第27話「ぬいぐるみ」
オータスとシアンの2人はまず大通りの露店をめぐり、食べ歩きを堪能した。
当然そこに並ぶのは城で出るものに比べればあまりに貧相でお粗末なものばかり。
だが、彼女は気にする様子もなくそれらを美味しそうに頬張った。
「もしかしたら私、お城の味付けよりもこっちの味付けのほうが好みかもしれないです」
「そうか。気に入ってもらえたようでなによりだが……そのセリフ、城の料理人が聞いたらたぶん泣くな……」
庶民の味に舌鼓を打つ王女に、オータスは思わず苦笑した。
次に2人が訪れたのは雑貨屋だった。
そこは女性向けの小物が多く置かれた洒落た店で、シアンは興味深そうに店内の商品を見まわす。
「わ~、これ可愛い!」
彼女が注目したのは小さなクマのぬいぐるみだった。
だが、そのぬいぐるみは確かにとても愛くるしい見た目をしているが、値段も安く、生地もいささか安っぽい。
「こんなんが良いのか?」
「はい!!!」
シアンは完全にそのぬいぐるみの虜になってしまったようで、ぬいぐるみに話しかけたりして遊んでいる。
そんな子供じみた彼女の行動にオータスの頬も思わず緩む。
「えらく気に入ったみたいだし、そのくらいなら俺が買ってやるよ」
「え?いいんですか!」
「ああ。丁度いま金持ってるしな」
そう言って本来ならばいかがわしい店で使うはずであったそのお金を支払った。
結局、2人はその後も様々な店をめぐり、屋敷へと戻ってきたのは陽もすっかり暮れた頃であった。
「オータスさん、今日はありがとうございました!私、とても楽しかったです」
「そりゃよかった。俺も楽しかったよ……で、だ」
オータスは屋敷の入り口のほうに目を向ける。
そこにはシアンのお付きの女官や護衛の兵士たちがずらりと並んでおり、皆オータスを睨んでいた。
そしてそのうちの一人の髭を蓄えた壮年の兵士が一歩前に出て、オータスに言った。
「オータス殿、これはどういうことかお話し願えますね?」
「は、はい……」
その後、オータスは個室に連れていかれみっちりと事情聴取を受けた。
だが幸いにもその兵士はオータスの言葉を簡単に信じてくれたため、オータスが危惧していたようなことにはならなかった。
(話が分かる人で助かった……疲れたし、今日はもうさっさと部屋に戻って寝よう)
そんなことを考えながらオータスが自分の部屋に戻ると、扉の前に一枚の紙が落ちているのに気が付いた。
なんだこれ、と紙を拾い上げる。
するとそこには
『ぬいぐるみ、大事にしますね』
と短く書かれていた。
おそらくお付きの人の目を盗んでこっそりシアンが置いていったのだろう。
オータスはその紙を丁寧に畳んでポケットにしまった。




