第101話「鬼神との再戦 ~其の弐~」
両軍が対峙したのはポンテクトゥ平原と呼ばれる地であった。
平原という名の通り遮蔽物一つないこの地では兵の数が物を言う。すなわちオータス率いる討伐軍にとって圧倒的有利な場所であった。
「弓隊放て!」
先に動いたのは討伐軍のほうであった。
将の合図と共に無数の矢が弧を描くと、すかさず槍隊が怒号を上げ敵陣に突撃したのである。
これに対し、当然オウガ軍も黙ってはいない。
矢を受け負傷した兵たちを素早く下がらせると、こちらも槍衾を作った。
激突する両軍。瞬く間に血の河と屍の山がそこに築かれる。
「退けぇい! 退けぇい!」
やがてオウガ軍が後退を始めた。正面からぶつかれば兵の少ないオウガ軍が押されるのは自明の理である。
しかしそれでも軍としての形を保っているのは兵たちの練度の高さによるものだろう。並みの軍であればとっくに壊滅していてもおかしくはない。
後退するオウガ軍を叩き潰さんと追いかける討伐軍。だがそれはある男によって阻まれた。
「オウガだ! 鬼神・オウガ=バルディアスが現れたぞ!」
討伐軍の雑兵の一人がその名を叫ぶ。
刹那。その者の首は胴から離れ地面に転がった。
「フン。かかって来い雑魚ども」
オウガはそう吐き捨てると、再び剣を振るった。
周囲にいた十数人の雑兵が一気に倒れる。
「バケモノだ。あ、あんなのに勝てるわけねえよ……」
先ほどまで血気盛んに攻め立てていた兵たちの顔が一瞬にして絶望に変わった。
恐怖のあまり、ある者は腰を抜かし、またある者は逃亡し始めた。
「戦場で戦意を喪失とは笑止……!」
そう言ってわずかにニッっと笑うとオウガは跳躍した。
そこから始まったのは戦ではなくただの一方的な虐殺であった。
一方、討伐軍本陣。
オータスの元にオウガが前線に出てきたとの報が届けられる。
「ついに現れたか。雑兵が何人集まってもアレは倒せない。よってここは少数精鋭で鬼神に立ち向かおうと思う」
オータスはそう言って、傍に控えていたユイナとウィル=ロッサリオンのほうへと目を向けた。
「ユイナ、そしてウィル卿。俺とともに来てくれるか。少し厳しいが三人で鬼神を足止めする」
名指しされた二人は初めこそ驚いたようであったが、しかしすぐに強く頷いてみせた。
オータスの策。それはオウガを三人で足止めし、その間に残りの将兵を数で殲滅するというものであった。
これならば以前の戦いのように多大な損害が出るようなこともない。オウガをたったの三人で足止めするというのも、かなり骨は折れるが、しかし不可能ではないだろう。
ユイナもウィルも戦いの経験豊富な実力者であるし、特にウィルは亡き主の敵討ちに燃え士気が高い。オータスには勝機は十分あるように思えた。
「では、ショーン卿。あとは頼みます」
「承知した。ご武運を!」
こうして全軍の指揮はスペンダー公爵へと委ねられ、オータスら三人は馬に乗って本陣を後にした。




