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旧作  作者: hayashi
シーズン3 第3章「新メンバー」
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合同演習

挿絵(By みてみん)

 トウア国防軍との合同演習の日がやってきた。


 ここはトウア市北東部の外れにある陸軍中央地区駐屯地。

 特命チームの新メンバー軍出向組4人と、ジャン、セイヤ、リサは、上空でボバリングしているヘリから『ファストロープ降下』を行っていた。着地後、俊敏に行動できるよう、命綱はつけずに手足だけの力で1本のロープを伝って次々と降下する訓練だ。


「グズグズするなよ」

 空挺部隊の指導者の檄が飛ぶ。


 着地後はとにかく走る。重装備のまま、とことん走らされた。ランニングは毎日やっているが、10キロ以上の装備をつけて走ることに、まだ慣れていなかった。


「お前ら、遅い……とくに女、足手まといだよな」

 合流地点にジャン、セイヤ、リサがやっとこさ到着すると『ゴリラその2』が鼻で笑っていた。


「仕方ないんじゃないですか。あんた達は今までも散々やってきたことだろうけど、オレらはここ最近、始めたばかりですから、経験の差が出て当然です」

 無視しても良かったが、とりあえずセイヤは反論してみた。

 リサは相当、息が上がっていて苦しそうだった。冷たい風が吹き荒れていたが、体は汗ばんでいた。


「やれやれ……レベルの低いお前らと合同訓練なんてな……ったく、やってられねえよな」

 肩をすくめながら『ゴリラその2』が大げさにため息をつく。

『クール』は相変わらず無視、『メガネ』は相変わらずリサを見つめ、その後にチラッとセイヤに視線を移す。


「大丈夫か?」

 ジャンがリサに声をかけてきた。

 リサは息を上げながらも親指を立て、口角を上げて笑顔を見せた。こんなことで負けていられなかった。


「ま、こっちは経験浅いし、お手柔らかに頼むぜ」

 ジャンが新メンバーらを見回したが、ジャンを無視するように『ゴリラその1』が指示を出す。

「さてと、ここからは模擬弾による演習だ。一三〇〇時に開始となる」


 軍出向組4名が加わった特命チームでは、『ゴリラその1』がチームリーダーとなった。

 ジャンは快くリーダーの座を譲った。というか、リーダーの座にそれほどこだわりはなかったようだ。『ゴリラその1』は年齢29歳でジャンより3つも年上だからだろう。


 ちなみに『ゴリラその2』は28歳、『メガネ』は23歳、『クール』は24歳だ。


「確認のため言っておくが、この演習ではオレが隊長を務める。そっちの二人、分かってるよな?」

 睨みつけるような視線を送りながら『ゴリラその1』は、セイヤとリサを顎で示す。

 チームの中で最年少となる22歳のセイヤとリサは小さく「はい」とだけ返事をした。


 ――模擬弾の演習が始まった。


 特命チーム7名は身を潜めながら、演習場の中にある草原へ出た。さらにその先には岩場があり、その一帯が敵の陣地ということになっていた。

 ちなみに各自、小銃と拳銃、弾薬はそれぞれ予備のマガジン2つ、1発の模擬手榴弾が支給されている。


「もうすぐ敵陣だ」

「このまま行くか? 迂回するか?」


「二手に分かれる。そっちの未熟3人チームはこのまま進め。我々は迂回して敵陣の後方から攻める。これより一三三〇時、攻撃開始だ。そっちの3人は固まらず、バラバラになって、まず敵陣を手榴弾で叩け。その後、適当に銃撃してろ。期待はしてないが、ま、できるだけ敵を引き付けておいてくれ」


 テキパキと『ゴリラその1』が指示を出す。

 ジャン、セイヤ、リサの3人はそのまま前進し、敵陣近くで待機した。


 一三三〇時になり、まず手榴弾で敵陣を攻める。


 が、手榴弾が炸裂すると同時に側面から銃声が聞こえた。

 ジャンが倒れた。模擬弾といえど当たれば相当痛いし、衝撃もかなりのものだ。ジャンの左胸にはべったりとペイントマーカーが付いていた。

 こっちの動きは読まれている。即座にセイヤとリサは身を伏せ、背の高い草原の中を移動する。


 あちこちで銃声がした。


 リサは岩場の陰まで移動した際、敵から発砲された。岩に当たって、模擬弾が撥ねる。リサは銃を構え、ターゲットを確認すると撃った。その後、すぐに身を伏せ、移動する。セイヤがその後を追う。


 その時、手榴弾が投げ込まれ、転がってきた。とっさにセイヤは立ち上がり、リサのもとへ駆け寄った。背中に模擬弾を受けながらも、模擬手榴弾が爆発する前にリサを抱えて転がった。

 セイヤの陰に隠れながら、ターゲットを確認し、リサは撃った。


 そのリサの放った模擬弾は敵の左胸に当たり、ペイントマーカーが広がった。

 が、セイヤの背中にも模擬弾のペイントマーカーがしっかり付いていた。


 リサとセイヤはお互い、苦笑いした。

「かばってくれて、ありがとう……でも、これ訓練だよ」

「そういえば、そうだったな……オレも戦線離脱か。ま、がんばれよ」

「……うん」

 リサは顔を引き締めると、そのまま移動を続けた。


   ・・・・・・・・・・・


 ――演習が終わった。

 やはり軍のチームには敵わなかったが、特命チームで一番最後まで残ることができたのはリサだった。


「どうせ逃げ回って、ずっと隠れていたんだろ」

 帰り支度をしていた時、『ゴリラその2』がバカにしたような笑いをリサに投げかけた。


 リサは『ゴリラその2』には視線を寄こさず、鼻で笑った。

「負け惜しみ言うなんて……なさけない男」


「な、何……」

 眦を上げて『ゴリラその2』がリサに向かって一歩踏み出した。

 そこへセイヤが立ちふさがる。


「まあまあまあ、リサ、正直に言うなよ、そんなこと」

 あっけらかんとジャンが笑う。


「あんたらは軍からの出向組なのに、あっさり負けちゃいましたね」

 セイヤも挑発するように『ゴリラその2』にうすく笑いかけた。


「お前らが早々にやられたから、その分、オレらに負担が行ったんだろうが~」

 怒鳴り散らしながら『ゴリラその2』がセイヤにつかみかかろうとしたところ、リーダーでもある『ゴリラその1』が止めた。

「よせ……見苦しい」

「ちっ」

 舌打ちすると、『ゴリラその2』はそのまま仕度部屋から出ていった。


 やれやれとばかりに浅くため息をつきながら見送った後、『ゴリラその1』はリサに視線を向けた。

「今日の相手は軍の特殊部隊の予備軍だった……本軍はもちろんだが、予備軍もなかなかの実力だ。特殊部隊は軍の中でも優秀なヤツが選ばれるからな。それをお前は3人も仕留めたらしいな……」


 その言葉を聞き、リサも『ゴリラその1』に視線を合わせた。

「女、射撃の腕だけは認めてやる」

 そう言うと『ゴリラその1』も荷物を背負い、部屋から出て行った。その後ろを無言無視の『クール』が続き、『メガネ』はリサとセイヤに目をやりながらも、『ゴリラその1』と『クール』を追いかけていく。


「さて、オレたちも行こう。遅いとまたモンク言われるぜ」

 ジャンが、セイヤとリサの肩を交互に軽く叩いた。


 すっかり日が暮れ、空が夜の色に変わろうとしていた。

 特命チーム7名は、治安部隊専用ワゴン車に乗り込んだ。ジャンが運転席につく。


 帰りのバンの中でも、しばらくの間、沈黙が続いた。


 やがて、シンとした空気を破ってリサが『ゴリラその1』に向けて口を開いた。

「あの……私のことはまだ認めなくていいです。模擬弾の演習では、この人が私をかばってくれたので撃たれずに済んだんです。本当ならその時点で私はリタイアでした。最後まで残ったのは私の実力ではありません」

 リサは隣にいるセイヤを指差しながら弁明した。


『ゴリラその1』は片眉をあげて、リサを見返す。

「そういえばお前、その男と同じ苗字のようだが?」


 それを聞いた『ゴリラその2』が噴出していた。

「え? 知らなかったのか? こいつら夫婦だぜ。この男は……ほら、週刊誌で一時話題になった問題人物だよ。木刀暴行事件を起こしたっていう……」


「ああ、そういえばそんな話題もあったっけ?……へえ、おとなしそうな顔して、けっこうヤバいヤツだったんだな、お前」

『ゴリラその1』は興味深気にセイヤを見やる。


『メガネ』もまたまたセイヤに視線を寄こしていた。そしてリサにも目をやる。

『クール』はやっぱり完全無視だ。


「どうとでも捉えてください」

 セイヤは無表情に答えた。


「あの……話題をもとに戻していいですか」

 リサが片手を上げつつ、今度は『ゴリラその2』に視線を移した。

「ですから、あなたも負け惜しみを言う必要はなかったんです。私も実力で残ったわけじゃないので」


 一瞬『ゴリラその2』はポカンとした表情をしたものの、ほんの一瞬苦笑いし、あとはもう何も言わなかった。


「おいおいリサ、何だかそういう理屈っぽい言い方、ほんとにセイヤにそっくりだぞ。夫婦って似てくるんだな」

 運転しながらジャンが大笑いをしていた。


 セイヤも、さっきは『ゴリラその2』に対して「あっさり負けた」などと皮肉を言ってしまったが、ジャンとセイヤが早々にリタイヤした後、彼らは果敢に相手を倒しに行き、最終的に負けはしたものの、いい勝負だったと思っていた。ジャンとセイヤが抜けた分、よく持ったほうだ。

 彼ら4人の実力は決して軍の特殊部隊に引けを取っていない。


 冷え込んだ寒空の中を走るワゴン車の中は少しだけ空気が和んだ。

 夜をまとった空には星が見え始めていた。


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