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旧作  作者: hayashi
シーズン3 エピローグ
95/114

未来へ向かって(シーズン3・最終回)

 空気がやわらかく感じられようになり、もうすぐ春になろうという休日。

 相変わらずリサはベッドでゴロゴロしていた。すっかり寝坊をしてしまい、もうお昼だ。

 セイヤも寝転びながら、フィオから数冊ほど借りた『リサ漫画』を読んでいた。フィオはすでに十数冊のノートに下絵を描き貯めていたのだ。


「あ~休日はベッドから離れるのが一苦労になっちゃったね」

 もはやトイレに行くのでさえ億劫だ。

「それでもオレらは、ほかの治安部隊の連中よりラクさせてもらっているよな。軍との合同演習がない日はいちおう定時で帰らせてもらっているんだから」

 フィオの漫画ノートに目を落としたまま、セイヤはリサの愚痴につきあった。

「そうだね……」

 相槌を打ち、何気にふとリサはベッドのサイドテーブルに並べて置いてあるはずのゴリラのぬいぐるみへ目をやる。ゴリラのぬいぐるみは3つとも、うつぶせにひっくり返されていた。

「あ、またゴリラがうつぶせになっている。セイヤがやったんでしょ」

「ゴリラと視線を合わせたくないからな……というか、ゴリラの線はなしだ、と言っていたよな。なのに何でここにゴリラのぬいぐるみがあるんだ? しかも3つも。それもオレらのベッドに」

「仕方ないでしょ。ルイがくれたんだから。この間、フラっと動物園に寄ったら、『ゴリラ3兄弟』があまりにカワイくて、つい衝動買いしちゃったんだって。……って、この説明、何度もしているよね」


 そう先日、久しぶりにルイから連絡があり、このゴリラのぬいぐるみをおみやげにもらったのだ。『ゴリラ3兄弟』は動物園のみやげもの店に数組並べられていたらしいが、その中から一組だけ選ぶことができず、あるだけ全部、大人買いしてしまったという。ルイが元気そうでホッとしたリサだったが、ルイからのコンタクトが何よりも嬉しかった。


「よりによって、何でゴリラが3兄弟なんだ?」

 セイヤがまだブーブー言っていた。しかも昨日も同じようなモンクを繰り返していたっけ。

「知らないわよ。でも、3兄弟ってとこがミソだよね」

「で、よりによって、どうしてそこに置くんだ?」

「だって、まだソファは買ってないし、ほかに置く場所ないし」

 結局、あれからずっとソファとテーブルは買いそびれたままだ。

「クローゼットにつっこんでおけばいいだろ」

「ルイに悪いじゃん。せっかくくれたのに。それにけっこうなお値段だよ、これ」

 そう言って、リサは『ゴリラ3兄弟』を起こし、ベッドのサイドテーブル上に並べた。この『ゴリラ3兄弟』がわりと気に入っているのだ。


 それを見たセイヤは……ルイのヤツ、どうしてオレの好みに合わないものばかり寄こすんだとため息をついてしまった。

 ゴリラが3匹も並んでいると、どうしたってジャン先輩と『ゴリラその1』と『ゴリラその2』を思い出す。それもベッドにあるのも由々しき問題だった。

 そう、ゴリラたちに見られていると思うと『夫婦生活』に支障をきたしそうなのだ。しかも、そのゴリラのぬいぐるみは何だかとてもイヤらしい笑顔をしていた。ま、セイヤだけそう見えるのかもしれないが。


「どうしてもゴリラをそこに置きたいなら、うつぶせにしてくれ。これだけは譲れない」

 ついにセイヤの『譲れない発言』が出てしまった。これが出ると絶対にセイヤは譲らない。


「……仕方ないか……」

 ため息つきつつリサは『ゴリラ3兄弟』をうつぶせに戻した。たかがゴリラ、されどゴリラ……ここが妥協点である。


「ゴリラ3匹じゃなく、子ども3人なら嬉しいけどな」

 何気にセイヤはつぶやいてみた。いや、ゴリラの場合、3匹ではなく、3頭になるのかな、と細かいことを気にしつつ。


「え……子ども3人も欲しいの?」

「できたら……」

 そう言いつつも、ふと自分は子どもを持つ資格があるのだろうか……多くの人の血で染まった手を持つ自分が……と一瞬、セイヤは夢を語る言葉を飲み込む。


「ま、そのことについては改めて話し合いましょう」

 リサは苦笑しつつ「その代わり、パパも育児参加してもらわないとね」と釘を刺してきた。


「……ああ」

 当然そのつもりだ。セイヤは胸に手をやる。やっぱりリサと自分の子どもが欲しい。そして家族と一緒に幸せに暮らしたい……


 その時、学生時代に聞いたサギーの言葉が、頭に降ってきた。

 ――いかなる理由があろうと殺人を行った者は幸せになる資格はありません。それだけの罪を背負うのです――


 もちろんサギーは本心でそう言ったのではなく、治安部隊や軍のイメージを悪くさせようとして放った言葉である。シベリカが仕掛けてきた教育工作の一環だ。

 だから、学生時代のセイヤは、自衛権を認めさせないその考えこそ人権侵害だと突っ込んだ。


 そうだ、幸せになる資格がないのだとすれば、人を傷つけ命を奪う可能性があるこの仕事をするヤツはいなくなる……セイヤは思う。誰かを犠牲にすることもなく、誰かに攻撃されることもなく、そしてその恐怖を味わうこともなく、善人のままで平和に一生を終えられる人は幸運だと。そう、単に幸運なのだ。その平和は、誰かの犠牲のもとで保たれているのかもしれないのに。


 その時、お腹が鳴った。結局、朝食も抜いたまま眠りこけ、お昼ご飯もまだである。

「お腹空いたよね。そろそろご飯の支度をしますかっ」

 ようやくリサがベッドから立ち上がった。

「何にするんだ?」

 期待を込めてセイヤはリサを見上げる。

「とりあえず焼飯ならすぐにできるよ。昨日のご飯の残りと卵あるし。ほぐし鮭とネギとピーマンを刻んで入れれば、そこそこ栄養バランスいいし」


 リサの焼飯はパラパラとしていてなかなか美味しい。

 作り方は簡単――まずご飯を電子レンジで温めなおし、ほんの少し水をたらして、ご飯をほぐしておく。高温に熱したフライパンに油を入れ、次に卵を、その後すぐに、そのほぐしておいたご飯を入れて、強火のまんま、よくかき混ぜながら炒めるのがコツなのだという。具材を入れ、さらにかき混ぜて火を通し、塩コショウをふる。最後にごま油を少量ふりかけ、軽く混ぜる。わりとお手軽にできので、リサがよく作る定番料理だ。ただし、フライパンにご飯を入れ過ぎると、火の通りが悪くなるので、1人前ずつ作る。「熱いうちに食べて」ということで、いつもセイヤが先に食べることになり、リサと一緒にいただけないのが残念であるが――


「夕飯は?」

「それは夕方、買い物に行きながら相談しようね。あ~、洗濯もしておかなきゃ。セイヤは掃除よろしくね。お風呂とトイレもお願い。結局、休日も何やかんやで忙しいよなあ……」


 平和になったとは言えないが、セイヤとリサのささやかな暮らしはこれからも未来へ向かって続けられていく。セイヤはフィオから借りた『漫画ノート』を閉じた。

 ベッドのサイドテーブルの上に伏せて置かれているルイからの贈り物『ゴリラ3兄弟』が窓から差し込むやわらかい日差しを浴びていた。



    ――「PRIORITYプライオリティ」シーズン3 終わり――

・・・・・・・・・・

あとがき


「プライオリティ」はシーズン3で、ひとまず大きな一区切り。

 けどシベリカ工作員の少年キリルと少女サラについては未消化ですね。断章ではキリルについて触れましたが、サラは謎のまま・・・なので、シーズン4で彼らのことが明らかになり、それなりの決着がつきます。


 時々、過去に投稿したシーズン1から見直し、加筆訂正をしてます。

 より読みやすく、描写は豊かに、硬い部分や重複部分を削除、プロパガンダ臭が強く辟易しそうなところも削除、または短くしたり・・・直す部分が多すぎです^^;


 もちろん投稿する前に見直しているものの、それでも直すべきところが後になってボロボロ出てくるもんなんですね。


 そこで小池氏の言葉を紹介。

『クリエーターの初心者にありがちなのが、「ある程度モノになるまで人に見せたくない」というこだわりが強すぎる事。そのこだわりが強すぎるといつまでたっても人に見せられる完成品は作れないよ。人に見せて、色々な指摘を受ける事も、制作過程の一部だと考えるのだ。』


 ということで、完成度が低くくても、まずは公開し、さらに見直しながら訂正を加えてます。

 まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします。

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