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漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第2章 カーライム王国内乱編
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第46話「メルサッピ峠の戦い ~前編~」

「いやはや、策は大成功ですな」


 味方の優勢を馬上から見下ろしながら、タランコス辺境伯は思わず笑みを浮かべる。

 一方でその隣に轡を並べるオータスは表情一つ変えず、ただ静かに漆黒の剣を掲げた。

 そして少しの間があって、オータスは叫んだ。


「突撃!!!」


 総大将の号令と共に駆け出した兵たちは、雄たけびを上げながら伏兵によって混乱している敵軍へとなだれ込む。

 オータス達のほうが高所に布陣していたこともあり、その勢いはすさまじい。エイヴァンス軍は瞬く間に蹂躙されていった。





 時は少々遡る。


「まず、籠城はなしです」


 軍議の席にて、オータスは開口一番こう言った。

 その予想外の言葉に皆首をかしげる。

 寡兵で大軍を相手にする場合、籠城をするのが一般的である。王国の過去の戦を見てみても、それで戦力差を覆し勝利した例は少なくない。

 だが、そのこともオータスは理解しているようで、言葉をさらに続けた。


「いや、本当なら自分もこの屋敷に籠っていたいんですがね。実はこの屋敷、籠城向きではないんですよ。取り囲まれたらおそらく一日、いや半日で陥落するでしょう」

 

「なるほど。確かにモルネスはいままで戦とは無縁であった。遠征に参加することはあっても敵に攻め込まれるような事態はなかっただろう。少なくとも俺が生きている間には一度もなかった。だとすれば籠城を想定した設備なんざあるわけないわな」

 

 そう言ってスタンドリッジ伯爵が納得したように頷く。

 他の者たちも表情を見る限り納得したようであった。

 オータスはその様子に安堵し、いよいよ具体的な策の説明に入る。


「というわけで撃って出るわけですが、まあ正面からぶつかり合っても勝ち目はないでしょう。ということで、軍を本隊と別動隊の二つに分けます。本隊は自分とタランコス辺境伯が、別働隊は戦経験豊富なスタンドリッジ伯爵に率いてもらいます。決戦の地はここ、メルサッピ峠」


 地図の一点に印をつけ、そしてそこに自軍を意味する駒と敵軍を意味する駒をいくつか配置する。


「本隊は山頂に峠を登ってくる敵軍を見下ろす形で布陣。また本隊からやや兵を割き、森の中に伏せます。伏兵部隊の指揮は我が軍のユイナとトレグルに。峠道を登ってきた敵軍を左右からの伏兵で挟撃、混乱したところを本隊が一気に斜面を駆け降り突撃し、蹂躙する。そして敵が退き始めたら、別働隊の出番です。別動隊はムーデントより出発し、敵に気づかれないよう大きく迂回して退路を塞ぐ。以上が私の考えた策です。各々いかがでしょうか」


 地図と駒を用いたその丁寧な説明は皆の脳裏に鮮明な戦場の姿を思い浮かばせ、策の現実味を増させた。

 一見、この策は完璧なように見える。現に反論は一切出ることはなかった。

 だが、この策には一つ致命的な問題があった。それは、策がメルサッピ峠でぶつかることを前提に描かれているということ。すなわち、エイヴァンス軍をメルサッピ峠におびき出さなければならないのだ。

 しかし、その心配もオータスは乗り越えて見せる。

 エイヴァンス軍のシャッカポル平原への誘導。時間稼ぎが主な理由であったが実はこれにはもう一つ目的があった。

 シャッカポル平原からコンドラッドの屋敷へと向かうには来た道を戻らぬ限りメルサッピ峠を通過するのだ。

 そしてオータスの目論見通り、エイヴァンス軍はメルサッピ峠へと進軍した。

 また、手紙の最後に「屋敷を枕に討ち死にすることも辞さない」と添えておいたのも功を奏した。これは籠城前提で策を考えていると、相手に錯覚させるための一文であった。その結果、ブッサーナは伏兵への警戒を怠ることとなる。

 そう、勝負はすでに開戦前から決まっていたのであった。

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