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旧作  作者: hayashi
シーズン2 第5章「逆転」
60/114

暗転

 まだ春は遠く、冬真っ盛りだったが、その日は天気が良く、比較的暖かった。すっきり晴れ渡った空は、天を突き抜けたかのように碧かった。

 4人はトウア市立中央動物園に遊びに来ていた。


「ジャン先輩の計画……結婚記念日から1ヶ月以上ずれたね」

 結局、セイヤとリサの結婚記念日は、二人でのんびり過ごし、お祝いを済ませた。

「ま、4人が1日中真昼間にそろって都合のいい日って、なかなかなかったからな」

 ジャンとルイの背中について歩いていたセイヤとリサはボソボソと話し込む。


「それにしても先輩が動物園をチョイスするとはなあ」

「きっと動物たちと何か心通じるものがあるのよ」

「なるほど……先輩って動物的だもんな」

「やっぱりゴリラとかオラウータンとかイノシシとかマントヒヒとかワニとかカバとか、そのあたりと相性がいいのかも」

「たしかに……獣オーラをまとう先輩にぴったりって感じだな」

「でも私も好きよ、動物園。だから楽しみにしてたんだ」

「そうだったのか……。言ってくれれば、今までだって連れて行ったのに」

「今まではそんな余裕なかったでしょ。休日もいかに節約して過ごすかが私たちのテーマだったんだから」

「休日はいつも家でゴロゴロだもんな」


 後ろにいるセイヤとリサのやりとりが聞こえたのか、ルイと並んで歩いていたジャンが割って入ってきた。


「お前ら、動物園の入園料もケチんなきゃいけないくらい貧乏していたのか。そりゃ大変だったな」

「まあ……減給されてた中、家電や生活用品そろえたり……いろいろ物入りだったから」

「じゃあ、リサがお前に髪を切らせたのも、本当に美容院代をケチりたかったからなのか」

「そうです。決してプレイではなく、金銭的に余裕がなかったからです」

「補足ですけど、多少不揃いでも、それまでと同じように括ればいいかな、と思ってたんです。まさか括れないほど短くされるなんて予想外だったんで」

「じゃあ、今はプレイしていないんだ」

「だから、プレイじゃありません」

「……ちなみに……今もセイヤに切ってもらってますが」

「何? 今もプレイしているのか」

「プレイじゃありません」

「ま、その、タダですむならそれに越したことないということで……ちなみに短時間でできるようになったし、上手くなりましたよ」

「そうか、プレイが上手くなったのか、よかったな」

「先輩、わざと言ってますね……」

「とにかく私たちは節約に励まなきゃいけないんです。もっと広い部屋に住みたいし、貯金もしたいし。だから先輩、あまりセイヤにたからないでくださいねっ。セイヤの小遣いの値上げは当分できませんから」


 セイヤとリサとジャンのかみ合っているんだかいないんだかの話を聞いて、ルイは声を出して笑っていた。

「あなたたちって……ほんと楽しいね」

 ずっと張りつめ警戒しながら過ごしてきたルイにとって、心許せる友だちに囲まれ、穏やかに過ごせる愉快なこの時間が愛しかった。


 ちなみに、いつもはヒラヒラっとフェミニンな格好をしているルイだが、この時は帽子を目深に被ってメガネをし、スポーティーでパリっとした格好をして雰囲気を変えていた。いちおう有名人なので、こういった変装じみたことをしないと私的には外を出歩けなかった。


「ほら、見て、あのゴリラ、かわいい~」

 ルイはゴリラのいる檻へ走っていく。


「……あ、先輩のお友だち……」

 セイヤはついつぶやいてしまった。


「ん? 何か言ったか?」

 ジャンがにらんできた。


 その時、リサはセイヤの袖をひっぱって、ささやいた。

「ね、『先輩がカワイイ』っていう感覚、今なら分かるでしょ」


 そう、いつぞやの『下品についての考察』の時に『ジャン先輩のかわいさ』を理解できなかったセイヤだったが……

「そうか、つまり『ゴリラがカワイイ』という感覚だったのか。ま、オレに言わせりゃ『カワイイ』ではなく『ユーモラス』が正しいと思うけど、『カワイイ』=『ユーモラス』という感覚は分からないでもない。なるほどなっ」

 セイヤはやっと腑に落ちた。分からなかったことが理解ができて、大変すがすがしい気分になった。


「お前ら、かなり失礼なこと言ってるよな?」

 仏頂面のジャンに、セイヤは力説した。

「先輩、ルイは『ゴリラ、かわいい~』と言って、ゴリラのもとへ走っていったんですよ。つまり、ルイはゴリラを好ましく思っているんです。これはまだまだ先輩に可能性があるということです」

 そう、セイヤだって、ジャンとルイがうまくいくといいなと応援はしているのだ。


「そ、そうなのか……なんかヒドいことを言われている気もするが、オレは意外とルイさんの好みだということだな」

「要するに、そういうことです」


 そんなセイヤとジャンのやりとりを聞きながら、リサはボソっと疑問型でつぶやいた。

「そういうことなのかな……」


 あんなに晴れていた空にいつの間にか雲が立ち込めていた。日が弱くなり、黄昏の時間が近づいてくる。

 動物園を堪能し――すっかり心が和んだ4人は動物園に付設されている公園を散策した。常緑樹の間を風が駆け抜け、カサカサと葉を鳴らす。


「あ、ちょっとトイレ。そこのベンチで待ってて」

 ジャンはトイレの標識を見ると、トットと走っていった。


「どうせなら、その間に……あそこに売店があるから適当に買ってくるよ。喉が渇いたし、腹もちょっと減ったしな。何かリクエストある?」

 リサとルイの希望を聞いてセイヤも売店のほうへ行ってしまった。


「じゃあ、私もトイレに行っておこうかな」

 ルイがトイレのほうへ歩きかけ、振り向いた。

「リサはどうする?」

「誰もいなくなったら、ジャン先輩とセイヤが困るだろうから、私はここで待っているよ」

「じゃあ、行ってくるね」

 ルイはリサと離れて、小走りにトイレへ向かった。


 リサは一旦ルイから目を離し、ベンチに腰掛ける。そして、また何気にルイが走っていった方向へ顔を向けると、ルイが崩れ落ちる様子が飛び込んできた。

「え?」


 ルイの傍にはナイフを持った少年が佇んでいた。


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