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しおりのいない大活躍

「おい、池内こーへんやん。」

聡太が言った。しおりはあれ以来、ずっと探偵会議に参加しないのだ。

「しょうがないな。田原とそんなことあったらしいし。とりあえず会議始めよ。」

聡太や将樹は、真理としおりの間に亀裂が生じたことを知っている。だから、将樹は完全に諦めているのだ。真理はうつむいた。

「じゃあ、田原。結果報告。お前は安藤孝に取材したんやんな。」

聡太がノートを開いた。

「うん。警察の面会で訊いたこと。」

真理は、家から持ってきた高性能ボイスレコーダーをかばんから出した。

「何や?田原、そんなん持ってたんかい!」

聡太が目をまん丸にしてレコーダーを見ていた。

「それより、いくで!再生っと…」

『安藤さん、これは、あなたの正当防衛になるかもしれません。だから、私の質問に正直に答えてください。答えてくださったら、どんな内容でも警察に通報しないことを考えますので。』

「おい、田原。お前これ警察の前で言ったんじゃないやろな。」

「聡太、とりあえず黙って。」

『あなたは注射器に大量のニコチンを入れて警察官の原本健さんに打ちましたか?』

『そ、そんなこと…』

『答えてくださらないのなら、あなたの正当防衛は不可能になりますが?』

真理の声は本物の探偵のようで、聡太も将樹も驚きを隠せなかった。

『…正当防衛とは何ですか、どういうことですか?』

「なっかなか安藤はしぶといなぁ。なんやねん、素直に答えとけよ」

将樹がいらつく。でも、真理は「大丈夫」と笑う。

『それじゃあずばり言いますが…、あなたは、脅迫されて(・・・・・)ニコチンを打ったのでは?と。』

『…』

無言だ。

「図星やったんや…」

聡太が喜びの混ざった声を漏らした。真理は、ゆっくりうなずいた。

『わかりました。その反応からすると…当たりですね?』

『…で、でも、もしこのことをバラしたら、家内の身の危険が』

『大丈夫です。最初に言いましたが、警察にはバラしません。』

『ほっ…』

安堵のため息までもが録音されていた。

『それで…、その脅迫者の名前などはご存じなんですか?』

『いや。知りません。電話がかかってきて…、非通知設定の番号からでした。警察にも言えへんから、逆探知もできひんくて。』

『いつごろからですか?』

『先月の頭くらいからです。不定期にかかってくるんで、今日はかかってくるんかと毎日怯えてました。このことは妻と俺だけが知ってるんですが、妻はその電話のせいでちょっと鬱気味になってて…、どうしたらいいのかわからんかったんです。』

「かわいそうなやつやな。」

将樹がつぶやいた。

『そうなんですか…、わかりました。この情報は有意義に使わせていただきます。理想としては、あなたに脅迫した犯人を逮捕につなげるということですが…、よろしいですか?』

『はい、もちろんですよ。ほんまにありがとうございました。ちょっと楽になった気分ですわ。』

『それはこちらとしてもありがたいことです。本日はどうもありがとうございました。失礼します。』

録音はそこで終わった。聡太と将樹は、目をまん丸にして唖然と真理を見ていた。

「お前、す、すげえな…」

「田原にこんな語彙力と度胸あるとか思わんかったわ…」

真理はてへへと赤くなった。…すると、将樹が急に真顔になった。

「田原。面会室に監視カメラがついてんの、知ってた?」

その瞬間、聡太が(・・・)真っ青になった。

「脅迫とか、それ、禁句とちゃうん?」

真理は平気だ。

「禁句じゃないで。だって…事前にカメラ外しといたもん。」

将樹は絶句した。一体、どうやって監視カメラを外したのか?

「あれ、知らんかったっけ?私のいとこのお兄ちゃん、警察官やねん。」

真理は笑って言った。

「えええ!田原のイトコ、警察官!?」

「ええ。そうよ。お兄ちゃん面会人取締役やからちょうど良かってん!」

真理は大笑いした。

雨は止んで、空には虹がかかった。


「じゃあ、次、将樹の報告。」

議長聡太は、将樹に言った。将樹は待ってましたと言わんばかりに話し始めた。

「俺は、直接塚本恭介にあったわけじゃないけど、塚本恭介の妻、純夏(じゅんか)に会えた。」

真理と聡太は「おおー」と拍手する。

「カフェテリアの2階部分に塚本家が住んでるっていう池内の情報が役に立ってん。俺が訪問したらタイミングいいことに塚本純夏がおってさ。田原と同じように「正当防衛」って理由つけて事情聴取できてん。」

将樹は一気に話して、かばんからスマートフォンを出した。こちらも録音しているようだ。

『じゃあ、よろしくお願いします。正直にお答えください。』

『はい…』

『単刀直入にいいますが、ご主人の塚本恭介さんは…、誰かに何か言われたんですか?安部氏に青酸カリ入りのコーヒーを飲ませろ、とか。』

『…』

沈黙が続く。

『塚本さん、お願いします。答えてください。言ってしまいますが、自ら罪を犯すより、脅迫されて身の危険を感じてやむを得ず犯すほうが罪は軽いんです。懲役数10年のところが懲役10年未満になることだってあるんですよ。』

『…で、でも、あなたに言う必要なんて…。主人だって警察にも言わなかったんです。操り人形としか、言いませんでした。バラしたことがわかってしまったら、殺されてしまう…』

『つまり、こういうことですよね。脅迫されていたっていうこと。』

『そ、そんな…』

「こっちも図星やってんね。」

真理が言った。

『脅迫は、どのような手段で?』

『…わかりました。お話ししますよ…。最初に電話がかかってきたのは、3月に入って間もない頃のことです。』

「ヒット!ブログが終わったのは2月28日だ!」

聡太が言った。

『かかってきたのは、午前0時過ぎくらいでした。私は寝ていたので主人が出たそうです。』

『その会話をお聞かせください。』

『はい。意外にも、最初の電話は若い女の声だったらしいんです。向こうは名前を言わず、“4月25日に、胸に金の鳳凰バッジをつけた男が違う男を1人連れてがおたくのカフェに行くから、その時までに郵便受けに入っていた青酸カリ入りブラックコーヒーを用意しておけ、報酬は1000万円だ”と言うのです。…主人は断りました。すると女は“断るのならこちらにも考えがある。それは、お前を殺害すること。4月25日に青酸カリブラックコーヒー、チャームポイントは金の鳳凰バッジ、報酬1000万円”と念を押して電話を切ったのです。主人はすぐに私を起こしに来て今の脅迫電話のことを話しました。』

「怖い…」

真理はつぶやいた。

『ありがとうございます。脅迫電話はそれっきりですか?』

『いえ…一週間に6回…ほとんど毎日“断るのなら塚本恭介またはその妻や1歳の子供を殺害する”という内容の電話がかかって来ました。その電話の声も、毎日替わっていました。だから、犯人は誰なのか見当がつかないのです。』

『電話がかかってくる日に、規則性はありましたか?』

『あ…そういえば、いつも水曜日はかかってきませんでした。不思議に思っていたのです。』

『分かりました。…あと、犯人についてさらに不思議に思ったこととか、こんな特徴だとかは分かりますか?』

『そうですね…4月25日当日の話をしましょう。』

『聞かせて下さい。』

『正午でした。もちろん私もカフェにいました。スーツ姿の男が2人入ってきて、やはり1人の男の胸には金の鳳凰バッジがついていました。その男は…30代くらいでしょうか。顔がとても白くて、若かったです。もう1人の方は何もついていない、普通の50代くらいの男です。こちらがTRD株式会社の寺田貴夫さんでした。主人はおずおずと2人に注文を訊きました。金の鳳凰バッジの男はミルクティー、そしてもう1人の男は…ブラックコーヒーでした。主人はお盆にミルクティーと青酸カリブラックコーヒーをのせて持って行った…そういうことです。』

『その2人が注文品を待っている間に話していたことは分かりますか?』

『はい。私が盗み聞きしていました。どうやら、話し方から鳳凰バッジの男が下部で、もう1人の男が少し上のようでした。内容は、ごく普通の会社関係の話です。あと、これは警察から聞いたのですが、違う会社の2人だそうです。』

『ありがとうございました。こんな時に長々とおたくにお邪魔させていただき申し訳ありません。以上です。この情報から必ず犯人を逮捕まで至るようにしてやりますので、よろしくお願いします。』

将樹はスマートフォンをポケットに入れた。

「すごい将樹!」

「さすがやな。」

真理と聡太は小さく拍手した。将樹は少し顔を紅潮させた。

「でも、これで結構事件の犯人情報が得られたわ。」

将樹が言った。

「池内おらんうちに、俺ら大活躍やん。」

聡太が軽く言った。真理は聡太を睨んでうつむいた。

「お、おい…田原?」

鈍感な聡太は状況を把握できていないようだ。将樹は苦笑した。

「そ、それより聡太、お前まだ活躍できてないやん。議長のクセに。」

「議長はみんなをまとめんのが仕事や。」

聡太が腕を組んだ。

「聡太、まだまとめる仕事もこなしてない…」

真理はうつむいたまま言った。


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