捜索
「如月亜希さんが…行方不明になりました。」
さっきまでザワザワしていた教室が、静まり返った。
「昨日の夜、習い事から帰る途中に、いなくなったそうです。誘拐の可能性があるから、生徒諸君も以後気をつけなさい。警察が見張っているっていっても、気を緩めたらあかんよ。」
担任の福島が、深刻そうにそう言った。
「如月亜希、どこいったんやろう」
「どうしよう…あたしたちがなんかしたから?」
「うそっ?そんなはずない…」
舞花グループは、怯えていた。自分たちがさんざん如月亜希をいじめてきたのが、教師を経由して親にもバレるかもしれないのだ。そして、彼女たちに、罪悪感という重荷がのしかかったのだ。
一体、亜希はどこに行ってしまったのだろう…真理は、思いつめていた。亜希は、事件の黒幕を知っていると言った。なぜに、黒幕を知っているのか。それは…
犯人と接触したのか。
真理はそう考えた。そして、あることに気がついた。
4つの事件には共通点があった。そして、その4つ目の事件の黒幕は、Y.M株式会社社長の竹田優也。竹田優也と前妻との娘、村田梨乃の親友は如月亜希。
やはり、亜希は竹田優也と接触したのか。
そして、同じことを聡太も将樹も考えていた。
6月2日。初めのカフェテリア事件から、1ヶ月程が過ぎた。3人はもう疲れ切っていた。彼らは、自己満足の為に犯人探しや事件の解決を試みているのではない。これ以上、悲惨な人殺しが起きることのないよう、事件の芽を摘み採ろうとしているのである。
「Y.M株式に行こう。」
聡太が切り出した。真理と、将樹は、うなずいた。
最寄り駅の石切から、電車に乗って此花区に到着。そこから歩いて2分。3人は、大きなビルの前に立ち尽くした。これが、悪魔の会社。
警備は厳重で、社員専用の電子カードがないと入られない。3人は、顔を見合わせた。
「受付で、社長と会わせてくれって頼んでも絶対無理やしな…」
聡太が言った。当たり前である。
「そういえばアパートに忍び込んだ時、私らの顔、アイツに覚えられてるんじゃない?」
と真理。すると、聡太は顔を真っ青にしたが、将樹は、指をパチンと鳴らした。
「わかった。よし、アイツに接近しよう。」
「はぁ?」
真理も聡太もわけがわからない。
「アイツを脅すねん。バナナ殺人のことをバラされたくなかったら、今すぐ社長に会わせてくれって。」
真理は息をのんだ。
「受付に行って、アイツの親類に頼まれて伝言を伝えたいって言うねん。ほんで、そこのロビーにアイツを呼ぶ。」
将樹が言った。
「アイツの名前もわからんのに、どうすんの?」
と聡太。
「アイツは池田やで。あんとき電話で仲間にかけたときに『もしもし、俺や。池田や。』って言ってた。」
と将樹。そして、将樹は続けた。
「で、脅す。たぶん向こうは、要求を聞いてくるやろな。なんせ企業秘密がバレるんやから。で、社長に会う。」
「それで、社長にはなんて言うの?」
「如月亜希の行方を知っているかどうか聞き出す。知ってるんやったら今すぐ如月亜希の解放を要求。もし向こうが抵抗したんやったらまた脅す。バナナ殺人のことを使って。」
真理は、ごくりと唾をのみこんだ。聡太は、その様子を見ていた。
「待って。こっからは二手に分かれよう。考えあんねんけど。」
聡太が言った。
「何や?」
「安藤内科事件のとき、殺された枚岡警察の人おるやん?」
「ああ、原本健。」
言ったのは将樹だ。さすが、記憶力がある。
「田原のイトコを使って、原本がどんな調査をしていたのかを聞き出すねん。もし、原本がY.M株式のことを疑っていたら、やっぱりY.Mは原本さんを殺したっていう理屈に合いそうやから。」
「そういうことか。…じゃあ、俺と将樹の男子陣はここに突入。で、田原が枚岡警に行ってイトコに会ってきたらいいやん。」
「そんな、聡太と将樹のほうが危険になっちゃうやん?それでもいいの?」
真理は、将樹が「脅す」と言った時に、いい顔をしなかったことを後悔した。危険なのは、みんな同じ。自分が女子だからといって特別扱いするのはおかしいと思ったのだ。
「いや、聡太の言ってる作戦も重要やから。しかも田原のいとこやねんから、田原が行ったほうがええやろ?」
「うん…」
真理は、申し訳なさそうにうなずいた。
「じゃあ、集合は…今から3時間後の17:30。場所は、石切駅。了解?」
「オッケイ。」
真理は、2人の成功を願いながら駅の方に走り出して行った。なんとしてでも、自分の役割を果たさなければ。
14:30。聡太と将樹が突入した。受付の女性に声をかける。
「あの、僕たちここの会社の池田さんの親類から承った伝言があるんですけど。」
聡太の言葉に、女性は疑うことなく池田の仕事場に電話をかけてくれた。だが…
「ただいま池田さんは会議で席を外していらっしゃるそうです。もしよければわたくしが伝言させていただきますが…?」
聡太は、心の中でちっと舌打ちした。
「あ、いえ、結構です。どれくらい時間かかりますか?」
冷静な将樹が訊いた。
「おそらくは1時間はかかると思いますね…申し訳ございません…」
女性は深々と頭を下げた。
「あ、そうですか。じゃあ、待ってますんで会議終わったら池田さんを呼んでください、お願いします。」
聡太はそう言って、客が誰もいないロビーのソファーに腰掛けた。
「タイミング悪かったなー。」
将樹は、スマートフォンを操って真理にそのことをメールした。
「何して1時間潰すん…」
聡太があぐらをかいた、その時!
「お願いです!早く帰らせてくださいっ!」
女の子の、悲鳴に近い声が2人の耳に飛び込んできた。聡太と将樹は、一瞬でわかった。
「如月やっ!」
2人は、社員専用のカードを通すカード・リーダーに突っ込んでいった。そして、大ジャンプ!
が、将樹の体は跳ね飛ばされた。受付の女性に押さえられる。
「聡太!頼んだ!」
将樹は、悔し涙を目に浮かべながら、聡太の走っていく姿を見送った。聡太は、任せとけ、と心の中で唱えた。
時間はない。迷っている暇はない。今、侵入者を伝える社内放送が流れた。
「くっそ、如月どこにおるんや!?」
構内のつくりもわからないから、どこに社長室があるのかも、どこに階段があるのかもわからない。聡太は、会議で誰もいない社員室や、印刷室を通り、階段を探した。
「お、あったー!」
奇跡的にも、その階段にはカメラがついていなかった。聡太は、二段飛ばしで階段を駆け上がった。
「離してっ!離してくださいっ!」
また、亜希の悲鳴が聞こえた。階段を上るごとに、悲鳴が近くなっていくのがわかる。聡太は、耳を澄ませながら猛スピードで6階フロアを通過した。
「ふーむ、ここら辺やな!」
亜希の悲鳴がどんどん近くなる。男の怒声も聞こえてくる。
「こいつや!」
たまたまフロアの一角にいた男の社員が、聡太を見つけた。
(おっさんに負けてたまるか)
聡太は、どんどん奥に進んでいった。その社員は、大声で「ここです!」と叫びながら聡太を追いかける。
「あっ!」
亜希だ。亜希は、男に取り押さえられ、エレベーターに乗せられようとしている。
(まずいな、エレベーターで地下とか行くんちゃうん!?)
エレベーターのドアが閉まりかける。亜希は、まだ余力が残っているのか、ジタバタと手足を振る。
「くっそ、おとなしくしろ!池田、地下にあれ持ってこい!」
池田だ。そして、あれとは…。聡太は嫌な予感がした。変な薬でも飲まされるのか。
ドアは、一瞬閉まった。だが、それと同時に聡太はボタンを押した…。
ドアは、音を立てず、ゆっくりと開いた。
「何っ…!」
「中村くん!?」
聡太は、にやりと笑った。亜希の横にいたのは、聡太たちがなんとしてでも接触したかった、あの竹田優也だった。
「何、如月の知り合いか!?おい池田、こいつをこっから出せ!」
池田は、聡太の顔を見て、気づいた。そして、池田は青ざめてこう言った。
「こいつ…、この会社の弱味を握ってるんです…」
「は?ど、どういうことや!?」
竹田は、聡太に近づいた。手の力を緩めたのか、亜希は解放され、聡太の横に立った。
「話すと長いんですけど、ま、竹田さんらがやったことがそれだけいっぱいあるってことなんですけどね?」
嫌味たっぷりに言った聡太に、聡太と亜希以外場にいた者全てが青ざめた。
聡太はもう一度、にやりと笑った。




