第103話「鬼神との再戦 ~其の肆~」
鬼神へと立ち向かう二人の戦士。
黒き雷はそれを容赦なく焼き尽くさんとした。
が、二人はそれをギリギリのところで避けると、二手に分かれた。
オウガが先に狙いを定めたのはユイナのほうであった。
ユイナを鬼神の一刀が容赦なく襲う。ユイナは初め避けようとしたが間に合わず、剣で受け止める形となった。
だが相手の剣はただの剣ではない。ユイナの剣はみるみるうちに朽ちていき、鍔迫り合いすらさせてもらえなかった。
「くっ!」
ユイナの身体をその黒き刀身が抉った。
苦悶の表情を浮かべるユイナに、さらに電撃が追い打ちをかける。
「きゃああああああああああああああああああ!」
甲高い悲鳴をあげるとユイナはぐったりと動かなくなった。
と、その時である。
「ぬっ……!?」
背後より殺気を感じたオウガはすぐさま振り返ったが、しかしわずかに遅かった。
一閃。オータスの一刀がオウガの首元を襲う。
が、それはウィルの時と同様、オウガの身体を伝う黒き雷により防がれてしまった。
剣も一瞬にして朽ちたが、しかしオータスの狙いは別にあった。
「貴様、どういうつもりだ……!」
オウガが驚くのも無理はない。
なんとオータスはその勢いのまま、電流の伝うオウガの身体にしがみついたのだ。
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
当然オータスの身体を激痛が襲った。その黒き雷がオータスの服を焼き、肌を焦がした。
が、オータスはその手を離すことはなかった。そして。
「魔力全開放!」
オータスがそう叫ぶと眩い閃光が二人を包み込んだ。
「魔力の全開放?」
とある日の昼下がり。
めずらしく政務が早く終わったオータスはマインのもとを訪ねていた。
これから戦いがますます激化していくことを考え、魔術についていろいろと教えを請おうと考えたのである。
そしてそこでマインの口より発せられたのが『魔力の全開放』であった。
「人間は誰しもみんな魔力というものを持っているんです。それが多いければ多いほど、強力な魔術を使えたり、難しい魔術を使うことが出来るんですが、まあこれがかなり人によって差があるものでして。例えば私たち魔術師なんかはもちろんそれを生業にしているわけですから魔力はかなり多いですけど、一方でそれ以外のほとんどの人たちは、魔力はあることはありますけど、まあ限りなくゼロに近いです」
「なるほど。ようは魔力のない奴はどんなに努力したところで魔術は使えないってことか」
「はい。それに加えて魔術を上手く発動するにはさらにセンスや技術が必要なわけで、ようは魔術師っていう職業はエリートの中のエリートなんですよ」
「まあ事実なんだろうが、自分で言うのか……」
得意気に胸をそらすマインに、思わず苦笑するオータス。
「悪いですか?」
それに対し、マインはそう言ってあざとく頬を膨らませたが、「はいはい」とオータスが冷たくあしらうと、こほんと可愛く咳ばらいをして、すぐさま本題へと戻った。
「まあ、そんな感じで魔力をほとんど持たない人は魔術は基本使えないのですが、唯一例外があります。それが先ほど言った『魔力の全開放』です。ようは自分の持っているその数少ない魔力をすべて外へと放出し、それを攻撃とするわけです。これならセンスも技術も必要ありません。ですが、まあなんとなくわかるとは思いますが、内にある力をすべて使うことになるので、これを使うとかなり自分の身体を傷つけるんですよ。なのであまりおすすめはできません。威力も魔力量に比例するので、魔術師以外が使ってもあまり高いとは言えませんし。まあ魔術師は魔術師で他に強力な魔術が使えるので、こんな効率の悪い技は使わないんですけど」
「うーん、ダメージがでかい上に威力も小さいとなると、実用性はあまりなさそうだな」
「まあ魔力の上にさらに生命力も開放すれば当然威力は増しますけど、文字通り命を削ることになりますからね。自分の身を犠牲にして相手を道連れに、とかなら使えないこともないんでしょうけど、少なくとも人を導いていく側の人間であるオータスさんには必要ありませんよ」
「だな。強くなりたいなら、おとなしく剣の腕でも磨いた方がいいってことか」
「ま、そういうことですね!」
魔力の全開放。
後に自分がこの危険な技を使うことになるなど、この時のオータスが知るはずもなく。
魔術についての話が終わった後は、他愛ない雑談が延々と続き、のどかな時間が流れていったのだった。




