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漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第2章 カーライム王国内乱編
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第45話「開戦」

 シャッカポル平原からコンドラッド家の屋敷があるモルネスの中心街へと向かうには二つの方法がある。一つは来た道を戻り、整備された街道を通って向かうというもの。もう一つはそのまま平原を横断し、険しい山道を通って向かうというものだ。

 前者は安全で確実だが、来た道を一度戻らなければならないためその分の時間がかかる。一方、後者は途中で山賊や魔物に遭遇する危険が高まるものの、目的地へ向けてほぼ直線距離なため街道に沿って行くよりも早く着くことが出来る。

 そして、総指揮官・ブッサーナ=エイヴァンスが選んだのは後者のほうであった。


「これ以上敵に時間をやるわけにはいかん!それに2万の軍勢を前に手を出してくる賊や魔物もおらんだろう」


 ブッサーナのその言葉からは大きな焦りが感じられる。

 それもそのはず、すでにエイヴァンス軍はオータスの計略に嵌って数日ほど無駄にしてしまっている。つまりその分オータス達に屋敷の防備を固める時間を与えてしまったということだ。

 敵に時間を与えれば与えるほど苦しむのは自分たちである。少しでも早く目的地に布陣したいと考えるのは至極当然と言って良い。

 だが、彼はこの時あることを見落としていた。そして彼がそれに気づくのはもう少し後のことであった。






 見通しの良いシャッカポル平原を抜け、両側面を木々に覆われた暗い山道へと入ったエイヴァンス軍。

 案の定道幅は狭く、また小さな石や木の枝などが多く転がっているため歩きにくいが、それでも人や馬がまったく通れないというほどではない。

 もちろん多少の進軍速度の低下はあるが、それでもこの調子でいけば街道沿いに行くよりも確実に早く目的地に着くと思われた。


「急げ急げ!風のごとく進軍せよ!」


 そう言って兵たちをさらに急がせるブッサーナ。もっとも彼自身は輿に乗っているからいいが、実際にその悪路を己の足で歩く雑兵たちからすればたまったものではない。

 そんな相変わらず配下への配慮が足りぬ主の姿に副官のジームが小さくため息をついた、その時であった。

 それまで順調に進んでいたエイヴァンス軍に異変が起きる。


「敵襲!敵襲だ!」


 辺り一面に響き渡る雑兵たちの悲鳴。こげ茶色だった地面がみるみるうちに赤く染まっていく。

 エイヴァンス軍は突如、両側面より襲撃を受けたのだった。


「な、なんじゃ!山賊か!それとも魔物か!」


 不測の事態にブッサーナは取り乱しながら、副官に状況の説明を求める。

 ジームはこんな時だけ自分を頼るのかと半ば呆れつつ、主の質問に答えた。


「恰好や数から見て、コンドラッド軍かと思われます。おそらくあらかじめこの森に兵を伏せてあったのでしょう」


「そんな馬鹿な!」


 信じられないといった表情のブッサーナ。だが次の瞬間、嫌でも信じざるをえない決定的な報告が彼にもたらされる。


「伝令!前方に敵影を発見!数は3000~4000!軍旗からコンドラッド伯爵とタランコス辺境伯の軍と思われます!」


 それを聞いた瞬間、ブッサーナは膝から崩れ落ちた。

 後にその地名から『メルサッピ峠の戦い』と呼ばれることになるこの戦いは、コンドラッド軍の圧倒的優勢で幕を開けた。

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