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旧作  作者: hayashi
シーズン2 第5章「逆転」
59/114

合コン

挿絵(By みてみん)

 真冬――木々はすっかり葉を落とし、凍てつく空気に覆われていた。灰色の空は厚い雲に覆われ、家々の隙間から伺える海も寒々と映る。


 セイヤとリサは、ジャンとルイの間を取り持つため、2人を自宅に招き、とりあえず「事件が解決した」という名目で祝杯をあげることにした。


 さすが大金持ちのルイは、手土産に高級ワインやローストビーフやら値の張るものを持ってきてくれ、おつまみが豪華になった。

 ちなみにワインにうるさいルイは、リサのところには安物のグラスしかないことを聞いて、ワイングラスも用意し、なかなかの大荷物だった。何でもグラスによってワインの風味が変わってしまうんだとか……


 ま、とにかく、リサはありがたくルイの手土産をいただき、それらを切り分け、あとはサラダとパンとチーズを用意し、ローテーブルに並べていった。

 ジャンもそこいらの店で揚げ物の類を買ってきてくれたので、テーブルの上は賑やかになり、おいしそうな匂いを立ち上らせていた。


「お腹空いたし、冷めないうちに早く食べよう」

 4人はローテーブルを囲む。

「いやあ、お疲れ様~」

 ハイテンションなジャンは乾杯を仕切り、単刀直入にルイに訊いた。

「ルイさんの好みの男って、どんなの?」

「そうですね……静かで理知的な方がタイプかしら。教養豊かな人に惹かれます」

「……へえ……」

 ジャンはちょっと顔を引きつらせていた。


「うわ……先輩ともろ真逆」

「こんなに早く撃沈するなんてな」

 セイヤとリサはお互いヒソヒソとつぶやきあった。


「ん、お前ら何か言ったか?」

「いえ……何も」

「よし、飲もう。今日は飲むぜ」

 ジャンは気を取り直し、ビールをガバガバ喉に流し込む。


「細かいこと言うようですが、先輩の場合『今日は』じゃなくて『今日も』ですよね」

 セイヤはジャンの言葉を訂正した。


「先輩、缶ビールは10本まで、ですよ。それ以上、用意してませんから。あと飲んでばかりじゃなく食べなきゃダメですよ。あとワインは味わって飲むように。それすごく高級なんですからね」

 リサも釘を刺したが、ジャンは聞こえているのか聞こえてないのか、とにかく飲みまくる。


「なんか大変な先輩だね」

 ルイは気の毒そうにリサとセイヤを見やりつつ、「でも楽しそう」とニカ~っと笑った。


 リサも顔が緩んだ。

「うん、たまにはいいよね、こういうのも」


 そんな二人を見て、セイヤも久しぶりに穏やかな気分になれた。


 リサは、ルイが持ってきてくれたローストビーフをつまむ。ここにきて、やっと肉が食べられるようになった。ローストビーフはやわらかく、肉の旨みが口の中で広がり、ルイが用意してくれた赤ワインとの相性は最高だった。


 美味しそうにローストビーフを頬張るリサを見て、セイヤもようやく肉を旨く感じられるようになった。こうやって家族や心許せる友人と和気あいあい、食事ができることを幸せに思う。


 和やかなパーティは夜遅くまで続いた。

 ジャンはグデングデンに酔っ払い、気持ちよさそうに寝入っていた。

 リサとルイのおしゃべりは尽きなかった。


 そんな二人を尻目に、セイヤはワインをちびちび舐めながら、物思いにふけっていた。

 ……これで、もうシベリカはルイに手出ししないだろう。


 シベリカのトウア世論操作は完全に失敗した。トウア社会の空気は完全に『反シベリカ』になり、今までの未解決事件についても『シベリカ国の関与』『シベリカ工作員の存在』を疑うようになった。

 もしルイの身の上に何かあれば「シベリカ国がやったのでは」と世論は騒ぎ立てる。もう『一般シベリカ人による個人的犯罪』を装うのも不可能だ。

 ここまできてしまえばルイを闇に葬るメリットはない。逆に闇に葬ろうと動いたことで今の事態を招いてしまったのだ。


 ……ルイもこれからはもうちょっと心安らかに過ごせるようになるといいな……ジャン先輩は悪い奴じゃないし、けっこう頼りになることもあるから、ルイさえ気に入れば仲を取り持とうと思っていたけど、ま、こればかりは仕方ない。でもルイには幸せになってほしい……

 

 ほんわか暖かい空気に包まれた部屋の中で、4人はそれぞれくつろぎのひと時を過ごした。

 外は冷気に支配され、家の中の窓ガラスを薄く膜を貼ったように曇らせていた。


   ・・・・・・・・・・・


 パーティから数日経ち――その後もジャン、セイヤ、リサの3人は通常勤務に励んでいた。特命チームと言えど、治安局所属の公務員に変わりはなく、書類作成仕事もけっこう多い。

 

 報告書を上げたセイヤとリサが帰り支度を始めた時、ジャンが声をかけてきた。

「もうすぐ、お前らの結婚記念日だよな。ということで、このオレがお祝いの計画を立ててやるぜ。で、ルイさんも誘うんだぞ。お前らとルイさんの都合のいい日になんとか合わせてやろう」


 セイヤとリサは顔を見合わせた。二人っきりで家でのんびり、ちょっと贅沢なお料理とお酒を楽しみながら過ごそうと考えていたけど……

「ま、ルイを元気づけたいし、いいかもね」

 皆でまたワイワイやりたいと思い直した。そう、あんな事件が立て続けにあったのだ。ルイは表面上は明るいが、精神的にはだいぶダメージを負っているはずだ。


「それにしても……先輩、まだルイをあきらめていなかったんだね。こうなったら生温かく見守ろうよ」

 リサはセイヤに耳打ちした。

 思い返せば、ジャンは決定的にふられたわけでなく、ルイは単に「静かで理知的な人が好み」と言っただけである。


 そんなわけで4人はまた集まることになった。


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