対面
一話投稿から結構な日数をあけてしまいましたがついに2話更新です。
リヤンとイリーナが変態伯爵とご対面です
あれからリヤンの条件を飲んだイリーナと共に作戦会議を開いた。まずリヤンの事情もあり、決行は今夜に決まった。それからイリーナに屋敷までの道を地図に起こしてもらい、なるべく目立たない道を探す。荒々しい地図に眉間に皺を寄せながらアンバルツ王国が所有する魔法道具の1つ"神命樹の腕輪"から護身用にと入れていたダガーナイフを取り出す。横で伯爵の気持ち悪さを淡々と語っているイリーナの目の前にナイフを突き出す。
「護身用に持ってろ。いざという時魔法だけでは対応しきれないかもしれない」
「あ、ありがとう。でも私剣握った事なんてない…」
イリーナは恐る恐る目の前に突き出されたそれを手中に収め、ぽつりと零した。
「持ってないよりかはマシだろ。そんなん適当に振り回せば当たる」
と適当に返事を返しながら最善の策を探っていく。既に日は沈みかけ、夕焼けへと変わっていた。
「よし、決まり。この作戦でいく」
あれから時間をかけ漸く決まった作戦とは…名付けて"イリーナ囮大作戦"であった…。
「いいか、まず俺が麻袋に入ったお前を担いでその何とか伯爵の屋敷まで歩いていく。んで、何とかして屋敷の中に入り込みその何とか伯爵をぶちのめす」
「うん。それで、ぶちのめしてどうするの?」
「逃げる」
簡潔にそう述べればイリーナがぽかん、と口を開いて固まった。
「おーい、帰ってこーい」
目の前でゆらりゆらりと手を振ってやればがっしと力強く掴まれる。骨がミシミシと嫌な音を立てている。手を引き抜こうと試行錯誤しているとイリーナがずいっと身を乗り出して顔を近付けてくる。
「ちょっと。指名手配とかされるの勘弁なんだけど!あんた仮にも王子なんでしょ!?しかも馬鹿でかい権力持った国の。だったら権力使ってでもなんでもいいから丸く収めなさいよ…っ」
イリーナの黒い殺人笑顔(リヤン命名)が炸裂する。そのあまりの迫力に気圧されたリヤンはこくこくと必死に頷いたのであった。
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イリーナの黒い笑顔に負けたリヤンは作戦を練り直し不機嫌そうに尻尾で殴りつけてくるイリーナを諭し、ついに屋敷に乗り込むところまでこぎ着けた。
「な、長かった…。もう完全に夜だし……」
疲れ切った顔を覗かせながら袋に詰め込んだイリーナをちらりと一瞥する。
気絶している振りをしてもらいながら中に乗り込み、権力を活用しようという作戦である。
囮大作戦と何ら変わりない内容ではあるが、致し方あるまい。
イリーナには護身用にダガーナイフを持たせてはあるし、もし危なくなったら例の友人を連れて逃げろとも伝えてある。それに俺に身に何かあった時に無事にこいつらの故郷へ帰れるように金品やらも多少持たせている。つまり、こいつらだけは無事に逃げ切れる様にしてあるわけだ。
いつもの自分では考えられないような行動である。少し笑いがこみあげてくる。
「…ちょっと、何笑ってるの」
袋の中からくぐもった不思議そうな声が聞こえてくる。
「あー、何でもない。そろそろ行くか」
「…ふぅん。行くなら早くしてよね。この体勢案外つらいんだから」
「お前、自分が助けてもらってること理解してる?」
げしっと袋を蹴り飛ばして担ぎ上げる。
呻き声が漏れて来るもどこ吹く風といった感じで無視して歩いていく。
そしてついに門の前まで来たとき、門兵に呼び止められる。
「おい、そこのマントを着た奴。こんな時間に何の用だ。答えによっては…」
そう、リヤンは今ボロボロのマントを身に纏いフードで顔を隠していた。門兵からすれば怪しい限りなのだ。だがリヤンは脅しを気にも留めず口を開く。
「そちらの主人が逃げ出した猫人族の奴隷を探していると耳にしてやってきたのだが、少し遅かっただろうか…。では目通りを諦めて奴隷市場で売りさばくとするか…」
至極残念そうな声で渾身の演技をする。
「ちょ、ちょっと待て。その袋にはいっているのか?名前は?」
「ん?あぁ、そうだ。名はイリーナという」
答えてやれば門兵は少し待っていろと言い、中へと急ぎ戻って行った。
「…掛かったな」
「…そうね。ちょろいもんだわ」
2人がこんな会話を繰り広げている事も露知らず、門兵は主人の元へとひた走るのであった。
20分程待たされ、漸く中に入れると思いきや長い長い庭を歩かされたリヤンはとても疲弊していた。
何と言ってもイリーナを担いでいるのだ。重い上に歩かされれば疲れるに決まっている。
屋敷に辿り着き、中をメイドに案内されている間リヤンが喋ることは一度もなかった。
「…着きました。中でレンテロル様がお待ちです」
無機質な声で告げ、頭を下げて去っていくメイドを遠い目で見送りながらリヤンは重い溜息を吐いた。
「面倒くさい…。とても面倒くさい…。後伯爵の名前今知った…」
駄目かもしれない、なんて思いながら改めて目の前に立ちはだかる扉を視界に入れる。
金や宝石で装飾されたその扉は重々しい雰囲気を醸し出していた。
「ねぇ、ちょっと。早くして。本当にこの体勢つらいの」
イリーナが小声で訴えかけてくる。仕方ない、覚悟を決めて行こう。そう決意した瞬間突然扉が開いた。
「遅い…何をやっているんだ」
そんなセリフと共に現れたのは背が低くてでぶーんと太っていて、脂汗をかきながらふごふごと鼻を鳴らしているおっさんだった。
2話は伯爵とであった所で終わりとさせて頂いたわけですが、自分で書いてて思いました。伯爵キモイな、と…。
次話は伯爵の変態ぶりを出しつつやっていきたいなぁ、と思っております。今度はもうちょっと早めに更新したいな、というところで終わります!