第14話「宮廷魔術師」
魔物。
それは人でもなく獣でもない異形のもの。
彼らは獰猛で人を襲う。
だが、普段は山や森の奥深くに生息し、めったに出会うことはない……はずであった。
「なんでこうなるんだ……」
オータスは己の置かれている状況に思わずため息をついた。
彼の前にはオークと呼ばれる魔物が5匹いた。
はじめは1匹だけだったのだが、それを倒すのに手こずっている間に草むらから続々とその仲間達が出てきたのだ。
弓、槍、剣、斧、鎚矛。種類は違うがそれぞれ武器を人と同じように器用に操っている。
だが、人と違うところが一つある。
それは力だ。
オークたち、いや魔物と呼ばれる生き物のほとんどは人を大きく上回る身体能力を持っていた。
その証拠に賊の襲撃でただでさえ少なくなっていた兵たちは、さらにその数を減らしていた。
(まずいな……このままじゃ……)
このままでは全滅するのも時間の問題。
オータスの額に嫌な汗が流れる。
と、その時であった。
突如、オータスの背後からなにか球状のものが飛んできた。そしてそれがオークの身体に命中したかと思うと、次の瞬間には目の前に居たはずのオークはただの炭の塊となっていた。
(火の玉……?)
一瞬でよくわからなかったが、背後から飛んできたそれは確かに火の玉のように見えた。
なにが起きたのかいまいち分らぬオータス。
振り返るとそこには一人の少女の姿があった。
年はユイナと同じくらいかそれより少し下だろうか。まだ顔にはどことなく幼さがあった。
「もしかして今のをあんたが?」
「はい。ほんとはもっと早くに援護したかったのですが、まだ不慣れで少々詠唱に手間取ってしまいました」
そう言って少女は可愛くぺろっと舌を出した。
その姿はなんとも可愛らしいのだが、何人もの人が死んでいるというこの緊迫した状況にはふさわしくない。
オータスは思わず顔をしかめた。
それに少女も気付いたようで、彼女は慌てて謝罪する。
「はわわ……!申し訳ございません!もう、私ったら……!」
彼女はそう言うと今度は自分の頭をこつんと叩いた。
その姿はとても可愛らしいのだが、やはりこの状況にはふさわしくない。
(こいつ、わざとやってるんじゃないだろうな……)
オータスは彼女に内心苛ついたが今は時間がない。
すぐに心を落ち着けるとまだ健在な残りのオークに目を向ける。
「あんた、まださっきの火の玉みたいの出せるのか?」
「はい。でも詠唱にはかなりの時間が……」
「わかった。なら、それまでは俺が奴らをなんとか食い止める。だからその間に詠唱を!」
「わ、わかりました!」
彼女はそう言うとブツブツとなにか唱えだした。
それを確認したオータスはオークのもとへ突っ込む。
そして、漆黒の剣を力いっぱいに振るった。
オークが全て黒焦げになったころには日はもうかなり傾いていた。
山々の間から差し込む夕日の光が地に転がる数多の骸を照らす。
生き残った兵たちはわずか片手で数えられるほどであった。
「ふぅ……今回もなんとか生き残れたな」
激戦を辛くも生き残ったオータスは安堵のため息をつく。
オータスは力尽き地面に座り込んでいた。
そしてその隣には火の玉を扱ってオータスを援護していた少女が同じように力尽き地面に座り込んでいる。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名はマイン。こう見えて宮廷魔術師なんですよ!」
マインと名乗った少女はそう言うとえっへんと言わんばかりに自慢げに胸を反らす。
面倒くさそうなのであまり関わらないようにしようと思っていたオータスだったが、さすがに相手に名乗られたからには自分も名乗らないわけにはいかない。
「俺はオータスだ」
簡潔で無駄の一切ない挨拶。
だがそれにマインはどこか不服なようでプクゥと頬を膨らませた。
(相変わらずあざといなこいつ……)
そんなことを考えたその時。
ふと、あることに気付く。
「ん……?あんた今、宮廷魔術師って言ったか?」
「ええ、言いましたけど……」
「なんで宮廷魔術師なんて地位の奴がここにいる!確かにあのお嬢さんは気品があっていいとこの出っぽいが、さすがに宮廷の人を従えてるってのはおかしいだろ」
「あはは、なに変なこと言っているんですかもう!姫殿下に宮廷の者が付き従うのはあたり前のことじゃないですか!」
そう言って笑うマイン。
このとき、はじめてオータスは自分の今までしていた勘違いに気付いたのだった。




