逮捕は冤罪!?
「ブログの更新、まだやったわ。」
ここは聡太の家。真理は、「ブログ担当」である。
「ブログは2月28日で終わってるから、それから何かあったのかもしれへん。」
真理が言った。将樹やしおり、聡太も大きくうなずいた。
「次の報告、ニュース担当。将樹。」
議長の聡太が名指しして、将樹はコホン、と咳払いした。
「大ニュースや。今朝1chのニュース観たら、事件のあったカフェのオーナーが逮捕されたらしいで。」
「ええーっ!?」
しおりが素っ頓狂な声をあげた。真理も「えっ」と驚く。
「じゃあ、俺たちがやってきた調査はまたムダになったん!?」
聡太がドンドンと机を叩く。目が少し潤んでいた。
「聡太、泣くな。まだ分からへん。その塚本恭介は容疑を否定してるらしいで。田原のブログ内容からいうと、悪いことなんてしない感じやし。ここは『冤罪』かもしれへんで。あと、意味あり発言が多かったらしい。」
将樹は聡太の頭を少し撫でてから3人に向き直った。
「意味あり発言!?」
しおりが訊いた。
「俺は操り人形だ」
将樹の言葉に、誰もが静まった。
「操り人形…」
「どういう意味やろ…」
「ま、とりあえず次、行こう。池内の『店舗担当』。」
将樹が進めていく。
「店には警察が出入りしていて店内は分からんかったけど、外見は改めて見てもおかしいところはなかったで。あ、あと、塚本恭介はカフェテリアの建物の2階部分に住んでいるみたいやわ。ポストが店の前に置かれてて、ベランダに子供用の洗濯物が干したままになってた。」
しおりは自分のメモを見ながら言った。
「そうか。じゃあまだ店の中には入られへんな。」
将樹が残念そうにこぼした。
「もう情報終わりか…なかなか会議が進まへん。」
議長気取りの聡太がはぁっとため息をつく。そして、「今日は終わりや」と言い、メモ用のノートをサッと片付けてしまった。
(がんばって解決しやな…)
…と思いつつ、この前返ってきた英語の小テストが50点だった(100点満点である…)ということも考えてしまう真理は、自分がもどかしいのであった。
桜は散ってしまったが、真理たちの「希望」は散ってはいない。
「真理、しおり、早よ乗ろう!」
大きなボストンバッグをトランクに押し込んだ真理としおりは、「うん!」とうなずきバスに乗り込んだ。
「伊勢、ほんま楽しみぃー」
「伊勢エビ買って帰りたいーーー!でも無理ぃー」
「加奈さ、この前難波行った時も『タコ焼き、タコ焼き』って…」
「ポテチ持ってきたでー、コンソメ味!」
中学生になって初めての旅行。行き先は伊勢神宮である。1泊2日と規模は小さいが、生徒たちはずっとこの調子なのだ。
「真理、席離れてもうたな…」
涼が言った。しおりもうなずいた。真理は1人舞花グループから席が離れてしまったのだ。
「しかも、如月亜希の隣やん…」
涼がそっと囁いた。真理は苦笑いした。
「気ぃつけてや、真理。」
しおりまで…真理は少しうつむいた。あの、初めのしおりと亜希の仲の良さはどこにいってしまったのだろう。
「じゃあ、休憩場で一緒にトイレ行こー!また後で!」
涼としおりは隣だ。2人は真理に手を振って前の方の席に座った。
(涼としおりは気が合うんやな…)
真理はうつむいたまま1番後ろの窓側の席に腰を下ろした。
「あ、真理ちゃん」
後から亜希が来た。今日は長い髪を2つに束ねている。
「あ、おはよう。」
真理はそう言ってから辺りを見回した。舞花グループの子たちは楽しそうにお喋りを続けている。
バスが動き出した。真理は窓の外の景色を眺めていた。ほかの席はお喋りで盛り上がっているのに、この席は気まずい雰囲気である。でも真理は話しかける勇気が全くなかった。
「ま、真理ちゃん」
1時間経っただろうか。亜希が真理の肩を軽く叩いたのだ。真理はびっくりして声をあげそうになった。
「あの、真理ちゃんたちって、駅前のカフェテリア事件を調べてるん…」
亜希はそう言った。
「え、あ、うん。私としおりと聡太と将樹で。そ、れがどうしたん」
真理は平然を装ったつもりだが、動揺しているのが目に見えていた。でも、亜希は続けた。
「あ、その事件、危ないからやめといた方がいい…」
亜希はそこまで言ってしまうと、急に顔を伏せた。真理は「えっ」と亜希の顔を覗き込んだ。…その瞬間に分かった。
「せ、先生!如月さんが酔ってしまったそうです!」
真理は精一杯叫んだ。みんなが「えっ」とこちらを振り返る。
「わかりました。田原さん、ビニール袋足りますか?」
さすが教師だ。落ち着き払っている。真理は座席のポケットからビニール袋を取り出し亜希に渡した。
「あー、もう汚いってー」
「バス酔いするんやったら来ーへんかったらいいやん」
「菌、寄せ付けやんといてや」
舞花グループは口々にそう話している。もちろん、小声だ。
でも、真理が1番気になったのは話の続きだった。
『あ、その事件、危ないからやめといた方がいい…』
真理の頭の中でその言葉がぐるぐると巡った。なぜ、亜希が事件の深刻さを分かっているのだろうか…
亜希は旅行を中止し、休憩場からそのまま家に帰ってしまった。
「伊勢、楽しかったな」
将樹が言った。…場所はやはり聡太の家だ。大きなテーブルに、ノートや電子機器、情報機器がそろい、関係ないが聡太の飼い猫、三毛猫のみゃんこが乗っている。
「なんか将樹めっちゃ楽しかったみたいやな。」
真理はそう言った。いつもはあまり笑わない将樹が、ご機嫌の様子なのだ。
「夜寝るとき、オオカミゲームしながら『カミングアウト大会』っていうのやってさ…、そしたら聡太がジャンケン負けてカミングアウトすることになって…」
「やめろーー!将樹、ストップやって!」
聡太が顔を真っ赤にして将樹の口を塞いだ。将樹が苦しそうにもがく。
「それで、それでー?」
しおりは聡太の手を力ずくで引き剥がした。将樹は話を再開した。
「聡太の好きな奴は如月亜希やってよ。言わへんかったらよかったのになぁ。」
聡太は布団に潜り込んで耳を塞いだ。「やめろ」と叫んでいる。
真理はおかしくて笑ってしまった。だがしおりは真顔で口を真一文字に結んでいる。完全に舞花グループに洗脳されてしまったようだ。真理は笑いながらも、目はしょう子に向いていた。しおりは気分が悪いらしく、テレビのリモコンを勝手に手に取りテレビをつけた。
『東大阪市東石切町の安藤内科病院で枚岡警察の原本 健さん(35)が、病院側から勧められた注射を受けたところ、間もなく意識がなくなり、今日未明死亡しました。警察は…』
「また事件!?」
将樹が叫んだ。聡太はベッドから飛び起きた。
「ちょっと、これ、ヤバない?」
しおりが蒼ざめた顔で言った。
「安藤内科って、舞花のお父さんの病院やで…」
真理たちは目を丸くした。テーブルの上にいた三毛猫のみゃんこも青い目を丸くした…