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旧作  作者: hayashi
シーズン2 エピローグ
66/114

共鳴―アントン

 まさか、このオレがルイ・アイーダと組んで仕事をすることになるとはな。人生、何が起こるか分からないな。


 そんなオレにあちこちからいろいろ誘いがある。ルイ・アイーダと敵対する勢力からもあった。ルイの弱みをオレから引き出そうという魂胆だろう。


 でも、ルイに弱みなんてないぜ。

 ちなみにセイヤにもリサにも、これといった弱みがない。あるなら、オレが利用しているって(笑)


 ああ、でも……ルイは単にトウアのために動いているわけじゃないことは確かだな。

 あいつは『シベリカ国からアリア国を完全独立させる』というたいそうな夢を見ている。それがルイの本当の目的だ。


 ところでルイと敵対しているサハーとか、人権団体とか……あいつら、脳みそ大丈夫か? 

 今のトウアの状況を見ても、未だに「不戦のジハーナを見習え。ルイ・アイーダは戦犯民族として反省しろ。外国人にもトウア国民と同じ権利を与えろ。差別をやめろ。シベリカと仲良くしろ。譲り合い、話し合いで解決せよ。そのためには武器を捨てよ。憎しみを捨てよ。相手の警戒心を解き、トウアが率先して世界平和を実現せよ」などなどノンキなことを言っている。


 どんなに正しいことを言っても、通じねえ現実がある。

 そういやあ、学校でもまだこんな平和教育やっているのか?


 ちなみに、外国人にトウア国民と同じ権利が与えられないのは差別だっというのは違うぞ。それは区別というんだ。ルイも言ってたが、トウア人も外国では権利が制限されるんだから、お互い様なんだぜ。


 国境というものがある限り、区別されるのは当然なんだ。

「だったら国境をなくせ」「国なんていらない。世界はひとつ」なんて非現実的なことは勘弁な。そんなこと言ってたらジハーナ国みたいに消滅しちまう。


 いや、もちろん言ってもいいんだぜ。トウアは『言論の自由』があるからな。理想を掲げるのも自由だ。たださ、それを人に押し付けるなっつーの。

 オレはイヤだぜ。『理想』と心中するのは。


 その点、ジハーナ人は偉いな、理想と心中したんだもんな。それだけは尊敬するよ。お人よしもそこまでいけば『聖人』だな(爆)

 武器を捨てて丸腰になるなんて恐ろしいことだよな。そんなことしたら、あっという間に、やっと手にした『オレにとっての平和と人権』がなくなっちまう。たぶんな。


 対等な立場による『話し合い』で解決に導きたいなら、相手と同じ力を持つしかない。できれば相手より強い力を持ったほうが、有利な交渉ができる。

 その力を持つなっていうのは自殺行為だ。

 この世は基本、弱肉強食。『理想と心中』なら、お前らだけでやってくれ。人を巻き込むな。それこそ人権侵害だ。


 けどさ、あいつら、自分らの生活、富みや権利を差し出す覚悟があって、ああいったこと言ってるのか?


 シベリカ国となった元ジハーナ領に住んでいたジハーナ人って、けっこう差別され、いろいろと搾取されているらしいな。

 ジハーナ人って抵抗しないし、おとなしいから、シベリカ人はやりたい放題だな(笑)


 つまり、そんなジハーナ人のようなことになる覚悟があるのかってことだ。もし覚悟もなくて言ってるんだとしたら、単なるバカだな。覚悟あって言ってるなら『聖人』だ。


 もちろん戦ったからといって、自分の権利を勝ち取れるかどうかは分からない。負けた場合、もっと酷い目にあるかもしれない。


 だから戦わずに黙って耐えるのもありだ。

 あるいは逃げてもいい。逃げ場所があるんならな。

 つまり、戦うのも、戦わないのも、どっちもそれ相当の覚悟がいるってことだな。

 戦わなくても、それなりのリスクがある。


 交渉するのに、何枚かのカードを持っているとする。どのカードを切るかは置いておいて、その数あるカードの中、『武力』という一枚のカードは必須だ。そのカードがあるかないかで、相手の態度が違ってくるからだ。


 もし、こちらにその『戦いのカード』がなければ、相手は心置きなく攻めることができるだろうな。

 反対に「戦うのは不利。あまりにリスクが高い。こちらも相当痛い目に合う」と相手が思った時、戦うのを避けて「話し合いで解決したい」となるのかもしれない。少なくとも攻めることを躊躇する。


 要するに……戦いを避けるには、武力を持ったほうがいいかもしれないという考え方もできるということだ。


 戦いを放棄し、相手に富を奪われ、権利を奪われ、弾圧されるくらいなら、オレは戦うほうを選ぶぜ。

 あの時も……親父と徹底的に戦ったからこそ、オレは虐待から解放された。今までオレをなめていた親父は、オレの力を思い知ったから、二度と手出ししなくなった。

 セイヤも戦うことを選び、オレを容赦なく痛めつけたから、オレの虐めから解放されたと言える。


 そう、オレとセイヤはけっこう似たところがある気がする。何かこう共鳴する部分があるというか……ま、少なくともオレもあいつも善人じゃないことは確かだ(笑)


 オレもあいつも、自分を守るために卑怯な手を使ってでも戦い、相手を完膚なきまで痛めつけるという方法をとった。平和を愛する善人から見たら「野蛮な行為」に思えるだろうよ。


 もちろん、相手を痛めつける行為は、復讐心を生み、憎しみが連鎖し、泥沼化していく場合もある。

 善人から見たら、オレやあいつのとった行動は「憎しみを生む悪」「平和を乱す悪」だ。


 だから正直言うと、実はあいつのことはそれほど嫌悪してない。もちろん好きでもないが、何の覚悟もなく善人ぶったヤツよりは親しみさえ覚える。

 つうか、あいつと共鳴するものを感じるんだよな。お互い「計算高くて黒いヤツ」だからかな(笑)


 自分の身を守るのに『理想』と『正義』は邪魔なだけ。特に相手が、自分とまるっきり違い価値観を持っている場合はな。

 皆、自分の利益と天秤にかけて取引する。時には暴力も使ってな。それが人間っていう生き物だ。


 ま、とにかく、敵に攻められないようにするには、どうしたらいいか……だよな。

 この頃のトウアを見ていると、さすがのオレもいろいろ考えさせられるぜ……。

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