たわけもの達
「戯けたことだ。人間は蟻が砂糖水に群がるように、文学を“嗜み”やがる。あっちの水は甘い、苦いだのやんややんや騒ぎ立てる」
「はい、お父様」
「美智子、お前はいい子だ。戯けの世に踏み込んで穢れるような阿呆な真似をして、お父様を困らせないでくれ。お前はただ嫁に行けばいい」
「それでもわたし、覗いてみたいわ。お父様のように立派な女になりたいの」
「俺が立派とはまあ笑わせるね。小説家なんぞ此の世で一番の戯け者だ。おい、一郎や次郎は俺の背中を見て“真面目”に育ったのにどうしてお前だけそうなのかね」
「わたしお父様のことがすきよ。でもそれだけでなくて、阿呆かもしれないけれど文学ってとてもすてきなものでしょう。わたし思うの」
「言ってろ。何だって初めは皆とてもいいもののような“気がする”のさ」
「お父様、わたし覚悟は出来ていてよ。戯け者は究極の快楽主義者でしょう」
「そうだ足を踏み込んだら、抜け出せなくなるのさ俺のように。今度こそ名作だみんな俺にひれ伏すぞ。それで仕上げてみりゃ、ああクソッタレ」
「わたしお母様のお話に救われたわ。安らぎが癒しが真理が砂漠に埋もれる砂金のように、微かにでも確かにお話の中には輝いているわ」
「そんなあやふやで身を滅ぼすというのか?本当にお前は仕方のない大馬鹿だ」
「お父様の娘ですもの」
「かなわねえな」




