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旧作  作者: hayashi
シーズン2 第3章「拉致」
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サギーの計算VSセイヤの計算(続き)

前回までのお話。

サギーは自宅で勝利を確信していた。

ルイが身に着けていた発信機を仕込んだペンダントは、別の船にある。

ペンダントに発信機を仕組むこのやり方は、以前、セイヤがリサに行ったことがある。サギーはそのことを知っていたのだ。


一方、そのセイヤは、ルイに仕掛けた発信機を頼りに、シベリカ行の船の貨物室の中で、ルイが閉じ込められていると思われる木箱を開けるように、指示した。

 その時、サギーは仲間から入った暗号めいた連絡を聞いていた。

 ――サギーからうすら笑いが消える。


   ・・・・・・・・・・


 その木箱には、まるまったルイの姿が発見された。口を塞がれ、目隠しされ、手足を拘束されていた。

 すぐに海上保安隊の隊員らが駆けつけ、ルイを木箱から出し、拘束を外し、介抱した。


 リサも駆け寄り、ルイの名前を呼び続けた。

 やがてルイは意識を取り戻し、セイヤとリサを確認すると、二人を安心させようと二カーっと笑った。


 そんなルイを見ていたジャンがあることに気づき、怪訝な顔をした。ルイが発信機を仕掛けた例のペンダントを身につけていなかったからだ。

「あれ? ペンダントはどうしたんだ? てっきり、リサと同じようにペンダントタイプの発信機を身につけていると思ったけど」

「まさか……そういった情報もファン隊長からサギーに漏れている可能性が高いですからね。だからこそ、それを利用しました」

 セイヤが涼しい顔で答えた。


「利用?」

「わざと、リサと同じペンダントタイプの発信機も身につけさせてました。犯人はそのペンダントだけを発信機だと思い込み、ほかに発信機を身につけているとは考えない。案の定、ルイはペンダントは身につけてません。犯人が外したんでしょ。でも、ペンダントタイプはダミーです」

「じゃあ、発信機はどこに?」

「発信機はここです」

 セイヤが示したのは、ルイが身につけていたベルトのバックル部分だった。


 もちろん、それも見破られる可能性があったので、発信機とルイが別々の船に乗せられることもセイヤは想定していた。

 もし、この高速船にルイがいなかったら、速やかにほかの船を捜索するつもりだった

 ルイが『第2トウア港』に連れ込まれたとされる時間から、警察捜査隊による港の捜査が入るまでの間、荷を積んで港から出航した外国行きの船は、この高速船のほかには貨物船2隻しかなかった。

 なので、ルイの捜索はそう難航することはないと考えていたのだ。


 また、もっと早い段階でバックルに発信機を仕掛けたことが工作員らに見破られた場合、ルイが全く別の港から出る船に乗せられることも想定し、海上保安隊にはその旨を伝え、ファン隊長に働きかけてもらい、いつでも動けるよう体制を整えていた。


 別の港といっても、時間的に『第1トウア港』しか考えられないので、パトロール隊にも『第1トウア港』を見回ってもらい、ルイが連れ込まれたと想定される時間からパトロール隊が見回りを開始するまでの間までに出航した外国行きの船を調べればいい。

 この場合も、該当する船は2隻しかなかったので、各船がトウア領海を抜けるまでに捜索できると計算していた。


 そこでも見つからなければ、さらに遠くの、別の地区にある港から出る船に乗せられると考えられる。その場合は、全国の各港に警察捜査隊を配備させるつもりだった。犯人らが別の地区の港まで行くには相当の時間がかかるので、それで充分、間に合うはずだ。

 とは言っても、移動に時間がかかればかかるほど、犯人らには不利になるので、その可能性は低いとセイヤは踏んでいた。


「……セイヤ、お前ってすげえな……」

 ジャンが口笛を鳴らすと、改めて船員らを見回した。

「さてと……お前ら、改めて事情聴取な」


「いえ、私たちは何も知りません」

 船員たちは口々に言う。

 貨物室に駆けつけてきた船長も慌てた風に答えた。

「まさか、こんな若いお嬢さんが木箱に閉じ込められていたなんて……驚きました」

 ほかの船員も同じようなことを口にした。


「驚くのは、そこか?」

 セイヤが静かに問うた。


「何のことですか。当然、驚きますよ」

 船長は怪訝な顔をした。

 

「いや、あの旧アリア国戦犯の孫娘である有名人ルイ・アイーダが閉じ込められていたのに、そのうすい反応はかえって怪しいな、と思ったんだが。あんた、ルイをただ『若いお嬢さん』と言ったよな。フツ~『あのルイ・アイーダが』と、びっくりしないか?」

 セイヤは船長をじっと見つめる。


「……いえ、その……ルイ・アイーダさんですか……私はその方のことを存じませんでした。テレビのワイドショーや週刊誌もあまり見ないので」

 船長はしどろもどろに答えた。船員らも同調した。


「皆、テレビや週刊誌をあまり見ないのか。ちなみにシベリカでもルイは有名人らしいな。『戦犯の孫娘がシベリカにケンカを売っている』ってことで、かなり話題になっているって聞くけどな」

 セイヤがポツリと言った後、船長に歩み寄った。

「なぜ、ルイがワイドショーによく出演していることを知っているんだ? あんた、さっきワイドショーはあまり見ないから、ルイを知らないって言ったよな。言ってることが矛盾しているぞ」


「……」

 船長は何も答えられなかった。


「船長、ルイ・アイーダがこの船に閉じ込められていたことを知っていたな。ルイ・アイーダの拉致監禁に、この船も関わっていたということだ」

 セイヤは、言い逃れは許さないとばかりに船長をにらみつけた。

 船長と船員らは黙りこみ、視線を下に落とした。


「あとは我々が事情聴取します」

 海上保安隊が引継ぎ、船長と船員らを拘束し、高速船をトウア国に戻した。トウアに戻った後、客らには振り替えの船を手配した。


 当然、この高速船を運営している船舶会社も捜査対象となり、ルイ・アイーダの拉致事件はトウアのマスコミを大騒ぎさせた。

 そしてこの船舶会社がシベリカ系企業であったことから、日頃、ルイが呼びかけていた『シベリカへの警戒心』がトウア国民の間にも急速に広がっていった。


 こうなると、マハート氏暗殺未遂事件、そしてその陽動作戦と思われた地下鉄駅爆破事件および爆破予告事件もシベリカが関わっていた可能性が濃厚だとし、世間の空気は一気に『反シベリカ』へ傾いたのだった。


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