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旧作  作者: hayashi
シーズン2 第3章「拉致」
52/114

和解

 ルイの拉致事件が解決してから10日後。


 高級住宅街にある、セキュリティシステムが施されたルイの自宅マンション――アンティークな装飾が施された豪奢な客間にセイヤとリサは招かれた。

 テーブルを挟んだその向かい側にはアントン・ダラーがソファにどっかりと腰を下ろしていた。

 キッチンで用意した紅茶を洒落たプレートに乗せて、ルイも席につく。

 本格的な夏となり、外は胸が苦しくなるほどの猛暑だったが、部屋内はエアコンが効き、ひんやりとした空気を運んでいた。


「この度はお世話になりました」

 ルイは、アントンに約束していた残りの報酬を渡した。


「その代わり、今回の事件でのあんたの独占インタビュー、オレにやらせてくれるんだろ。持ちつ持たれつってヤツだ」

 アントンは冷めた笑いを顔に貼り付け、ルイから封筒を受け取り、ヒラヒラと扇いだ。

「それにしても、お前らがこのオレに取引を持ちかけてくるとはな……」


 実は今回の拉致事件で、ルイが雇った見張り2人のうちの1人がアントン・ダラーだった。

 そのきっかけは、リサがアントンへコンタクトをとったことから始まった。


 ――そう、あの時――

 セイヤが子どもの頃に起こした木刀暴力事件が週刊誌で騒がれ、アントンから下品なからかいを受けたその夜。リサは木刀事件の経緯をセイヤから詳しく聞いた。


 そこで、セイヤだけでなくルイも一緒に、アントンからいじめられていたことを知り、リサはふと思ってしまったのだ。ひょっとしてアントンはルイのことが好きで、ちょっかいを出し、それがイジメになってしまったのでは、と。

 その頃からルイとセイヤは仲が良かったという。ならば、アントンはセイヤへの嫉妬心からイジメに走ったのかもしれない。


 リサも子どもの時分、特定の男子からいじめられ、学校に行くのを嫌がったことがあった。

 その時、兄が相談にのってくれ、こう言ったのだ。

「もしかしたら、そいつ、リサのことが好きだからいじめるのかもしれない。オレも好きな子をいじめたことがあったから、何となく分かるんだよ。リサがいじめられるのは嫌われているからじゃない。そいつはリサと友だちになりたいんだ」と。

 その後、兄がそのいじめっ子に話をつけてくれ、リサはその男子と友だちになれたのだ。


 リサは、カバンからアントンの名刺を取り出していた。――兄が話をつけてくれたように、自分もアントンと話をつけられるかもしれない、と。


 週刊誌の標的がリサからセイヤに移っていった時、リサはこれ以上、セイヤがネタにされ、世間から攻撃されるのを防ぎたかった。もとはと言えば、自分が『特戦部隊のヒロイン』と祭り上げられ、その夫ということでセイヤまでもが注目されてしまい、こんなことになったのだ。


 リサはアントンに連絡を入れ、話をつけに行った。セイヤがイジメを受けていたとはいえ、アントンを大怪我させるまで木刀で殴り続けたことはやりすぎだった。それについてアントンに頭を下げ謝罪し、許しを請うた。

 もしアントンが、ルイと仲がいいセイヤへの嫉妬心からイジメを行ったんだとすれば、そんな子どもの頃の嫉妬心は今はおさまっているはずだ。今もセイヤを憎んでいるとすれば、大怪我させられたのに謝罪がなかったことが原因だろう。


 リサは、自分のことはどう書いてかまわないから、セイヤを標的にするのはやめてくれるようお願いした。冷笑を受けるかと思ったが、意外にもアントンは真面目にリサの話を聞いてくれた。


 アントンと話をつけた後――リサはセイヤにこのことを打ち明けた。


 セイヤは最初、自分に黙って勝手にアントンに会いに行ったことを怒った。が、リサはセイヤのために話をつけに行ったことも分かっていた。内緒でアントンに会いに行ったのも、言えば反対されると思ったからだろう。


 また、セイヤはセイヤでこう考えた。

 自分たちにとってマイナスに働く『敵』はできるだけ作らないほうがいい。自分たちはもっと厄介で大きな敵と戦っているのだ。謝罪することで解決するなら、余計な敵は減らすべきだ、と。

 それにリサがこれ以上、ネタにされるのを避けたかった。それには週刊誌にネタを売るライターのアントンに憎まれたままでいるのは得策ではない。形だけの和解でもしておくべきだ。自分がアントンに詫びることで、ちょっとでもリサを守ることにつながるのであれば、土下座など何でもないことだった。セイヤはアントンに会い、過去に暴力をふるったことを謝罪した。


 頭を地にすりつけ、土下座をするセイヤの頭を、アントンは足で踏んづけた。それでもセイヤは頭を下げたまま、顔を地につけて、ただただ詫びを繰り返した。


 やっと足をどかしたアントンはセイヤを見下ろし、唾を吐きかけた。セイヤはおとなしくそれを受けた。

「ふん、挑発にはのらないか……まあ、いい。どうせ形だけの謝罪なんだろう。心からの反省なんてしてないよな。とはいえ、こんなオレに土下座までするとはな……ま、気分は悪くないぜ」


 こうしてセイヤはアントンと和解に持ち込んだ。


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