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旧作  作者: hayashi
シーズン3 第5章「国会襲撃」
86/114

無慈悲な戦闘

前回までのお話。

国会襲撃する工作員たち……サギーをはじめとして、セイヤとリサが捕まえたい人物が全てそろっていた。

その中に、左口元には大きな傷跡がある男もいた。忘れもしないあの傷跡……兄さんを殺した銀行強盗犯と同じだ……リサは男を凝視した。

リサが探していた、兄を殺害した犯人がそこにいたのだった。



 その時すでに、男はこちらに銃口を向けていた。

 リサの反応が遅れる。

 

 男の銃口が火を噴く。

 ――銃声。


 が、セイヤの盾が銃弾を防いだ。腕に衝撃が走り、思わずよろける。

 即座に『クール』も撃ち返す。

 しかし、彼らは本会議場に入ってしまった。


 彼らの後を追う『ゴリラその2』『クール』とセイヤとリサだったが、もう一箇所のドアの陰から敵がマシンガンを撃ってきた。その弾幕に足止めさせられる。

 その時、向こう側から『ゴリラその1』と『メガネ』の姿が見えた。『メガネ』がすかさずその敵を狙撃する。敵のマシンガンが止んだ。


 特命チーム6名は再び合流した時、本会議場の中から爆発音と銃声が響いていた。

 大型防弾盾の陰に身を伏せ、警戒しながら本会議場に入ろうとした時、盾に銃弾が浴びせられ、また足止めを食った。


 敵の弾倉交換時を狙い、銃弾が止んだ直後、すばやく『メガネ』と『クール』、そしてリサが狙撃を行う。とくに『クール』とリサの射撃は正確だった。あっと言う間に敵を仕留めていく。

 もう特命チームの足を止める者はいなかった。 


 本会議場に入った時、目に飛び込んできたのは、両手を挙げるクジョウ首相の頭に銃口を押し付けるサギーの姿だった。

『メガネ』と『クール』は固まってしまった。この位置からの狙撃では、ほんのちょっとでもずれればクジョウ首相に当たる。


「さよなら、トウア」

 サギーがトリガーを引く。


 ……パン……


 が、先に撃ったのは、リサだった。サギーの銃が床を転がる。

 混戦状態にもかかわらず、サギーは撃たれた右腕を押さえながら、その銃弾が飛んできた方向を見据え、リサを見つけた。


 お互いの視線が絡み合う。


 サギーはなぜか頬を緩め、微笑んだ。

 一瞬、毒気を抜かれたリサだったが、すぐさまサギーを仕留めようとトリガーを引こうとした時、『あの少女』がこちらに銃口を向けている姿が目に入った。

 銃弾はリサへ向かって放たれたが、すでにそれに気づいていたセイヤの盾がリサを守る。


 サギーと『少女』――リサはどちらを先に仕留めるか迷った。その迷いの時間がリサから攻撃の機会を奪った。あっと言う間に『少女』は混戦の中に消える。


 サギーの攻撃を免れたクジョウ首相は足をもつれさせながらも、サギーやほかのテロリストから遠ざかるように逃げ、こちらとは反対側にある出入り口へ向かっていた。そこを出ると、2階から3階へ本会議場傍聴室の通路につながる階段があり、その3階本会議場傍聴室を抜けると中央広間へと続く。


 サギーは右腕を負傷しながらも、クジョウ首相を追いかけていた。

 リサはサギーを目で追い、銃口を向けていたが、狙いが定まらない。


 その時、クジョウ首相に銃口を向けている少年の姿に気づき、すかさずリサは少年へ発砲した。中央百貨店おもちゃ売り場で子どもたちを無差別に銃撃した犯人の一人だ。少年はリサの銃弾を受け、倒れた。リサの弾が切れる。


 その間にクジョウ首相は第一本会議場から中央広間へ続くドアへと姿を消していた。サギーもそのあとを追ったようだった。


 ほかの者は残った敵との応戦で手一杯だった。大型防弾盾を持つ『ゴリラその1』と『ゴリラその2』に守られながら、『メガネ』と『クール』も残りの敵と応戦していた。

 本会議場では手榴弾も使われたらしく、国会議員の8割以上が負傷し、そのうち3割はすでに息がない様子だった。重傷者も多い。無事または軽傷の議員らはイスの下に身を伏せ、ガタガタ震えてていた。


 リサは『あの少女』が気になったが、まずはサギーを仕留め、クジョウ首相を救わなくてはならなかった。

「首相が第一本会議場から出ました。腕を負傷した敵の一人がそのあとを追ってます。オレとリサも追います」

 セイヤが『ゴリラその1』に連絡を入れた。

『分かった。オレらもすぐ追いかける。すぐ特戦部隊が加勢に来てくれるはずだ』

 無線機から『ゴリラその1』が応えた。多くの議員が残っている中、第一本会議場にいる敵をそのまま放っておくわけにもいかず、今は特戦部隊の到着を待つしかなかった。


 セイヤとリサは盾で身を隠しながら、本会議場の壁際に沿って大回りをし、クジョウ首相とサギーを追って、第一本会議場を後にした。

 階段を上がり、3階にある本会議場傍聴室につながる一本通行の通路を進み、傍聴室を抜けて中央広間に出た。

 広間の真ん中には上へ行くアンティーク調の螺旋階段があり、中央塔の最上7階まで登れるようになっていた。ちなみに3階中央広間から下へ行く階段はない。


 2階の第一本会議場を出てから、3階の傍聴室を経て、中央広間のこの螺旋階段まで、血が点々と続いていた。階段手すりに耳を当てると、振動音が聞こえる。誰かが階段を上っているようだ。

「この血はサギーの……」

「おそらくな」

「中央塔に登ったようね」

「ああ」

 3階中央広間からは上へ行く螺旋階段しかなく、下へ降りる時はエレベータを使う。今現在、緊急事態ということでエレベータは止められている。そして今日は第2本会議場は休みなので、そっちの通路へつながるドアは鍵がかかっていて抜けられない。逃げ道は塔へ上るこの螺旋階段しかない。


「じゃ、行こう」

 リサが促したが、セイヤは躊躇した。

「もうすぐゴリラたちが来る。ゴリラたちを待とう」 

「でも急がないと……首相を守るのが私たちの任務でしょ」

「……」

「大丈夫、私が必ずサギーを仕留める」

 リサはそう言うものの、セイヤは逡巡していた。


 ……中央塔に上っている間、背後から敵がきたら、リサとオレだけで対処できるのか。敵は命を捨てる覚悟で臨んでくる。そんな敵に二人だけで確実に勝てるのか? 

 ……そう、おそらく敵は、生きて帰ろうとは思っていない……


 だからセイヤはとても不思議だったのだ。彼らはどうしてそこまでして国に尽くすのか? 彼らの動機は何だ? 洗脳でもされているのか? シベリカとはそこまでして命をかけるに値する国なのか? その彼らの一人であるサギーは何を考えているのか?


 その時、第一本会議場へつながる通路口のドアから身を潜め、こちらを狙う銃口がリサの目に映った。

 セイヤの持つ盾は別方向に向いている。


 リサは即座に撃った。

 偶然か神業か、リサの放った銃弾は相手の銃口へ当たった。その衝撃で銃は敵の手から吹っ飛んだ。

 ……その時、リサはなぜか……兄が力を貸してくれた、と思った。

 

 銃声を聞いたセイヤはリサの前に立ち、すぐにその方向へ盾を向ける。 

 相手の姿を確認してリサは一瞬、息を呑んだ。男の左口元から頬にかけて大きな傷跡があった。


 男が銃を取りに行こうと動いたが、それを許すリサではなかった。

 躊躇なくリサの放った銃弾は男の右足を貫通した。男は勢いよく床に転んだ。


 さらにリサは近づき、男の左の足を撃った。


 男が呻く。

 その声を聞いたリサは確信した。こいつこそ、間違いなく兄さんを殺したあの犯人だ、と。


 ――やっと見つけた――


 リサは駆け寄ると、男の左手と右手の甲も撃ち、両手を粉砕した。ついでに腕も数発撃った。銃弾を打ち込む度に男の体がピクッピクッと動いた。しかし声を発することはなかった。

 両足両手を撃たれた男は全ての自由を奪われた。男が横たわる床に血が広がっていく。


 ――あの時も、兄さんの体から赤いものが吹きこぼれ、床に広がっていった――


「当然の報い……」

 リサは冷たく男を見下ろした。殺してもよかったが、痛みで苦しませるほうが、より重い罰となるだろう。そして、いずれは自白剤の使用条件が緩和され、この男も対象となる。長い長い地獄を味わってもらうのだ。

 ――ラクには死なせない。


 リサは乱暴に男の腕を引っ張り、うつぶせにし、後ろ手に手錠にかけた。無表情のリサに男の血が付着する。

 男は小さく呻いたものの、大声をあげることはなかった。


 その間、セイヤは周囲を警戒し、左手で盾を持ちながら、銃を構える。

 左口元に傷のある男――以前、リサから話を聞いていたセイヤは、あれがリサの兄を殺した犯人だと察していた。だから、リサの憎しみによる過剰な攻撃を止める気は全くなかった。すでに血塗られている自分にそんな権利はない。

 ずっと抱えてきた憎しみを犯人にぶつけることで、ちょっとでもリサの気がすむのであればそれでいい。この期に及んで、きれいごとを考えようとは思わない。

 それに、もしも家族が殺されたら、自分はこの程度では済ませないだろう。

 ただ、この男……どこかで見た気がした。


 とその時、『ゴリラその1』から連絡が入った。

 やっと特戦部隊が第一本会議場へ到着したという。特戦部隊がそこへ向かう途中にもまだ敵が潜伏していたらしく、銃撃戦となり、時間を取られてしまったようだ。本会議場に残っている敵の殲滅と議員の保護を、特戦部隊と『ゴリラその2』と『クール』に任せ、すぐにこちらに向かうとのことだった。


『ゴリラその1』から先に行って、クジョウ首相を守るよう指示を受けたセイヤとリサは中央にある螺旋階段に目を向ける。

「さ、サギーのところへ行きましょう」

「ああ」

 左口元に傷のあるこの男はもう動けない。後から来るだろう仲間が確保する。今はクジョウ首相を救い、サギーを仕留めることが優先された。

 本会議場での敵はもう残り少なかったし、特戦部隊が加勢に入ったというから、あそこにいた敵はほぼ全滅するだろう。おそらく、あの『少女』も。

 リサは銃を、セイヤは盾を持ち直した。

 もう背後から敵が追いかけてくる可能性は低い。その場合は『ゴリラその1』と『メガネ』が片付けてくれるはずだ。


 議事堂に入った敵の数は26名。彼らのターゲットは首相を含め国会議員たちだ。当然、国会議員らがいる第一本会議場に戦力を集中させる。どこかに潜むとしても、あとから加勢にくるだろう特命チームや特戦部隊など治安部隊を足止めするために、第一本会議場へつながる道で待ち伏せするだろう。だから、中央塔に敵が潜んでいる可能性は皆無と考えていい。

 一般客もいないはずだ。国会が開催されている期間は一般人の立ち入りが許されるのは、中央塔7階展望室だけである。が、そもそもこの期間の一般客は少ないし、スタッフや護衛官がとっくに避難させているだろうから、今、中央塔にいるのは首相とサギーのみの可能性が高い。


 セイヤとリサは一段越しに螺旋階段を駆け上る。現在4階の資料館は閉まっており、5階6階は吹き抜けで、行けるのは7階の展望室のみである。

 7階床が見えた頃、そっと周囲を伺った。物音がしていた。


 展望室では今まさに――逃げまわっていたクジョウ首相に追いつき、サギーが左手で持った軍用ナイフで首相の背中を突き刺しているところだった。


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