第34話「真相」
オータスは熟慮の末、まずはシアンからより詳しく話を聞くことにした。
オータスとしては二つ返事で彼女の力になってやりたいところだったが、彼の立場がそれを許さなかった。
オータスはいまやモルネスの領主で、伯爵位を持つ立派な貴族である。すなわち、もしオータスが行動を起こすとなれば、それはこのカーライム国内における内乱のはじまりを意味する。
そうなれば敵味方問わず多くの兵が命を落とし、民たちの平穏な暮らしが脅かされることになるのは容易に想像ができる。
そんな重大なことを簡単に決めていいはずがない。
また、実はカスティーネ王子のほうの言い分が正しく、王座を奪うべくシアンが伯爵となった彼を利用しようとしているという可能性も否定できない。
もちろん、オータスは彼女がそんなことを企むような人でないことは知っている。共に過ごした時間は決して長くはなかったが、彼女の人となりについては十分に理解したつもりだ。
だがそれでも、現在謀反人である彼女の言葉を即信じるというのはあまりに危険であった。
そこで、王の死について彼女の口からより詳しい話を聞くことで、彼女の言葉が嘘偽りでないことを確認しておきたかったのだ。
シアンもそんな彼の意図を察したようで、イーバン王崩御の真相をより詳しく説明してほしいというその要求を快く了承、やがてはっきりとした丁寧な口調でそのときのことを語りだした。
シアンがイーバン王から突然呼び出されたのはもう陽も暮れすっかり暗くなった頃であった。
一体何の話か見当もつかなかったが、場所は玉座の間でも執務室でもなく彼の自室であることからあくまで内密な話であるということだけは予想することが出来た。
「失礼します」
そう言って、彼女が王の部屋の戸を開けると、そこには二人の人物がいた。
部屋の主・イーバン=ハンセルン=カーライムとその嫡男・カスティーネ=ハンセルン=カーライムである。
そこで彼女は初めて自分のほかに兄も呼ばれていたことを知った。
「お父様、お話というのはなんなのでしょうか」
シアンは兄の横の椅子に腰かけると、早速父に尋ねた。
だが父は一言「急かすな」とだけ言うと、従者にシアンの分の紅茶を用意させる。
もちろん父と兄の手もとにも紅茶はあり、それはつまり話が長くなることを意味していた。
やがて父は従者を退室させ、部屋の中を親子三人だけにする。そしてようやく彼はその口を開いた。
「突然呼び出してすまなかったな。今回お前らを呼んだのは……私の死んだ後、誰にこの国を任せるかを伝えるためだ」
彼の口から飛び出したのは二人を驚愕させるあまりに衝撃的な言葉であった。
たしかにイーバン王はすでに齢62。後継を決めてもおかしくない歳だ。
だが、イーバン王には子は二人しかおらず、それもそのうち片方は女性である。過去にカーライム王国において女王の存在がないことから考えても、次代の王はすでに決まっているようなものであった。
もちろん王族と結婚した貴族など、王位継承権を持つ者は他にもいないことはないのだが、それでも実の息子のカスティーネよりは当然順位は低くなる。
だから、彼以外の名が王の口より告げられることはまずない、はずであった。
しかし、王はそんな大方の予想を大きく裏切る。
「ずっと悩んできたが、わしはついに決めた!次代の王は……シアン。お前だ」
「え?」
シアンとカスティーネの口から同時に驚きの言葉が漏れる。
そして、彼の心に明確な殺意が芽生えたのはまさにこのときであった。
この王の決断こそが一連の事件の全てのはじまりとなる。




