第13話「カーライムの大将軍」
カーライム王国の南方。
この地で一つの戦が行われていた。
いや、これは戦ではない。虐殺と呼ぶにふさわしい。
それほどまでに一方の軍がもう一方の軍を圧倒していた。
この戦のそもそもの発端はフェービスの戦いのときまで遡る。
西方でユーウェル率いる西方貴族諸侯軍とジェルメンテ軍が激闘を繰り広げていたとき、それにタイミングを合わせるかのようにこの南方では反乱が勃発した。
その反乱軍を率いるはグリーウェイル候爵。カーライム南方に大領土を持つ国王からの信頼も厚かった男だ。
だが、彼は野心家であった。西方での混乱に乗じ、王の座を狙おうと挙兵したのである。
しかし、そんな彼の野望も今費えようとしている。
ある男の圧倒的な力によって。
「フン。この程度の力で謀反とは……笑わせる」
男はそう呟くと目の前の雑兵どもを一瞬でなぎ払った。
よく鍛えられた肉体、鋭く殺気立った目つき。手には血を大量に浴びた大槍が握られている。
そしてなにより注目すべきはその男の背丈だ。
男は並みの倍はあろうかというほどの巨体であった。
どんな屈強な戦士も彼のその出で立ちと圧倒的な威圧感を前に思わず腰を抜かしてしまうだろう。
現に戦場の最前線にいるというのに、男の身体にはかすり傷一つなかった。
「報告します!敵軍総崩れ!敵総大将は近隣の村に身を隠したようです!いかがいたしますか?」
「知れたこと。徹底的に叩き潰す。村ごと焼き払え」
男はそう告げるとニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
男の名はオウガ=バルディアス。鎮圧軍の総大将であり、普段は王都マテロの守護を担当する大将軍である。
大将軍は基本的には都からは動かないのだが、今回は西方への援軍に都のほとんどの兵を割いていてしまっていたため、急遽鎮圧軍の指揮を任された。
日ごろから万全の状態で待機しているためにすぐに出陣できるというのも大きい。
今回の件、もし少しでも対応が遅れれば王国の滅亡へとつながっていたかもしれない。
やがて、焼かれた村からボロボロの姿のグリーウェイル候爵が発見、捕縛された。侯爵は必死に命乞いをしたが、オウガは迷わずこれを斬り殺した。
こうして、反乱の鎮圧は見事成功した。
一方そのころ、西方のとある街道ではムーデントを目指す王女・シアンら一行の姿があった。
そして、その先頭には案内役を勤めるオータスの姿もあった。
彼は馬車と歩調を合わせるため、馬にまたがっていた。
(ふぅ、やっと馬の扱いにも慣れてきたな……)
馬に乗るのはこれが初めてだったオータスは、最初かなり苦戦した。
だが、他の兵士達が優しく教えてくれたこともあり、今は難なく乗りこなしている。
そして幾分か歩き続けているとやがて、遠くにムーデントの町が見えてきた。
これにはオータスも周りの兵士達も思わず頬を緩める。
だが、次の瞬間。
「な……ガハッ!」
そんな短い悲鳴が聞こえたかと思うと、オータスの横にいた兵士が落馬した。
兵士の頭には一本の矢が刺さっており、彼はもはや息をしてはいなかった。
「な、なんだ!賊か!」
オータスはあわてて漆黒の剣を鞘から抜くと構えた。
他の兵士達もあたりを警戒する。
すると、近くの深い茂みがゴソゴソと動いた。
そして、ソレはついに姿を現した。
「な、なんだこいつ……!」
思わず、オータスは己の目を疑う。
茂みから姿を現したソレは猪によく似た生物だった。
猪と違うところをあげるとすれば、人のように二足歩行であることと、手に弓を持っているというところだろうか。
どう見てもその姿は異様であった。
「ちっ、魔物の生き残りか……!」
誰かがそんなことを呟いた。
オータス達の前に現れた生物、それはオークと呼ばれる魔物であった。




