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漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第2章 カーライム王国内乱編
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第60話「コボウロ攻防戦 ~前編~」

 コボウロの町は、高い城壁に囲まれている。

 以前は町の周りには簡素な木の柵があるのみだったが、兵数で劣る以上籠城戦は避けられないというオータスの判断の元、メルサッピ峠の戦い後大急ぎで作られたのだった。

 出入り口は南門・東門・西門の計3つ。北には険しい山が聳え立っているため、人の出入りは出来ない。

 結果、討伐軍は軍を分けそれぞれの門の破壊に当たらせることになった。

 その内訳は南門攻撃部隊2万、東門攻撃部隊2万、西門攻撃部隊2万といったもので、残りはスタンドリッジ伯爵やタランコス辺境伯からの援軍に対応するための予備兵力となった。

 その後一応形だけの開城交渉が行われたが当然決裂、こうして後に『コボウロ攻防戦』と呼ばれる戦いの火蓋が切って落とされた。





 南門攻撃部隊を率いるのは総大将でもあるキャンベラン侯爵自身であった。


「田舎町にしてはなかなか立派な城門だ。だが、この程度!衝車(しょうしゃ)を用意せよ!」


 侯爵の合図とともに衝車が姿をあらわす。

 それを妨害せんと城壁の上より矢の雨が降るが、当然それくらいは侯爵も予期していた。


「弓隊前へ!放て!」


 討伐軍よりお返しとばかりに大量の矢が放たれた。矢は放物線を描き城壁の上へと吸い込まれていく。

 本来弓は高所から地上へ撃つほうが有利なのだが、今回ばかりは数が違った。城壁の上にいた弓兵たちが次々と倒れていく。

 この隙を突き、討伐軍は一気に衝車で城門まで運ぶことに成功した。続いて門の打ち壊しにかかる。

 だが、これはあっけなく終わった。所詮は突貫工事。幾度かの衝突で瞬く間に門が破れたのだ。


「フッ、脆いな……。全軍、突撃せよ!」


 侯爵の号令と共に、衝車の背後に控えていた歩兵部隊が雄たけびを上げて町の中へとなだれ込む。

 そしてそのまま一気に町を蹂躙してしまうかに思えた。だが。


「来たな!コンドラッドの戦、存分に馳走してくれよう!」


 刹那、門の内へと入った兵たちのほとんどがその命を失った。

 南門の先に待ち構えていたもの。それはトレグル率いる200の歩兵部隊と彼らの操作する巨大な二つの連弩(れんど)であった。






 一方その頃、東門攻撃部隊もまた衝車を用いて門の突破に成功していた。

 東門攻撃部隊の指揮官はリベラナ伯爵という若く威勢の良い将であった。


「侯爵閣下より、町での略奪や凌辱は自由とのお言葉を貰っている!皆の者、存分に暴れよ!」


 その言葉に興奮しない兵などいない。大いに士気の高まった彼らは、動くマントに突進する猛牛の如く、凄まじい勢いで町へと入った。しかし次の瞬間、彼らの姿は消えてしまった。

 そこにあったのは大きな落とし穴であった。

 しかもそれはただの落とし穴ではない。中には先の尖った木が何本も刺さっており、それらはまんまとひっかかった彼らの身体を無慈悲にも貫いていた。


「くそっ!ふざけやがって!」


 だが、中には幸運にも軽傷で済んだ者もいた。

 彼らは怒りに燃え、穴から這い上がてみせる。しかしその先に待っていたのはユイナ率いる200の歩兵部隊であった。

 穴から出れた者はわずかであり、しかもそのほとんどが軽傷と言えど傷を負っている。

 彼らは瞬く間に討ち取られたのであった。





 

 ところ変わって西門では。


「ここはどこだ……」


「あれ、さっきと同じところじゃないか?」


 門を突破したはいいものの、西門攻撃部隊は完全に道に迷っていた。

 コボウロの町の西側は元より細く入り組んだ道が多く、さらにそれに加えてコンドラッド軍によって多くの障害物が設置されていた。

 その結果、ここはもはや脱出不可能な迷宮と化していた。

 西門攻撃部隊の指揮官・ダクビアン伯爵は苛立ちを募らせる。


「また行き止まりか……!ええい、もうこうなればいっそ火で燃やして……」


 伯爵がそう言った次の瞬間。

 彼は地面に倒れていた。

 額に矢が突き刺さっており、血が流れ出ている。

 近くにいた兵士たちが急ぎかけよるが、その時には彼はもう絶命していた。

 そして、兵がどこからの狙撃か確かめようと上を見上げた次の瞬間、矢の雨が降り注いだ。

 彼らは高所から射掛けやすいこの場所に誘い込まれていたのだった。

 





(よし、まずは上手くいったな。これで敵は迂闊に攻め込むことが出来ず、兵糧攻めに移行するはずだ。そうすれば長期戦になり、ミーナの援軍も間に合うはず……)


 各門の敵を撃破したとの報せを受け、オータスは思わず笑みを浮かべる。

 この時点で、すべては彼の計画通りに進んでいた。

 だが、物事とは最後まで予定通りとはいかないもので、それは此度の戦も例外ではなかった。

 翌日の朝、物見より報告を受けたオータスは絶望することになるのであった。

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