第102話「鬼神との再戦 ~其の参~」
討伐軍はオウガの対処をオータスら3人に任せると、数の力をもって一気に攻めかかった。オウガ軍は精兵揃いであったが、最大戦力たるオウガを抑えられてはどうしようもない。
次々と討ちとられていくオウガ兵たち。戦況は討伐軍の圧倒的優勢。だが。
「これでもまだ耐えるか……」
どんなに激しく攻め立てようとなかなか崩れぬそのオウガ軍のしぶとさにショーン=スペンダー公爵は思わず顔をしかめた。
我慢しきれず立ち上がると、大声で兵を呼んだ。
「タランコス辺境伯の陣へと走り、兵をいくらか割いて敵本拠を急襲するよう伝えよ。いくら平原といえど、大きく迂回すれば敵に気づかれず突けるはずだ」
オウガ軍はほぼすべての兵をここポンテクトゥ平原へ集結させている。すなわち、敵の本拠は空に等しく、ここを討伐軍が占領すればオウガ軍は退路を失うこととなる。
13万という圧倒的兵力を有しているがゆえに出来る策であった。
スペンダー公爵より伝令を受けたタランコス辺境伯はすぐさま敵本拠を急襲する部隊を編成した。
その数1500。迅速に行軍しなければいけないことを考えての数である。
指揮官はレヴィンという金髪の若者が務める。彼は辺境伯の末子であった。
さらに辺境伯はマインを呼んだ。
「マイン殿。敵本拠にそれほど兵は残ってはいないだろうが、結界の類いが張られていると厄介だ。本来私の配下ではない貴殿にこんなことを頼むのは申し訳ないが、どうか我が愚息に随行してくれるか」
「はい。そのために魔術師団より私が派遣されているわけですから」
こうしてマインも加わり、急襲部隊は敵本拠を目指し進軍を開始した。
「ちょこまかと……! 目障りな!」
オウガ=バルディアスの重い一撃が大気を切り裂き地面を抉る。
が、3人はなんとかそれを回避すると、攻撃直後の隙を狙って一斉に襲い掛かった。
「む……!」
それに対し、オウガ素早く跳躍した。三人の攻撃は鬼神に触れること叶わず、虚しく空を斬る。
さらにオウガは跳躍した勢いそのままにユイナの背後へと回ると、その背中を斬りつけた。
「きゃあ!」
地面に打ち付けられるユイナ。二人は慌てて駆け寄ろうとしたが、それをユイナは制した。
「だ、大丈夫。かすり傷だから」
その言葉の通り、出血こそしてはいるものの、彼女の傷はそこまで深くないようであった。
ユイナは苦痛に顔を歪めながらも、なんとか立ち上がると、また再びオウガへと斬りかかった。
オウガはそんなユイナの攻撃を適当にいなすと、背後からのオータス・ウィル両人の攻撃も難なく回避した。
そんな攻防がしばらく続き、オータスら3人の息が上がり始めた頃。突如オウガが数歩後退し、距離をとった。
「どうした? 鬼神さんも流石にお疲れか?」
「疲れ……? この俺が……? 笑止。ただ、貴様らとの戦いにも飽きたのでな。我が秘技でさっさとこの茶番を終わらせようと、そう思っただけよ」
オータスの挑発を一笑に付すと、オウガは剣を天高く上げた。
刹那。その黒き刀身が禍々しく発光したかと思うと、天より赤黒い雷が剣先めがけて落ちてきた。そしてその電流が、剣を、そしてオウガの全身を伝い始める。
「あれは、オータスの……!」
「まさか、あの剣の力を自分の意志で使えるのか……!」
剣の力を使ったことのあるオータスとそれを間近で見ていたユイナは、当然その恐ろしさを十分に知っている。
ただでさえけた違いな強さのオウガがあの力を使えばどうなるか。二人は自分の足が微かに震えているのを感じた。
そんな中、ウィルだけは違った。
「なんと面妖な! だが……!」
ウィルは恐怖を押し殺すと、雄たけびをあげてオウガへと襲い掛かった。
亡き主の、仲間たちの仇。それを前にして怖気づくわけにはいかない。その一心でウィルは剣を振るった。
だが。
「な……!」
ウィルの剣はオウガの身体に触れた瞬間、一瞬にして朽ちてしまった。
何が起きたか理解の追いつかぬウィルに対し、オウガは言った。
「消えろ」
そして、オウガの剣がウィルめがけて真っ直ぐに振り下ろされた。
避けられないスピードではない。当然ウィルはそれを回避しようとした。だが。
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ウィルの悲鳴が周囲に響き渡ったかと思うと、次の瞬間には彼の身体は地面に倒れていた。
彼は剣の刀身こそ避けたものの、その刀身が纏う雷までは避け切れなかったのである。
「あ……あ……」
なんとか言葉を出そうとするがうまく声に出せない。なんとか身体を動かそうとするがピクリとも動かない。
そんなウィルにオウガは容赦なく止めをさそうとする。
が、オータスとユイナがそれを黙って見ているはずがなかった。
「させるか!」
「やああああああああ!」
力の差は圧倒的。そんなのはわかっている。だが、だからといってウィルにまだ息がある以上、それを見捨てるわけにはいかない。
「何も見ていなかったのか? 馬鹿な奴らだ」
オウガはそう言うと、再び赤黒い雷を呼び寄せた。
このままではウィルの二の舞になるのは必定。だが二人には一つ策があった。それがオウガに有効である確証はない。だが、それにすがるしか二人には道がなかった。




