第23話「一騎打ち」
ヤンド城砦正面での戦闘は苛烈を極めた。
まず、カーライム軍が馬蹄を轟かせて勢いよく敵陣に斬り込んだ。
先頭を駆けるは六将が一人・シャイニーヌ=アレンティア。
美しい容姿からはとても想像がつかないが、彼女はカーライム一の剣の使い手である。
その証拠にイーバン王から騎士の頂を意味する『聖騎士』の位をもらっている。
そして、彼女の後ろに続くのは王国最強とうたわれるアルネス騎士団。
みな数多の戦場を駆け抜け、そのたびに武功を積み上げてきた猛者たちだ。
ジェルメンテ兵も精強と言われているが、彼らに比べればはるかに劣る。
もし、何もない平原で両軍が戦えば、勝つのは騎士団のほうだろう。
だが、残念なことにここは平原ではない。
「放て!」
突如頭上からそんな声が聞こえたかと思うと、激しい矢の雨が降り注いだ。
ジェルメンテ軍は道の両脇の崖上にそれぞれ弓兵隊を500ずつ配置していたのだ。
カーライム軍は上空から来る無数の矢に怯え、来た道を戻ろうとするだろう。
だが、軍を転進させるには城砦前の道はあまりに細すぎる。
結果、矢の雨から逃げる兵と罠のことを知らずに城砦へと向かう兵とが道の途中で激突、カーライム軍は戦どころではなくなり、城砦から打って出たジェルメンテ兵によって蹂躙されることとなる。
それはこのヤンド城砦の複雑な地形を巧みに利用した策だった。
だが、その策が実ることはなかった。
なぜならば、その矢の雨はカーライムの騎士たちの大楯によってそのほとんどが防がれてしまったのである。
(やはり敵は崖上からの一斉射撃にでたか。ケルビン卿のおっしゃっていた通りだったな)
シャイニーヌは心の中で老魔術士に感謝すると、馬の腹を蹴り、叫んだ。
「馬を止めるな!次の矢が来る前にここを一気に駆け抜けるんだ!」
カーライム軍は一気にその細い道を走り抜ける。
そして、ついにヤンド城砦の正門を視界にとらえた。
さらに、門の前にいる一人の大男の存在にも気が付く。
「我が名はゲプラー!この城砦の主より正門の守備を任された!ここから先は一兵たりとも通さぬぞ!」
その大男は己の名を叫ぶと、得物である大剣を背中から抜いた。
彼からあふれる圧倒的なまでの威圧感に、カーライム兵はみな歩みを止める。
だがそんな中、一人だけまったく怖気づかない者がいた。
怖気づかないどころかその者は腰の剣を抜くと、静かにゲプラーの前に立った。
その眼は明らかな戦意に満ちている。
「私はシャイニーヌ=アレンティア。そこを通させてもらうぞ」
シャイニーヌはそう言うと、己の身体の2倍近くもあるであろうその男を睨み付けた。
だが、それはゲプラーからすれば小動物の威嚇行動程度にしか見えなかった。
「小娘如きが俺を倒す気でいるとは……笑わせる!」
ゲプラーはそう言うと、シャイニーヌにとびかかった。
巨大な体をしながらも、その動きはかなり速い。
一方、シャイニーヌは不意を突かれ、反応が少し遅れた。
ゲプラーは勝利を確信する。
彼の重い一撃は見事シャイニーヌの頭を二つに割るかに見えた。
だが。
パキーン!
高い金属音が響いた。
はじめは何が起きたのかわからなかったゲプラーだったが、次第に状況を飲み込んでいく。
彼の手元の大剣は半分の長さしかない。
もう半分は彼方に突き刺さっていた。
シャイニーヌはゲプラーの一撃を防いでみせたのだ。しかも彼女は防ぐだけでなく、反撃もした。
ゲプラーの大剣が二つに分かれているのがそのなによりの証拠である。
つまりそれはシャイニーヌの剣の威力がゲプラーのそれを大きく上回っていたことを意味する。
しかも彼女の剣はかなり速い。
なにせゲプラーが折れた剣先を見るまで反撃を受けたのに気が付かなかったほどだ。
「そんな馬鹿な……!」
先ほどまで余裕たっぷりだったゲプラーの表情が一変する。
彼の顔からは恐怖の色がうかがえた。
「こ、降参だ!俺の負けだ!だから殺さないでくれ!」
必死に助けを懇願するゲプラー。
その姿はあまりに醜い。
当然騎士であるシャイニーヌがそれを許すはずがなかった。
その後、ジェルメンテの猛将はカーライムの女騎士によって斬られた。




