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漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第1章 モルネス居候編
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第5話「初陣」

 フェービスの野に姿を現したカーライム軍1万の総大将の名をユーウェル=スタンドリッジという。

 モルサスの南・ムーデントの領主であり、爵位はシューベルと同じ伯爵である。

 彼はいままで数々の戦を潜り抜けてきたつわものだ。かつて5倍もの兵力差を覆したこともある。

 数で劣る今回の戦で指揮をとるのは当然とも言えた。


「さてシューベル、どうするか」


「どうするもなにもお前はかつて5倍の敵を破ったことがあったではないか。此度は3倍。お前なら楽勝じゃろう?」


「そんなわけあるか。あれはマグレみたいなものよ」


「ではまたそのマグレを起こせばいいじゃろう」


「ハハッ、無茶を言わんでくれ」


 軽口を叩き合うユーウェルとシューベル。

 二人は年齢が近く領地も隣なこともあり、親交が深い。

 いままで何度轡を並べただろうか。

 ユーウェルが危機に陥ればシューベルが助け、逆にシューベルが危機に陥ればユーウェルが助ける。

 二人の関係を一言で表すのならば、『戦友』という言葉が最もふさわしいだろう。


「まあ、とりあえず事情を聞こう。もしかしたら戦わずにすむかもしれん」


 ユーウェルはそう言うとすぐさま使者を送った。

 3万の大軍で断りもなしに国境を越えるなど、どう考えても『侵略』以外に目的はないとは思うが、念のためである。

 カーライム王国とジェルメンテ王国の間には特に深い因縁などなく、むしろ関係は良好といって良かった。

 ジェルメンテにカーライムを攻める理由などあるはずはなく、もしかしたら何かの間違いということもあるかもしれない。

 戦わずにすむのならばそれが一番だ。

 だが、いつまで待っても使者が戻ってくることはなかった。

 ジェルメンテ軍総大将・シャイビット=グレオンによって斬首されたのだ。

 こうしてユーウェルのかすかな希望は打ち砕かれ、もはや戦うしか道はなくなったのである。






 戦を前に闘志をたぎらせる兵士たちのなか、ひとりオロオロとして落ち着きのない男の姿があった。

 男の名はオータス。ほかの兵士と同じく簡素な鎧に身を包んでいるが、戦の経験などないただのユイナの居候である。


「なんでこうなった……」


 オータスは思わずそう呟いた。

 非戦闘員であるはずの彼がなぜ戦場にいるのか。それは横にいるトレグルという男のせいであった。

 王宮からの出兵要請で皆があわただしく動き始めたころ、何をすればいいか分らずぼうっと突っ立っていたオータスを新兵と勘違いしたトレグルが強引に連れてきてしまったのだ。

 もちろんこのことをシューベルとユイナは知らない。


「しかしお前、新入りのくせになかなか良さげな剣を持ってるな。少々生意気だが、武器をケチらないのはいいことだ。俺も武器にはこだわっていてな、生き延びたらゆっくり武器について語らおう」


「はぁ、楽しみにしてます」


 本当は武器にこだわりなど全くないが、オータスはとりあえずそう答えておいた。

 本当のことを話すと長くなるし、なにより緊張していて雑談をする余裕などとてもなかった。

 それもそのはず、オータスにとって今回が初陣。

 それどころかいままで剣などまともに振るったこともないのだ。

 いくらどんなに剣が優れていても持ち主が使いこなせなければ意味がない。


「誰か……助けてくれぇ~」


 オータスがそんな情けのない言葉を発したその時、開戦の鐘が鳴った。

 徐々に両軍は距離を詰め、ついに激突。

 のちに『フェービスの戦い』と呼ばれる合戦が始まったのである。

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