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漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第2章 カーライム王国内乱編
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第40話「決断」

 コンドラッド家にシアン王女が落ち延びてきた翌日、オータスは早速屋敷の広間に主だった家臣たちを集めた。

 シアンの要請にこたえるか否かを皆で話し合って決めるためである。

 オータスは全員集まったのを確認すると、静かに口を開いた。

 

「皆、昨晩のことはすでに聞いていると思うが……実は先ほど王宮から使者がやってきた。彼が言うには『シアン姫殿下は父・イーバン王を殺害した謀反人であり、王宮にてきちんと裁かねばならない。エイヴァンス公爵が軍を率いてモルネスへと向かった故、すぐさま彼女の身柄を公爵に引き渡すべし。もしそれを拒むようならば、コンドラッド家も謀反に加担したと判断する』とのことだ」


 オータスのその言葉に家臣たちはざわつきはじめる。

 いままでここモルネスは辺境に位置するということもあり、中央での争い事とはほとんど無縁であった。それがいまやその中心となろうとしている。彼らの反応は当然と言ってよかった。

 だがそんな中、家臣団の中にあってたった一人だけいたって冷静な男がいた。

 男の名はトレグル。コンドラッド家きっての猛将で、オータスが当主となった現在は重臣たちのまとめ役的存在となっている。

 彼は野太く大きな声でオータスに尋ねた。


「して、殿はいかがするおつもりですか。王宮の言葉を信じて、おとなしく姫殿下の身柄を差し出すのか。あるいは姫殿下の言葉のほうを信じ、挙兵するのか」


 トレグルはそういうと、まっすぐオータスのほうを見つめた。

 まわりの家臣たちも彼の言葉でようやく冷静さを取り戻し、オータスの答えを待つ。

 オータスは彼の機転に心の中で感謝しつつ、その問いに答えた。

 

「俺はシアン殿下のほうにこそ義がある、と考えている。だが、義があるからと言って、戦に勝てる保証はどこにもない。いや、むしろ兵力差から言って勝ち目はかなり薄いと思う。もしこの戦に負ければこのモルネスの地は蹂躙され、多くの民が死ぬこととなるだろう。お前ら自身やその家族にも当然危害が及ぶ。そう考えると、俺だけではとても決めきれなくてな。それ故こうして皆に意見を聞こうと思ったのだ」


 そう語るオータスの表情は真剣であった。

 それもそのはず、これは今後のコンドラッド家の行く末を決める大事なこと。真剣でないはずがない。

 だが、そんな彼とは対照的にそれを聞いたトレグルはガハハと豪快に笑いだした。

 トレグルだけではない。他の重臣たちもみな笑みを浮かべている。

 これにはオータスも少し腹立たしさを覚え「なにがおかしいんだ」と尋ねると、トレグルは笑いを必死にこらえながらこう言った。


「いやいや、失礼。本当に心優しい方だと思いましてな。やはり大殿の目に狂いはなかった。貴方様の心にその優しさがある限り、このトレグル、どこまででも付いていきましょう!」


 そしてトレグルは深々と首を垂れた。

 ほかの将たちも心は同じようでこれに続く。


「私もただ伯爵様についていくまで!貴方様の決めたことならば異存などあるはずがありませぬ!」


「ああ、まったくもってその通り!俺らのことなど気にせず、殿のお好きなようにすればいい!」


 オータスはその予想外の反応に思わず目を丸くした。


(なんでみんなはこの俺のことをここまで慕ってくれるんだ。俺みたいな素性も知れない者を何で……)


 どうしたらいいかわからずただ茫然としているオータスに、それまで黙って隣に控えていたユイナが優しく彼に語り掛ける。


「彼らだけじゃない。民も兵士もみんな貴方のことを信じてる。もちろん私も。それは、いままでの貴方の行いがあってこそ。だから自信を持って。あなたは私たちの大将なんだから」


「しかし、俺はまだシアン殿下とカスティーネ殿下、どちらに味方するか決めていないぞ。だからこうしてみんなに聞こうと思ったわけで……」


「ううん、本当はもうオータスは答えを決めているはずだよ。シアン殿下が助けを求めたその時から答えは決まっていたはず。さあ、下知を」


 ユイナはポンッと軽くオータスの背中を叩いた。

 彼女の手のぬくもりが全身に伝わってくる。そしてそれと同時に不思議と勇気が湧いてきた気がした。


(そうだ。はじめから答えは決まっていたんだ)


 ついに覚悟を決めたオータスは一歩前に踏み出すと、目の前の忠臣たちに向かって高らかに宣言した。


「これより我らコンドラッド家はシアン姫殿下にお味方いたす!姫殿下にあらぬ罪を着せ、王都を思うがままに占拠する大罪人・カスティーネ=ハンセルン=カーライムを我らの手で討ち果たすのだ!」


 その力強い言葉に家臣たちは一斉に歓声をあげた。

 こうしてオータス=コンドラッドの長く苦しい戦いは幕を開けた。

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