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漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第1章 モルネス居候編
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第30話「墓前にて」

 シューベル=コンドラッドが亡くなったのは、オータスに家督を譲ってからわずか数日後のことであった。

 その最期は、まるでこれから眠りにつくかの如く安らかなものであったという。

 シューベルの遺体は家臣たちによってコンドラッド伯爵家代々の当主の墓があるガルシュ山に丁寧に埋葬された。

 そして、その墓にはしばらくの間、家臣・領民問わずモルネスに住む多くの者たちが訪れ、祈っていった。

 その中には新当主であるオータスの姿もあった。


「モルネス領主……自信はありませんが、なんとかやってみます。記憶を失って彷徨っていた俺を助けてくれた恩義も返せませんでしたしね」


 オータスはそう呟いて照れくさそうに笑うと、墓の前に酒を置く。

 シューベルが生前好んで飲んでいたものである。


(そういや、シューベルさんとは酒酌み交わしたことなかったな……。まさかこんな早く逝っちまうとは思いもしなかったからな……)


 シューベルはオータスのことを気に入っていたし、オータスもシューベルのことは嫌いではなかった。

 きっと一緒に酒を酌み交わしていれば、すぐに意気投合したことだろう。

 オータスはシューベルともっと話せばよかったと心の底から後悔した。





 オータスが屋敷に戻ると、執務室の机の上に大量の書類が置かれていた。

 それだけではなく、その横にはもう一つの分厚い書類の束を持ったユイナの姿があった。


「もしかしてそれって……」


「はい、お察しの通り新たな伯爵様へのお仕事です」


 そうニッコリと満面の笑みで答えるユイナに、オータスは思わず顔を引きつらせる。

 オータスはすかさず踵を返そうとした。

 だが、時すでに遅し。退路はすでにトレグルによってふさがれていた。

 ユイナとトレグルに挟まれた形となってしまったオータスにもはや逃げ場などない。

 結局オータスはしぶしぶ席に着き、書類に目を通し始めたのだった。






 一方、その頃。

 使者としてスタンドリッジ家へ行っていたシアンが無事王都へと帰還。玉座の間にて国王と謁見を果たしていた。


「ほう。つまりはスタンドリッジ伯爵はこたびの息子の愚行、気にしていないのだな?」


「はい。これからも変わらずカーライム王家を支えていくとお約束いただきました」


「そうかそうか。大儀であったなシアン」


 イーバン王は上機嫌であった。

 理由は二つ。スタンドリッジ家が変わらぬ忠誠を誓ってくれたことと、シアンが初めての大役ながら見事こなしてきてくれたことである。

 イーバン王はシアンにひとしきり称賛の言葉を贈った。

 いまこのとき、王の中でシアンに対する信頼度はカスティーネへのそれを大きく上回ったのであった。

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