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「あ、あはは…はははは…」

細長い一枚の紙切れを、真理の母-菜子が眺めていた。目は…険しかった。

「真理…こりゃあかんで。初めの定期テストで5教科満点の7割もいかへんとか…しかも、数学の点数、なにこれ?」

数学の欄を、真理は丁寧に見るふりをした。

「ごじゅう…はち?」

「これやったら、下から数えた方が早いやん!真理は高校受験があんねんで?こんな時期からこの成績やったらどんな高校にも入られへんよ!…わかった。これから勉強し。あと、塾行こ。真理やったら塾行ったら伸びるわー。どこに入るか、決めよっか。」

案外あっさりと菜子の説教は終わった。だが、その代わり、お説教よりも辛いお仕置きが、真理には待っていたのである。

「勉強しとけばよかった…」

真理は机に向かいながらつぶやいた。


「田原真理さんですね。こっちの教室です。」

菜子は、行ってらっしゃいと手を振った。真理は苦笑いした。…今から真理は塾の体験授業を受けるのだ。

「田原さんはあの席に座って。教科書はコピーしたものがあるから、担当の先生にもらって。」

事務員のおばさんはそう言うと、行ってしまった。

(えーっと、この席か…)

真理はかばんを机の横にかけた。ふと横を見る。

「き、如月さん!?」

さらさらと長い髪がたなびいて少女は真理の方を向いた。少女は、紛れもない如月亜希だったのだ。

「あ…田原さん!」

亜希は少しだけ微笑んだ。でも、すぐにその笑顔は消えた。

「ご、ごめん…こんなとこにもあたしなんかおって…」

長い髪で顔を隠すようにうつむく。

「な、なんで謝るん…?そんな、私知ってる人おったから安心したし…」

「ううん…あたしさ、なんか学校でやらかしてもうたみたいで。みんな、私がおったら迷惑」

真理は亜希の言葉を遮った。

「そ、そんなことないで…!みんな如月さんが可愛いから僻んでるだけやし…!っていうか、私如月さん必要やねん…!」

「え、あ、あたしが?そんなわけないやろ…」

「私らがやってる事件のこと、如月さんめっちゃ知ってるはずやで。伊勢旅行のバスで言いかけてたやん?」

やっと聞けた。

「え…う、うん…あの事件、ほんまに危ないから…ここは警察頼ったほうがいいと思うねん。だから田原さんも、やめといた方がいいと思う」

亜希は真剣だった。でも真理は首を横に振った。

「私らは探偵やん?危ないことすんのが探偵やん。…でさ、如月さんも私らと一緒にやれへん?ほんまに、如月さんが来てくれたら助かるから!」

真理も、真剣だった。

「そんな…でも、そこまで言うんやったらあたし入ってもいい。けど、あの事件はほんまに危ないから。それだけは覚えといて、危ないことする時はあたしに言って。」

「一緒にやってくれるん!?」

「うん。」

真理の頬はピンクに染まった。亜希も少しだけ嬉しそうにうなずいた。

ちょうど、チャイムが鳴った。案の定、真理は全く授業に集中できなかった…



「如月亜希ちゃん。私らに協力してくれんねんて!」

聡太の家で、亜希の歓迎会が行われた。亜希は恥ずかしそうにお辞儀した。

さっきから真理と将樹は、笑いが止まらない。なぜかというと…

「あっ、ど、どうもどうもー、えっと、議長の中村聡太っすー、ど、どうぞよろぴくーな、なんちゃって…」

聡太のソースたっぷり(日焼けのため、茶色くなっているのである)たこ焼き顔が、真っ赤なトマト顔に変わり果てている。

「あー、ごめんごめん、この子すぐ緊張すんねん、ね?聡太?」

「そ、そうそう。ごめんなー如月さん」

慌てて真理がフォローする。将樹は眼鏡を外して涙を拭いている。(笑い過ぎて)

「通常の役割分担は、聡太が議長、将樹が情報提供と偵察を兼ねる、私が偵察。亜希ちゃん何がいい?欲しいのは、もう1人の偵察やねんけど…」

真理が言った。

「真理ちゃんが言うならあたし、危険偵察がいいわ。」

亜希も明るく言う。

「おおー如月さんカッコいーねー」

聡太の言葉に、将樹はブブーッと吹き出した。

「ごめん、亜希ちゃん!聡太緊張してるから…」

「大丈夫ー、中村くんって面白いな!将来お笑い志望なん!?」

亜希が初めて冗談を言った。無論、嬉しくなった真理である。

「そうやねんなー、聡太。将来の夢は芸人になって丸儲けすることなんやろー?」

「そうそう!目指せ、芸人!大富豪!」

こんなに聡太の家が盛り上がったのは何日ぶりだろうか。真理は幸せな気持ちになった。



「とりあえず、会議や。」

みんなの笑いが収まったところで、将樹が冷静にそう言った。

「そうやな。」

「じゃ、今までの俺らの行動・捜査、その結果に基づく考察、これからの予定を如月向けに発表するわ。あ、如月向けって言っても、みんな聞いといてや。」

聡太がかっこ良く(なるように)言った。

「まず、4月25日のカフェテリア事件。TRD株式会社の社長、安部貴夫氏が青酸カリコーヒーで殺されて、塚本恭介が逮捕された。でも俺らは冤罪と考えた。次に4月30日の安藤内科事件。そこの病院で注射を受けた横浜警察の原本健が血液に大量のニコチンを残して死亡。大量のニコチンは注射で血液内に入ったものとみられる。そこで、考えたのが2つの事件の関連性。理由は、同じ東大阪の石切で起こったから、それとどちらも薬物関係やから。俺らはそれぞれ安藤内科院長の安藤孝とカフェテリアのオーナー塚本恭介の妻純夏に事情聴取した。そしたら、安藤も塚本も脅迫されて犯行したと証言してた。さらに、塚本に電話で脅迫していたグループには女も入ってる。また、TRDの安部と一緒にいた違う会社の男は金の鳳凰バッジをつけていて、若くて、30代くらいだったと塚本夫人は言ってた。そして、塚本家に脅迫電話がかけられたのはほとんど毎日。だけど、水曜日だけはかかってこなかった。…これが犯人の特徴。それで今に至るわけ。」

一気に説明し終えて、聡太はふぅと息を吐いた。思わず3人は拍手した。

「お前、ちゃんとまとめてるやん」

「聡太は聡太で頑張っててんなぁ」

聡太は照れて赤くなっている。

「みんな、そんなマニアックなところまで調べてたん?すごい!私とか、2つの事件の関連性までしか掴めてへんかった。」

亜希が言った。

「でも、だって1人やったんやろ?1人でそこまで調べれたらすごいやん?」

真理が言った。

「えー、そっかなー」

亜希が謙遜する。

「そういえば亜希ちゃん、浅川さんとか藤本さんとか村田さんも一緒に調査すればよかったのに。みんなで6年生の時にすっごい事件を解決したんやろ?羨まし~」

真理が羨ましがった。すると、亜希の表情が急激に曇った。

「亜希ちゃん?」

「ううん…小夏も奈々絵も梨乃も違うグループに入っちゃったから今はあんまり喋ってへんねん。3人、『舞花グループ』に所属してるらしいねん。舞花グループはめっちゃ大っきな組織やから、違うクラスにも舞花の仲間がおって、クラスではその子らが中心になっているらしいねん。」

亜希が言った。真理は、圧倒されて何も言えなかった。

「何かわからへんけど、田原とか如月がいう『舞花グループ』ってのはすげえグループやねんなぁ。」

聡太が口をはさんだ。

「そう。噂ではな、違う中学校でも『グループ』じゃないけど、『派閥』っていうのがあって『舞花派』か『◯◯派』か…っていうらしい。」

亜希が言った。真理はまたも驚いた。

「…そうかそうか。ま、そんなカタい話はやめて、早よ話し合おうや。これからの俺らの探偵チームのありかたについて。」

聡太がお気楽に言う。真理はムッとして何か言い返そうとしたが、

「そうやんな、中村くんの言うとおりやわ。」

亜希がそう言ってしまったので何も言えなかった。でも真理は何か嬉しいような気がしたのである。


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