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旧作  作者: hayashi
シーズン3 第4章「殲滅」
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犠牲―世間という魔物

 治安局長室では、ルッカーは慌ただしく各部署の報告を受けていた。

 ……あいつら、けっこう手荒くやったようだな。ま、早期解決のためには仕方ない。もし、あいつらがやらなきゃ、私から指示を出していたところだ……

 ようやくひと段落つき、苦笑いを浮かべながらルッカーは窓の外に目をやる。


 そこへセイヤから連絡がきた。

『局長ですか。端的に申します。敵の本命はおそらく国会です』


「たぶん、そうだな。今、国会では重要法案を審議中だ。クジョウ首相もいる」

 ルッカーは落ち着きはらった声で答える。


 電話の中のセイヤは一瞬、間を置いて、訊いてきた。

『気づいていたんですか?』


「お前も気づいたじゃないか」


『……局長はもっと前からお気づきだったのでは……』


「今、そんなことを話している時間はない。もう敵は本命に向かっているだろう」


『そうですね……今すぐ首相に連絡を入れ、超法規措置として軍を動かしてください。国会警護隊や議員らについている護衛官だけではとても防げません』


「いや、軍は動かさない。法に反する。動かしたら世間がうるさい。国内の犯罪には治安部隊が対処することになっている」


『……でも、国会を襲撃するなんて犯罪ではなく戦争行為です。さすがに世間も納得します』


「国会が実際に襲われればな。しかし軍が動いたことを敵が知ってしまい、そのまま引き返してしまったら、どうする? さすがに敵も軍を相手にしようとは思わないだろう。

 もし国会が襲われることがなかったら……世間は『軍を動かしたこと』を非難するだろう。 まずは確実に敵から攻撃を受けなければならないのだ。そして、軍を動かす時は議会を召集し、可決してからというのが我が国の法だ」


『……わざと襲わせるのですか?』


「いや、まだこの時点では敵の目的が国会なのかどうかは分からない、ということにしておこう」


『……』


「お前も思っているんだろう……世間という魔物を飼いならすには相応の犠牲が伴うことを。犠牲がなければ世間はきれいごとというぬるま湯につかったまま、厳しい現実と向き合おうとしない、と。

 民主主義国家において世論は無視できない。うまく飼いならさねばならないのだ」


『……』


「中央地区や各地区では今現在、シベリカ人のデモ隊があちこちで活動し始めたらしい。ここの『シベリカ人街』で、お前達治安部隊の制圧によって多くのシベリカ人犠牲者が出たことをマスコミが報道していたからな。

 通常、犯人確保が基本だが、時間をかけず殲滅という方法をとったことで、シベリカ人らは治安部隊に弾圧されたと思っているかもしれん。デモ隊の中には暴れるヤツもいて、それに対処している治安部隊は手をやいている。おそらく工作員が扇動しているんだろう。これからもっとエスカレートするはずだ。全国の治安部隊は手一杯だ。こちらの応援には来てくれない。それでも……軍は動かせないのだ」


『……』


「国家権力を警戒するあまり、軍をがんじがらめに愚かな法で縛ってしまったことを国民は後悔するだろう」


『……』


「これから起こりうることはトウア国民が望んだのだ。最初から速やかに軍を動かせていれば回避できたことだがな……それを思い知ってもらう」


『……』


「基本的に軍は動かさない方向で行くが、首相や国会議員が全滅しても困る。被害状況を逐一報告してくれ。

 万が一の場合、超法規的措置として軍の特殊部隊を動かす手筈を整えておく」


『……』


「軍の特殊部隊が到着するまでの間、国会の警護隊と護衛官と協力しながら何とか持たせてくれ。もちろん、軍を動かすのは最後の手段だがな」


『はい』


「国会議事堂の見取り図は頭に入っているよな。以前、テロ対策で国会が襲撃されるシュミレーションを何度も行ったはずだ」


『はい』


「では今より、特命チームは特戦部隊を伴って国会へ向かうように。私からファン隊長へ指示を出す」

 そう言うとルッカーは電話を切った。


   ・・・・・・・・・・・・・


 ルッカー治安局長と話し終えたセイヤは携帯電話をしまい、特命チーム専用の装甲車から出た。

 ほかの特命チームと特戦部隊の隊員らは、警察捜査隊から軽く事情聴取を受けていた。もちろん本格的な事情聴取はこれから当分の間、ずっと続くことだろう。


「装備品の確認は済んだか?」

 装甲車から出てきたセイヤに『ゴリラその1』が声をかけた。

「はい」

 セイヤは『ゴリラその1』から微妙に視線を外して答える。


 その時、ファン隊長からの指示がきた。

『特命チームおよび特戦部隊は、完全装備で国会議事堂へ急行せよ。『シベリカ人街』の北口へ抜けろ。河川敷の広い草原に輸送ヘリが待機している。装備も全てそろえてある』


「完全装備……軍の特殊部隊と同等の重装備ってことか」

 爆破でほぼ全壊に近い状態となった『シベリカ加工食品』の工場と倉庫の捜査と処理を引き継いだ警察捜査隊と機動部隊を残し、特命チームと特戦部隊は次の任務へ急いだ。


「国会襲撃は、今までけっこうシュミレーションしてきたからな……楽勝だぜ」

 輸送車に乗り込みながら、『ゴリラその2』は不敵な笑みを浮かべていた。


「もうヘリが待機しているとは……何だか手際がいいな……予め国会がターゲットだと知っていたんじゃないか」

 そう言いながら『ゴリラその1』が、なぜかセイヤを見やる。


 セイヤは視線を逸らし、あえて何も反応しなかった。

 ……国会が襲撃されるシュミレーションを何度も行ってきたのは、すでにその時から国会が襲われることをルッカーは想定していたからだろう……


 ほかのメンバーも次々席に着き、シートベルトを締める。

 特命チームでは、負傷したジャンは戦線離脱をしているので、軍出向組の4人とセイヤとリサが『国会襲撃を阻止する任務』を負うことになった。いや、正確には、襲撃を阻止するのではなく、まず襲撃させて、その上で首相と議員らを守る任務だ。

 輸送車は『シベリカ人街』の北口を目指し、河川敷の草原に向かった。そして装備を整え、そこに待機していたヘリに乗り込む。


 朝方は雲に覆われ重く感じた空がいつの間にか、天へ通じるかのように晴れ渡っていた。

 ヘリが飛び立ち、一同は国会議事堂を目指した。


第4章終了。次回より第5章「国会襲撃」です。

今、シーズン1の最初から見直し、加筆訂正してます。今まであまりに少なすぎたので。海をキーワードに情景描写を加筆してます。

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