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旧作  作者: hayashi
シーズン3 プロローグ
68/114

豊かさを求めて

 ……土の臭いを嗅ぐと、故郷を思い出す……


 オレが育ったシベリカの村は埃っぽかった。

 道路が舗装されていなくて、車が通るたびに細かい土埃を巻き上げていたからだろう。

 停電もしょっちゅうで、村全体が貧しかった。


 オレには2つ年上の兄貴がいた。

 兄貴は優秀で勉強がよくできた。村の学校内ではトップクラスだった。


 親は兄貴とオレを較べた。

 兄貴を見習うようにと、よく叱られた。


 正直、おもしろくなかった。

 親はいつも兄貴を頼りにしていた。オレのことはちっとも認めてくれなかった。


 けど、なぜか兄貴を嫌いにはなれなかった。

 兄貴だけはオレのことを認めてくれたからかもしれない。


 オレは運動だけは兄貴よりできた。

 そんなオレをうらやましいとよく兄貴は言っていた。両親には認められなかったオレも、兄貴のその言葉で小さな自尊心を満たすことができた。


 その頃、わんぱく坊主だったオレはイタズラばかりしていて、大人たちによく追いかけられた。

 ある日、高い木に登り、追ってきた大人たちをやり過ごしたが、下りる時、ちょっとヘマをやらかし、その木から落ちた。その時、突き出ていた鋭い木の枝に頬を引っ掛けてしまい、左頬から口もとにかけて、ざっくり肉がえぐれ、割れた。


 オレの家は貧乏で、医者にかかる金なんて出せなかった。

 だから、血が止まれば、そのまま放置した。

 そのせいか、今でもオレの左口もとには大きな傷痕が残っている。


 当然、高等学校に進学できる経済的余裕もなかった。

 結局、兄貴は進学をあきらめざるを得ず……優秀だと言われた兄貴も、勉強ができなかったオレも学校を出てしまえば、どんぐりの背較べ……変わりはなかった。村の中学校を卒業したくらいでは、条件のいい職につけない。

 オレたちは貧乏なままだった。


 その後、兄貴は結婚し、娘が生まれた。

 娘はぜんそく持ちでよく苦しんでいた。


 でも生活が苦しくて、病院に通うことができなかった。生活するだけで手一杯で、治療費なんてとても払えない。


 そこで兄貴は国のために働く諜報員になった。いわゆる工作員だ。

 シベリカ国はその働きに見合う報酬を払ってくれる。訓練所に行っている間も、その工作員の家族に、月々の手当てが国から支給される。


 兄貴の妻は最後まで悩んでいた。工作員は危険な仕事だからだ。そして離れ離れに暮らすことになる。……でも娘は救いたい……


 兄貴はそんな妻を説得し、ついに彼女も兄貴の決断を認めた。


 ただ、工作員となった兄一人分の手当てだけでは、娘の医療費を支払いながらの生活は苦しかった。

 そこでオレも兄貴と同じく、工作員に志願した。


 オレは将来に夢が持てない村の生活にも辟易していた。

 ――国家のために活躍すれば英雄にもなれるかもしれない。結果を出せば、たくさんの報酬を手にでき、長者となれる。将来が拓けるんだ。


 こうしてオレも工作員になるための訓練生になった。

 これで兄貴の分も含め、国からの手当てが2倍となり、オレの家は貧しさから解放された。


 両親は初めてオレを認めてくれた。自慢の息子だと言ってくれた。

 兄貴の妻もオレに感謝してくれた。そして心配もしてくれた。


 ――嬉しかった。


 ……オレは彼女が好きだった。彼女が喜んでくれるなら何でもできる。

 兄貴以上の働きをすれば、もっと認めてくれるだろうか……


 働けば働くほど、報酬も増えていく。

 工作員への道は、貧しさから抜け、落ちこぼれと言われたオレが英雄になれるチャンスだった。


 それから……

 兄貴は工作の失敗で、トウア国の治安部隊に捕まり……拘置所の中で自害した。

 

 けど、その見返りに兄貴の娘は高度な医療を受けさせてもらえるようになった。遺族となった兄貴の妻や両親の暮らしは国が保障してくれる。

 

 でも、もっと豊かになりたい。

 オレのことをもっと認めさせたい。


 ……兄貴以上の働きをしなければ……

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