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旧作  作者: hayashi
シーズン2 エピローグ
67/114

共鳴―セイヤ

 ――シベリカ工作員は次に何を仕掛けてくる?


 書類仕事を片付け、手持ち無沙汰だったオレはまた考え込んでしまった。

 ちなみにオレたち特命チームは、特戦部隊室から引越しをし、専用の部屋を与えられ、そこで仕事をしている。


 窓へ目をやると、灰色に雲が重く垂れ込め、空を覆っている。ここんとこずっと青く晴れ渡った空を見ていない。


 リサは射撃訓練で席を外していた。そのリサの射撃の腕は、完全にオレを越えた。射撃に関してはもうリサに太刀打ちできない。 


 そこへジャン先輩がトイレから戻ってきた。

「また考えごとか? お前のことだ、次は何が起きるか、いろいろ想定しているんだろ」

 オレにそう話しかけ、席に着く。そして、こう訊いてきた。

「お前が、シベリカ国の立場なら次はどう動く?」


 改めてオレは考えを整理してみた。

 ――国は純粋に国益のために、つまり損得勘定で動く。そこには正義などない――

 正義は自分達を正当化するために、自分たちの行動を周囲を納得させるために存在する。『善』のみで動いていたら、ジハーナ国のように消滅する。


 そう、ジハーナ国は『理想を追求する善なる国』ではなく、現実を見ることができずに甘い幻想の中にいた単なるお子様国家だったのかもしれない。

 けどトウア国はそこまでバカではない。国防軍も年々予算を削られてきたとはいえ、今のところ機能している。


 もちろん、シベリカ国はもっと強かだ。トウア国の海洋権益はシベリカ国にとって魅力的だろう。シベリカ国はリスクを避けながらトウア国をモノにしようと、これからもいろいろと仕掛けてくるはずだ。


 オレはジャン先輩にこう答えた。

「自分がシベリカの立場なら……トウア社会の今のこの流れを利用して、トウア人とシベリカ人がもっと対立するように仕向けます。この間は中学校爆破事件などでトウア人の子どもたちが殺されましたが……いずれシベリカ工作員が一般シベリカ人らを大量殺戮し、それをトウア人の犯行に見せかけるくらいはやるかもしれない……一般シベリカ人がトウア人を憎むように、あらゆる手段を使います」


「……たしかに……それくらいは、やりそうだな」

 先輩も頷いていた。


 オレは続けた。

「シベリカ国の狙いはおそらくトウア国を支配することです。ならばアリア国か、もしくはジハーナ国に対してやったことと同じ作戦をとると思われます」


「つまり?」

「アリアには最初の一発を撃たせ、戦争に持ち込みました。ジハーナでは各地方で『地方主権』を謳って国からの独立運動を蜂起させました」


「どっちの可能性が高いと見る?」

「戦争はリスキーです。できれば避けたいはず。だからジハーナと同じく、まずは地方各地で独立運動を起こさせ、トウアを内乱状態にします。

 トウアにいるシベリカ人は約240万人。その1割に独立運動を起こされたら、それを止めるのは大変です。独立運動が激化すれば、トウア治安部隊はシベリカ人に対し、ある程度の攻撃することはやむを得なくなります。一般シベリカ人の死者が続発するようになれば、自国民救出という名目でシベリカ軍が動くかもしれません。

 世界各国は、トウアの主権を侵害するシベリカ軍を批難してくれるかもしれませんが、おそらく言葉で『言う』だけです。実質的に何もしてくれません。そして、結局は戦勝国が正義であり、敗戦国は悪に仕立てられます。戦勝国がしたことは『やむを得なかった』となり、世界もそれを認めてしまうでしょう」


 ここでオレは話を切り、先輩を見やった。

 先輩は顎を振り、先を促す。


「独立運動は工作員らが主導するはず。もしかしたら、すでに相当数の武器をトウア国内に持ち込んでいるかもしれません。今までトウアは外国人に対し、あまりにも警戒心がなさすぎました。公安隊も人員不足でした。

 もし、武器を持ったシベリカ人らの独立運動が各地で起きれば、トウアは内紛状態となります。そこへシベリカ軍が侵攻してきたら……内からも外からも攻められたら……今のトウアには太刀打ちできません」


 ここでオレは口調を強めた。

「そう……シベリカ軍はトウア国を内紛状態にしてから侵攻する……そうすれば勝利は確実です」


 さらにあらゆる想定をしてみる。

「トウア国内に潜伏しているシベリカ工作員が内紛に乗じて、トウア政府機関を攻撃するかもしれません。もしトウアが国家機能を失えば――シベリカ国は『トウア国は国家機能を失っているので、自国民を守るために仕方なく軍を動かした』『国内を内紛状態にさせ、収拾することができなかったトウア国が悪い』『今のトウア国に統治能力はない』という言い訳をし、トウア国の主権を奪うことを正当化するでしょう。

 そしてトウア各地をシベリカ軍が制圧し、『国家機能を失ったトウアをシベリカ国が当面、面倒を見る』と言い出しかねません。トウア国はアリア国と同様、シベリカの息がかかった属国政府に成り下がります。トウアの海洋権益はシベリカの思うがままです」


「なるほどな……じゃ、具体的にどう動いたらいいのか、どうすれば予防できるのか、レポートでも書いて、ルッカー治安局長に提出してみたらどうだ?」

 そう言うと、先輩はパソコンの画面に向き直った。


 先輩から視線を外し、オレはなおも考え続ける。

 ――たしかにルッカー治安局長ならば、軍ともつながりがあるらしいし、公安も動かせる。予防策、対抗策を講じてくれるかもしれない。

 もし、トウアでまた大きなテロ事件が起き、多くのトウア人が虐殺されたら、今のトウア人は真っ先にシベリカを疑い、シベリカ人への嫌悪はいっそう大きくなるだろう。

 そしてその報復に、トウアに住むシベリカ人が攻撃されるようになったら、シベリカ人もトウア人を攻撃するようになる。内紛の芽が育っていく。それを止めなくてはいけない。


 旧アリア国でも、アリア人とシベリカ人が反目し合い、ついには戦争にまで進んでしまった。そして、アリア国はシベリカに敗れ、シベリカの支配下に置かれた。お人よしのジハーナとは違って、そこそこ警戒していたはずのアリアもシベリカにやられたのだ。


 トウアも、アリアやジハーナと同じ道を歩むのか……

 いや、そうはさせない。オレは家族と仲間の暮らしを守りたい。


 そう、今現在、オレたちが営んでいる暮らしは『富』と置き換えることもできる。その富=生活を奪われるのは嫌だ。シベリカの属国となり、ジハーナ人やアリア人のように差別され、権利を制限されるのも嫌だ。

 これだけは絶対に譲ることのできない――オレの欲だ。その欲を守るためなら何でもする。


 同じくシベリカ中央政府も、自分の欲をかなえるために、豊かになるために、何でもするのだろう。そういうことでは、シベリカとオレは似たもの同士かもしれない。

 そう思った時、なぜかオレは西へ顔を向けていた。トウア国の西の海を隔てた先には大国シベリカが構えている。


 ――その時、オレはシベリカ国と共鳴した気がした――


・・・・・・・・・・

あとがき


 フランスでの移民問題を含めたイスラム過激派によるテロ襲撃、そして北アフリカでも、10歳の女の子を自爆させてテロを起こさせたニュースを聞き、人間、ここまで残酷になれるのか、と驚きました。

 インパクトを与えるために誇張して描く小説や漫画の世界のようなことが、実際起きています。


 自分が今、書いている「プライオリティ」も、これから(シーズン3より)子供を狙う凄惨なシーンが出てくるが、誇張でもなく、けっこう現実とリンクしているのかもな、と思ってしまいました。


 このシーズン2のエピローグの4人の登場人物の独白……けっこう私の考えを代弁させているところもあります。


 ちなみに「プライオリティ」はシーズン5で終了する予定です。けど結末は、けっこう意外かもしれません。


 ま、結末はもう決まっているといえど、シーズン5のそこに至るまでの中身がまだできていないのですが(構想中です……汗)


 主人公は善でもなく、むしろ悪に近いこと=不正義なことをします。けど、これが現実かもしれません。

 少なくとも理想的な終わり方にはならないかも。


 とは言っても、シリアスばかりでは疲れるので、たまにコメディも入ります。


 そして、気分転換に本編の番外編となる短編集「パラレル・プライオリティ日本編」(本編のキャラが日本人として、日本を舞台に、彼らの日常を描いたお話)を書いたりしてます。こちらはコメディ、ほのぼのタッチのユーモア小説です。


 ということで、「プライオリティ」シーズン3、そして「パラレル・プライオリティ」もよろしくお願いします。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 今後もおつきあいいただければ、うれしいです。

挿絵(By みてみん)

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