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漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第2章 カーライム王国内乱編
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第49話「情勢のゆくえ」

 コンドラッド軍がエイヴァンス軍を討ち破った。

 この衝撃的な報は瞬く間に王国全土に広がり、それまでカスティーネ派を宣言していた貴族諸侯たちの間にも大きな動揺を与えた。

 そもそもカスティーネに従っている者たちの中で本当にカスティーネに義があると考えている者はごくわずかである。皆、流石にカスティーネの王位継承の不自然さにはもう気づいている。だがそれでもカスティーネに従っているのは、単純にカスティーネのほうが勝つ確率が高いからだ。

 カスティーネの陣営には王国を代表する大貴族・ブッサーナ=エイヴァンス。さらには王国最強の武人とうたわれる大将軍・オウガ=バルディアスがいる。それに対し、シアン王女を奉り挙兵したのは田舎の小貴族・オータス=コンドラッド。誰の目から見ても兵力差は明らか。この状況でわざわざオータスに味方するのはよほどの阿呆か自殺願望のあるやつくらいだろう。皆、誰もがそういう認識であった。

 だが、状況は変わった。モルネスに侵攻したエイヴァンス軍は大敗を喫し、その大将であったブッサーナもその命を落とした。それは誰もが予想しなかった展開であった。

 自分は乗る船を間違えてしまったのではないか。彼らにそんな気持ちが芽生えたのは言うまでもない。そして、次にこう考えるのだ。

 今からでも鞍替えすれば間に合うのではないか、と。

 だが、この状況を放っておくほどカスティーネも愚かではなかった。





 メルサッピ峠の戦いから5日後。カスティーネの命により、王宮の広間には数多のカスティーネ派の貴族たちが集められた。

 この中には既に陣営の鞍替えを密かに企んでいる者たちも多くいる。裏切るその瞬間まではカスティーネに従う素振りを見せておこうという腹積もりであった。

 そんな忠臣と逆臣の入り混じった不思議な空間に張りのある大声が響き渡る。


「静粛に!カスティーネ=ハンセルン=カーライム陛下の御出座(ごしゅつざ)である!」


 声の主は宰相・バイロン=グロワーズであった。

 彼の言葉に貴族たちは一斉に平伏する。

 そして静寂が広間を包み込んだかと思うと、貴族諸侯の前に一人の男がゆっくりと姿を現した。

 赤を基調とした遠目から見ても上質と分かる服。飾りの豪華な王冠を頭に被り、口には整えられた髭を蓄えている。

 この髭はまだ王子のころにはなかったものだが、国王となった際に威厳を出すために生やし始めた。その効果かどうかは定かではないが、少なくても王子のころに比べればその見た目は立派に思える。

 若き王は静かに玉座に腰かけると、少しの間を挟み、その口を開いた。


「皆の者、(おもて)をあげよ」


 その言葉を合図に貴族たちが一斉に顔をあげる。

 そして王は臣下たちが皆自分のほうを向いたのを確認してから、こう語った。


「メルサッピ峠での戦いの顛末は既に皆聞いていると思う。エイヴァンス公爵のことは誠に無念であった。だが、今は悲しみに暮れている時ではない。こうしている間にも奴らはこの王都を攻め落とすべく策を練っているだろう。そこで、だ」


 カスティーネはそこで言葉を区切ると、隣にいる宰相に目で合図をする。

 バイロンは無言で頷くと一歩前に出て、手に持っていた書状を読み上げ始めた。


「これより、シアン=ハンセルン=カーライム、オータス=コンドラッド、ユーウェル=スタンドリッジ、トニーボ=タランコスの4名を正式に朝敵と見なす。コンドラッド家、スタンドリッジ家、タランコス家の領地はそれぞれ没収とし、その地は彼らの首を見事取った者に褒美として与えることとする。また、ブリーデイン伯爵家、バウクレー伯爵家、ダオルト伯爵家、オルセイン子爵家には彼らに兵糧や金銭を援助した疑いがある。5日後の正午までに上洛し、事情の説明がなかった場合は彼らと同罪とみなし、討伐対象に含める。そして……」


 バイロンはそこで一旦間を置き、眼光を一層鋭くしてこう続けた。


「討伐に消極的であった者、あるいは、まさかいないとは思うがこれより後に敵に加担しようとした者にはより一層重い罰が与えられることになる」


 重い罰、という極めて抽象的な言葉。

 だが、それを聞いていた貴族諸侯にはその内容が容易に想像できた。

 彼らの頭に浮かんだのはヘイドリス男爵家の惨劇であった。

 オウガ=バルディアスによって男爵が討たれた後、カスティーネはその領地のことごとくを焼き払うよう命じた。

 それだけでも十分むごいのだが、彼はそこから逃げ出した者たちを一人残らず捕らえると、拷問の末、晒し首にしたのだ。

 その中には女、子供のものもあったといい、実際に手を下した兵士たちの中には涙を浮かべていた者もいたという話だ。

 すなわち、バイロンの言葉には『ヘイドリス家の二の舞になりたくなければ、おとなしく討伐の命に従え』という脅しが含まれているのだ。

 そしてこの脅しは、鞍替えを目論んでいた貴族たちの決意を揺るがせるには充分であった。

 結果、カスティーネの陣営を裏切った者の数は、オータスの予想を大きく下回ることとなった。

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