第28話「仮面の指導者」
ジェルメンテ王国北方・ダヤーン平原。
青々とした草原が広がるこの地に、彼らは陣地を作っていた。
彼らは数日前に突如大軍で国境を突破、迎え撃つ辺境伯の軍を瞬く間に壊滅させると、近隣の村々を略奪しつつ南下、そしてダヤーン平原まで来たところで歩みを止めた。
彼らはいまこの平原で休息をとっていた。
ランゲ族。それが彼らの名称だ。
ランゲ族はジェルメンテの北に住む遊牧民族で、とても武勇に優れ、気性の荒いことで有名だ。
いままでも度々略奪のためにジェルメンテに攻め込んだことはあったが、いずれもジェルメンテの精鋭たちに撃退されている。
しかし、今回ばかりは訳が違った。
彼らのもとに強力な指導者が現れたのだ。
指導者の名はビサーム。
黒いフードを目深にかぶり、さらに顔には白い仮面を着けた不気味な男だ。
彼はある日突然姿を現すと、当時の族長を殺し、「我こそが新たな族長である」と宣言したのだ。
もともと強い者こそが族長にふさわしい、という風潮がランゲ族にはあり、彼はすぐに受け入れられた。
そして、新たに指導者となったビサームが手始めに行ったのがこのジェルメンテ侵攻であった。
「報告!敵軍約3万、こちらへ向かってきております!いかがいたしますか!」
見張りをしていた兵の一人がビサームに敵の来襲を伝えた。
ジェルメンテ軍は3万。それに対しランゲ軍はその半数にも満たない。
しかし、ビサームはその報告を聞いても動揺する素振りは一切ない。
彼は静かに立ち上がると、腰の剣を抜きこう言った。
「知れたこと。攻めてきたならば、たたき潰すまで」
彼のその言葉に兵たちは奮い立った。
結局、戦はランゲ軍の完全勝利。
平原にジェルメンテ兵の無惨な屍が無数に残る結果となった。
数の差など、圧倒的武勇を誇るいまの彼らにとっては全くの無意味であったのだ。
一方、ムーデントのスタンドリッジ邸にいるオータスはそのスタンドリッジ伯爵より呼び出しを受け、伯爵の執務室にいた。
「火急の話とは何でしょうか」
オータスは伯爵におそるおそる尋ねる。
しかし、伯爵はなにも答えない。
「もしかしてその話ってのは悪い話でしょうか?」
伯爵の顔が明らかに暗い。
その話がオータスにとっても、伯爵にとっても悪い話であることは容易に想像できた。
部屋全体に緊張感ある空気が漂う。
しばらくして、伯爵はゆっくりと、言いづらそうにその口を開いた。
「実はな、さきほどモルネスから使者が来た。その使者によると……シューベルの奴が倒れたそうだ」
にわかには信じ難いその言葉に、オータスは思わず絶句した。




