特殊戦闘部隊
残暑が去り、青空が澄む中秋の頃――基礎過程が修了する。
リサもセイヤも希望通り『特戦部隊専門課程』行きが決まり――訓練校を卒業すれば、ほぼ確実に特戦部隊に配属されることになった。
その通告を受けた日の昼休み。
「特戦部隊行きが通ったね」
校内にある中庭の芝生に寝転がっていたセイヤを見つけたリサは、その隣に腰を下ろしながら声をかけた。
頬を撫でていく涼風が気持ちいい。どこかしらか秋の虫の声が聞こえてくる。
起き上がったセイヤはチラッとリサを見やり、独り言のようにつぶやく。
「女が通るなんてな……特戦部隊の上は何を考えているんだか……税金の無駄遣いだ」
さすがに聞き捨てならないとばかりにリサはすかさず反応した。
「女性蔑視発言!」
「事実を言っただけだ」
そう言うとセイヤはシャツの袖を巻くりあげ、筋張った腕を出してきた。手は肉厚でけっこう大きい。
「格闘術の稽古で、オレがいつも手加減しているのは分かっているだろ? 何なら今、腕相撲でもしてみるか? リサが勝ったら……いや、30秒持ちこたえることができたら今の発言、取り消すよ」
セイヤの腕は今ではリサより5割増し太い。二の腕になるとそれ以上になる。筋肉の量が全く違うことは一目瞭然。いつの間にかセイヤは、ガッチリした体型になっていた。よくこれだけ短期間に体を作り上げたと敬意を表したいくらいだった。
もちろん、格闘術の稽古で手加減されていることもリサは分かっている。力勝負では歯が立たない。
「どうする、負けを認めるか?」
「あなたが私より勝っている部分って男ならではの筋力だけじゃない」
どうがんばっても、男のセイヤと腕相撲して勝てるはずがないし、30秒どころか5秒も持ちこたえられないだろう。リサは忌々しげに立ち上がり、セイヤから離れた。
格闘術の稽古はほぼ全専門課程の必修科目だが、当然、特戦部隊の重視する科目でもある。
稽古ではセイヤ以外、女のリサを相手にしてくれる訓練生はいなかった。いたとしてもリサの体を触る目的の不埒なヤツしかいない。信用できるのはセイヤだけだ。
セイヤも、ほかの男がリサに触るのは何となくイヤだったので、リサの相手をした。でも、いつも非力なリサが相手では自分を伸ばすことができない。なので余り時間に男性訓練生に頼んで相手をしてもらっていた。
リサはセイヤが相手をしてくれることに感謝しつつも、手加減されていることがやっぱり悔しい。それに現実問題として、男の犯罪者と取っ組み合いになった場合、負けるわけにはいかない。
「何で特戦部隊は『女』を採ることにしたんだろうな……」
今日の稽古でもリサを軽く転がし組み伏せながら、セイヤは考え込んでいた。しかもリサは女としても華奢な方だ。太ももは意外とムッチリしているけど……いや、それはともかくとして、運動神経や反射神経は決して悪くないが、男を相手にすれば、力負けするだろう。
特戦部隊では銃撃戦が中心になるとはいえ、女には荷が重く、不向きである。
「希望が通っちゃったから仕方ないけどな……」
セイヤは床に転がったリサを起こしてやる。
「……」
リサはムスっとしながら立ち上がった。
そんなリサにため息つきながらも、セイヤはアドバイスする。
「相手の力をもっと利用しろよ。相手が前に力をかけてきたら前に、後ろにかけてきたら後ろにだ」
「分かっているけど……」
「じゃあ、今度はオレを倒してみろよ」
「うん……」
それからのリサは、格闘技については男性より劣ることを認めながらも、この状況を打破すべく射撃の腕を磨くようにし、射撃訓練に重点を置くようになった。射撃の筋はわりと良かった。教官も褒めてくれている。
そう、射撃は男性陣と比べて格闘技ほどには差は出ない。射撃なら抜きん出ることができるかも――と、射撃に活路を見出そうと考えた。
ちなみに格闘術の稽古で、いつもいつもいつもセイヤとリサが組んでいるので、同期の訓練生の間では、二人は『公認のカップル』とされていた。
だが、セイヤとリサは友人関係のまま続いた。