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旧作  作者: hayashi
シーズン2 第3章「拉致」
49/114

サギーの計算VSセイヤの計算

前回までのお話。

ルイの発信機を頼りに、セイヤたちはルイが乗せられているとするシベリカ行の高速船を停戦させたが……

挿絵(By みてみん)

 サギーは自宅で待機し、仲間からの連絡を待っていた。勝利を確信しているのか、赤ワインがなみなみと注がれたワイングラスを片手にくつろいでいた。いつもは部屋に忍び寄る潮の匂いがワインの香りを邪魔するが、今日は気にならなかった。


 ……ルイに常に発信機を身につけさせていたセイヤとリサ……

 ……そのルイの身に何かあったとセイヤとリサが気づいた時、その発信機を頼りに救出に向かったとしても、その発信機は全く別の船にある……


 ワインを一気に飲み干したサギーは舌なめずりした。


 ……ええ、発信機をペンダントにカモフラージュして持たせることは予測していたのよ。


 そう、サギーは以前に、『発電所立てこもり事件』の出動の時にセイヤがリサに対して行ったという『この話』をファン隊長から聞いていたのだ。

 なので、ペンダントにカモフラージュされた発信機をルイから外すように指示し、別行動するB班がその発信機付きのペンダントを持って、ほかの港から出航するシベリカ行きの船に紛れ込ませた。


 ……セイヤとリサは、ルイを見つけることはできない。彼らが見つけるのは発信機のみ。

 その時やっと、ルイはほかの船へ連れ込まれたと気づくかもしれないわね。

 でも、ルイとペンダントは別々の港から出る船に乗せられているから、ルイが乗っている船は簡単には見つからない。


 ……セイヤとリサは、ルイが身につけていた発信機があったその船の船舶会社や船員らの関与を疑う。なまじその船がシベリカ行きだからこそ、セイヤはその船にこだわり、結局、彼らは何の関係もないところに捜査の時間を費してしまうかもしれないわね……そうこうしているうちに、ルイが乗っている船がトウア領海を出てしまう。シベリカ領に入ってしまえば、トウア海上保安隊は手が出せなくなる。


 サギーはこの作戦に穴がなかったか、改めて思い返してみた。

 

 ……もしルイの拉致現場を第三者に目撃されていたとしても、こっちは尾行に気をつけながら、港に着くまでに何度も人と車を替えている。拉致実行犯の検挙も困難なはず。

 ……失踪したと思われていたルイは、実はシベリカでテロを計画していた、というニュースがトウアにも流れ、シベリカで裁判にかけられることになる……


 もちろん、セイヤとリサは『ルイは拉致され、無理やりシベリカ国に連れて行かれ、犯罪をでっち上げられた』として、世間に訴えようとするだろうけど、その内容は初動捜査を誤った治安部隊の失態を意味することになり、治安局がセイヤとリサの訴えを許すはずがない。

 たとえ、世間がシベリカ国の関与を疑ったところで、証拠はない。

 そして、ルイがアリア人地下組織を指揮していたことが明るみになれば、「ルイ・アイーダはシベリカでテロを起こそうとした」という話のほうを世間は信じるようになる。


 空になったワイングラスを天にかざしながら、サギーはうすく笑った。


 ……戦犯の孫娘であるルイ・アイーダはシベリカへのテロを計画したとして、シベリカ国の法の下で裁かれる。ルイは終身刑となり、シベリカの地でその生涯を終えることになるのよ……


  ・・・・・・・・・・・・


「一体、何の捜査なのですか」

 停船させられたシベリカ行き高速船の船長は憮然とした様子で訊いてきた。


「ある人物の拉致監禁事件に関する捜査です。この船にその人物が閉じ込められている可能性があります」

 この件を任された海上保安隊の班長がそう説明すると、ジャン、セイヤ、リサを含めた隊員らが、さっそく捜査を開始した。


「この船はただの客船ですよ。停船・捜査による遅延は、ほかのお客様にも多大なご迷惑がかかります。

 捜査令状はあるのですか? あるいは、その人物が閉じ込められているという確固たる証拠があるのですか? もし何もなかったら、どう責任をとってくれるのですか? この遅延による損害は当然、補償してくれるのでしょうね。海上保安隊の横暴を世間にも訴え出ますよ」

 船長は、海上保安隊の班長を恫喝する。


 それに対し、班長は頭を下げ「捜査協力をお願いします」と低姿勢だった。『世間』というフレーズを出されると弱かった。

 しかし、拉致目撃証言があり、ルイ・アイーダは常日頃から発信機を身につけており、その発信機の位置がこの船を示しているのだ。停船させて捜索することは法的には何の問題もない。


「おい、本当に大丈夫か? 何も出てこなかったら海上保安隊や治安部隊全体が世間の批判に晒されるぞ」

 ジャンがセイヤに耳打ちしてきた。


「よく吼える人ほど、怪しいって言うじゃないですか」

 セイヤは受信機が強く反応する方向を探り、それが貨物室を示していたことから、貨物室を開けるように船員に指示した。


 船員は渋々従った。銃装備もしている海上保安隊相手に抵抗できるはずがない。

 貨物室が開けられ、埃臭く湿った空気に包まれる。そこには、大小さまざまな荷が置かれていた。その中の、人が一人入れそうな木箱に、受信機が強く反応する。


 セイヤは木箱を開けるよう命じた。

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