの姿に対し、素直な感想を述べた。

 彼女が身に纏っているのは青を基調とした新品の鎧であった。同じ女性用の鎧でもユイナのものに比べればやや重装で露出が控えられており、地面まで届こうかというほど長いマントも相まって、総大将としての威厳を醸し出している。

 此度、いよいよコンドラッド軍はモルネスを出発する。そして途中、志を同じくする貴族諸侯の軍と合流したのち王都へと攻め上る。

 この戦は貴族同士の私闘などではない。シアンとカスティーネの玉座を巡った一大決戦である。

 シアン自身が総大将を務めるのは当然とよかった。

 しかしながら当の本人はいまだ覚悟決まらずといった表情であった。


「私に総大将など務まるのでしょうか……」


 思わず弱音を口にするシアン。

 彼女にとってこれが初陣。不安になるなというほうが無理である。

 そんな彼女にオータスは優しく語り掛けた。


「大丈夫です。陛下には前線よりはるか後方にいてもらう予定ですし、スタンドリッジ伯爵に護衛を頼んでいます。それに……」


 腰に差してある剣の鞘を撫でる。

 そして、真っ直ぐシアンの目を見つめ力強く言葉を続けた。


「自分がいます。オータス=コンドラッド、この剣に誓って陛下の元には雑兵一人行かせはしませんよ」


 この瞬間、シアンの覚悟は決まった。






 先のコボウロでの勝利と六将の加入の影響はやはり大きく、続々とオータスのもとへ志を同じくする貴族諸侯の軍が合流を果たしていった。

 その数はどんどん膨れ上がり、最終的には総勢11万にもなった。

 これだけの大軍ともなると相手も迂闊に攻めることは出来ず、特に大きな妨害も受けないままシアン軍は着々と王都までの距離を縮めていった。

 ようやく初めて戦闘が行われたのはシアン軍がハレントルナ平原と呼ばれる場所に入ったときであった。

 が、しかしカスティーネ軍はわずか3万という数であり、うち1万が開戦早々に寝返った。

 言わずもがな、この戦いはシアン軍の圧勝という結果に終わった。

 そしてその日の夜。これから王都へ向けどのような進路をいくのかを話し合うべく軍議が開かれた。


「ここから王都へと向かうにはここ、コーロの関を突破しなくてはならない」


 そう言って机上の地図に印をつけたのはスペンダー公爵である。

 彼はカーライムを代表する二大公爵が一人。王都付近の地形には当然詳しかった。


「コーロの関は王都からすれば最後の砦。当然それ相応の将を配置するだろう。まあ、ここにあの男がいるとみて間違いないだろうな」


 その公爵の言葉に場にいるほとんどが凍り付いた。

 皆、忘れていた。いや、忘れようとしていたのだ。カーライム最強の武人の存在を。


「大将軍・オウガ=バルディアス……」


 皆が沈黙する中、シャイニーヌがついにその名を口にした。

 カーライム随一の猛将・オウガ=バルディアス。彼は目的こそ不明であるが、内乱初期から早々にカスティーネ派を宣言していた。


「そんなに手ごわいのですか。その男は?」


 絶望に染まる諸将の顔を見てオータスがシャイニーヌに尋ねる。

 もちろん中央に疎い彼でもオウガの武勇にまつわる話くらいは幾度か聞いたことはあったが、それでも実際に見たことがないためいまいち実感がわいてなかった。

 シャイニーヌは答える。


「私はかつて彼と御前試合で戦ったことがあります。結果は引き分け……ということになっていますが、もし試合時間があと少し長ければ私は確実に押し負けていたでしょう」


 シャイニーヌにとってもそれは苦い思い出なのだろう。

 彼女の顔が少し陰る。

 オータスはそんな彼女の話を聞いて確信した。

 次の戦の勝敗ですべてが決まるのだと。オウガ=バルディアスこそ、シアンの玉座への道を阻む最後にして最大の障壁である、と。

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