サギーの決断
前回までのお話。
マハート暗殺を阻止したジャン、セイヤ、リサ。
テレビでは、治安部隊を強化せよというルイの意見が注目され始める。
反対者を論破してしまうルイを、苦々しく思うサギーだった。
そして翌日の晩、ファン隊長とお忍びデートをしたサギーは、ついにある決断をした。
――その日、サギーはいつものようにベッドの上で、ファン隊長に密着しながらマハート氏暗殺未遂事件の詳細を聞いていた。
「マスコミが騒いでいるマハート氏暗殺未遂事件では、あなたの特戦部隊が暗殺阻止したらしいわね。リサが活躍したようで……教え子の株がまた上がって、私も誇らしいわ」
サギーは甘えるようにファン隊長の胸に顔をうずめる。
「ああ、リサは射撃の腕を上げてな。まさか本当に使える女になるなんてな。マスコットガールとして採用したけど、嬉しい誤算だ」
ファンは機嫌よく答えた。
そう、この頃、リサの存在が世間から忘れ去られていたようなので、今回マハート氏の暗殺を食い止めた特戦部隊3人の中にリサがいたことをマスコミにリークしておいたのだ。
おかげでマスコミは再び『ヒロイン・リサ』を取り上げ、世論も『特戦部隊強化』の後押しをしてくれそうな雰囲気だ。
「それにしても、よく暗殺計画をかぎつけたわね。さすがだわ」
サギーは上目遣いになってファンを見上げ、褒め称えた。
気を良くしたファンはつい情報提供者の名前をばらしてしまった。
「いやあ、情報を持ち込まれてな。そうそう、ルイ・アイーダ、知っているだろ。彼女もこの地域の養護施設出身だから、お前の教え子じゃないのか?」
これを聞いたサギーは思わず目を見開いた。
「……まあ、そうだったの。ええ、そうよ、ルイも私の教え子よ……」
顔は笑いつつも、サギーの頭の中では警戒音が鳴り響いていた。
……ルイったら、もうすでにそういった情報を得られるネットワークを構築していたのね……
そして、セイヤとリサをはめて週刊誌で暴行事件をでっちあげた後、セイヤの無実を証明するような動画がインターネットに流されたことも思い起こしていた。
……おそらく、あれもルイがやったのね……
そう、ルイは、マスコミでリサが取りざたされるようになってから、リサを見守り、何かあった時の証拠を押さえるための体制を密かに敷いていたのだ。
世間から持ち上げられ、特戦部隊のきな臭いイメージを払しょくしたリサは、サギーの標的にされるのでは、とルイは危惧していた。
あの『3人の男からリサを守ろうとしたセイヤの暴行疑惑事件』が起きた時も、ルイが雇った見張りが動画を撮っておいた。だが、すぐには証拠の動画を公表せず、ここぞというタイミングでその証拠動画をネットに流し、セイヤとリサをはめたとする週刊誌をつぶし、世間の空気を『治安部隊のセイヤとリサへの同情』で染めたのだ。
そして、せっかく治安部隊への批判に動き出した世間の声を抑え込み、封じた。
ルイこそが、サギーの作戦をつぶしたのだ。
サギーの体がスーッと冷たくなった。
……莫大な資産を持っているルイ……
……そういった活動ができる力と人脈をすでに持っているルイ……
……このまま放っておけば、シベリカにとって厄介な存在になる可能性がある……
サギーは顔を強張らせながらもファンに笑顔を向けた。
「ルイのことをもっと教えて欲しいわ」
「いや、いかん。このことは内緒な。情報提供者のことは外部に漏らすのはご法度だった」
ファンは片目をつぶりながら、口に人差指を当てて笑った。
「ええ、もちろん……このことは秘密ね。隊長にはもっともっと活躍してほしいもの」
サギーは絡めていたファン隊長の腕を自分の胸に押し当て、甘い声を出した。
そして、心の底で冷たく吐く。
……ルイ、あなた……邪魔ね……
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それから『マハート氏暗殺未遂事件』の捜査は続けられたものの、口封じされた暗殺者5名の身元は結局不明であった。密入国した外国人の疑いが強いということで、マスコミは騒いでいた。
特に「マハート氏暗殺未遂に関わったのはシベリカ工作員である可能性が高い」としているルイ・アイーダの考えがクローズアップされた。そこで、地下鉄中央駅爆破事件と爆破予告がマハート暗殺計画の陽動作戦だった可能性が示唆されると、トウア世論に「反シベリカ」の空気が生まれ始めたのだった。