表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作  作者: hayashi
シーズン1 第1章「学生時代」
6/114

卒業

挿絵(By みてみん)


 それからのサギーは平和教育を行う時、セイヤ、ルイ、リサを無視しながら淡々と授業をするようになった。だが、もはやこの教室ではサギーの授業をまじめに聞こうという空気はなかった。


 セイヤはこれ以上、先生を追い詰めることはせず、無視されるのをいいことにほかの学科の勉強をしていた。

 リサはセイヤが気になり始めるものの、普段と変わらないよう振る舞っている。


 ルイは――リサと微妙に距離を置くようになってしまった。リサのほうはセイヤに気が行っているので、ルイの態度に気づいていないようだ。


 でも、ルイはそんな自分がイヤであった。リサはルイの祖父や父を擁護し、闘ってくれたのだ。リサとセイヤだけは、ルイを『戦犯の子孫扱い』しない。二人とも大切な友だちだ。特にリサは初めてできた気を許せる同性の友人だった。


 そう――リサが転入してきた当初、サギーに反抗したリサに、ルイは興味を持った。サギーに疑問を持つ者なら、旧アリア国のことも色眼鏡で見ない――そんな気がした。だから思い切ってリサに近づいたのだ。


 ――これはもうハッキリさせるしかない。セイヤの口から「リサが好きだ」と聞けば、あきらめがつく――


 放課後、ルイは学校の裏庭にセイヤを呼び出した。

「話って?」

 黄昏に染まりつつある空の下、佇んでいたルイにセイヤが声をかけ、近寄ってきた。

「セイヤはリサのことが好きなの?」

 何の前降りもなく、わざとそっけなくルイは訊く。

「え……いきなり何?……」

 セイヤは目を白黒させる。

「そう思ったから。で、どうなの?」

 ルイは問いを重ねる。

「もちろん嫌いじゃない」

「それって、ずるい答え方だよね」

「いや……その……ただ、リサのことがちょっと心配なだけだ」

 しどろもどろになりながらもセイヤは話を続ける。

「あいつは何だか危なっかしい……治安部隊を希望するなんて、いつか危険な目に合いそうな気がするから……」


 あたふたしているセイヤを見て、ルイは苦笑した。もうこれでハッキリした。

「リサを放っておけないのは好きだってことだよ。就職先を彼女に合わせるくらいに」


 するとセイヤはちょっと視線を外し、こう応えた。

「オレは……安定さえ得られれば、就職先はどこでもいい。だから公務職の治安部隊を選ぶのもありなんだ。自国という後ろ盾を失ったジハーナ人は、新しい国での安定した暮らしと家族の安全が一番の願い――それさえ叶えられるなら、あとは何もいらない」


 そんなセイヤにルイは突っ込んだ。

「いらないという中に『リサの安全』は入らないんだね。『リサの安全』はセイヤにとって何番目の願いに入るのかな? リサのことは、あなたの優先順位の何番目?」


「え……」

 顔に困惑の色を浮かべ言いよどむセイヤを見て、ルイは微笑んだ。

「うん、分かったよ、あなたの気持ち……」

 その後ろでは、木々の枝から離れた葉が風に舞っていた。冬がもうそこまで来ていた。


 ルイはセイヤから離れ、急いで宿舎に帰った。そして……ベッドに潜り込み、声を殺して泣いた。涙がセイヤへの想いを洗い流してくれるのを祈った。


   ・・・


 治安部隊訓練校の入校試験は冬に行われ、リサとセイヤは入校資格を手に入れた。

 試験は実に簡単だった。健康診断をパスすれば、あとはそこそこの体力と運動能力と学力があれば入校許可が下りる。


 リサは体力作りに励んだ。暇を見つけては浜辺へ下り、走り込んだ。治安部隊の仕事はとにかく体力勝負だというので、体を鍛えることから始めたのだ。


 その話を聞いたセイヤも、たまにランニングにつきあうようになった。早朝あるいは夕方、波の音を聞きながら、二人で黙々と走る。


 いつしかリサは、セイヤが浜辺に来ることを期待するようになり――しかし、そんな自分を戒めた。こんな浮ついた性根では到底、兄の遺志を継ぐことなどできないだろう。

 芽生えた感情を砂に埋めるようにリサは足を動かす。海の冷たい潮風が心に燈りかけた何かを消し去った。

 

 その間、ルイも第一希望のトウア国立大学を受験し、合格を勝ち取っていた。

 未来への切符を手にしたルイは、いくらか落ち着きを取り戻した。自分にはやりたいことがあるのだ。リサとセイヤは進展なさそうだが、自分は遠くから見守ることにした。

 ルイは、彼らと友だちでいられるほうを選んだ。二人とギクシャクして関係が破たんするほうが耐えられなかった。


 こうして――3人の学生生活は終わった。

 リサ、セイヤ、ルイは18歳になっており、この春、施設を出て、それぞれの道を歩む。ルイは大学に進学し、街で一人暮らしを始め、セイヤとリサは治安部隊訓練校に入校し、そこに付設されている寮で生活を送る。


 卒業の日、海風が香る空は雲を端に寄せて、青に染まっていた。


前回は長めだったけど、今回は短めになってしまいました。

というわけで、同じくこのサイトにアップしている「毒吐きエッセイ」に、恋愛記事として「恋をあきらめ、友人との関係を優先させたことについて」書いてみました。http://ncode.syosetu.com/n2822cj/2/


次回から2章に入ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ