表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作  作者: hayashi
シーズン2 第2章「暗殺」
44/114

久々の休日

挿絵(By みてみん)

 セイヤとリサは休日を得ていた。


 ――特戦部隊はパトロール隊などと違って、緊急事態や緊急要請がなければわりと規則的に休みがとれる。パトロール隊の補佐をする時だけ、たまに遅番や早番がある。夜勤は基本的にはない。その代わり、特戦部隊出動要請がかかれば昼も夜もなく任務に臨むことになる――


 その日、2人は寝坊をし、ほぼ昼食といっていい遅い朝食をとりながら、テレビのワイドショーを眺めていた。

 ちなみに朝食は……チーズをのっけてトーストしたパンに、スライスした玉ねぎと胡瓜やレタスにシーチキンをふりかけたサラダと、キノコ入りのスクランブルエッグに牛乳だ。冷やされた瑞々しいトマトが格別に美味しかった。


 二人ともあの地下鉄駅爆破事件から肉系が苦手になってしまい……肉を食さなくても動物性タンパク質が足りるようにと、卵やチーズや牛乳、魚などを使ったメニューにしていた。

 特に、筋肉量が多い男性は充分なタンパク質が必要だという。

 そうやって健康に気遣いながら、リサは食事を用意してくれていた。


 テレビでは「治安部隊を強化すべきか」というテーマに移り、議論に参加するコメンテーターらが紹介されていた。

 そのコメンテーターの中にルイがいた。


「あ、ルイが出ているのか」

「そうよ、これだけは見なくっちゃと思って。ルイもがんばっているよね」


 番組の司会者が各コメンテーターに意見を求めていた。

 爆破事件や暗殺未遂事件が立て続けに起きたことから、さすがに「治安部隊を強化したほうがいい」という声が高まりつつあった。


   ・・・


 テレビ画面にルイがズームアップされた。

「当然、治安部隊にもっと予算をつけ、人員を増やし、強化すべきです。

 シベリカ地方議員マハート氏暗殺未遂事件では、たった3名の隊員しか派遣されませんでした。もちろん理由は、爆破予告事件のほうへ人員がまわされ、人員が不足していたためでしょう。

 ですが、治安局が事前にこの件について、本腰を入れて多くの人員を配置して取り組んでいれば、犠牲者を出さなくてすんだかもしれません。犯人も生きながら確保でき、事件解明へつながったかもしれません」


 ルイの発言に、多くのコメンテーターらが頷いていた。

 が、ひとりだけ、異を唱えたものがいた。


「治安部隊にもっと予算をつけるべきだ、そんな声が高まり、予算が大幅に増額されれば……この治安悪化を一番喜んでいるのは治安局かもしれませんね」

 アサト・サハーは皮肉るかのようにルイを見やる。

 ハンサムの部類に入るサハー氏の肩書は『社会問題を扱う研究者・ジャーナリスト』ということで、世のオバ様たちに人気がある細身の中年男性だった。


   ・・・


 そんなサハー氏の発言を聞いたリサは不快感を隠せなかった。

「誰よ、こいつ」


 セイヤは何も言わず、冷ややかにアサト・サハー氏を見つめた。


   ・・・


 テレビの中のルイも呆れたようにサハー氏に目を向け、言い返していた。

「サハーさんのように治安部隊を敵視する勢力がいますが、トウアの治安悪化で得をするのは誰なのでしょうね」


 これを機に、サハーとルイの2人の応酬は続いていく。


「だから、治安部隊じゃないですか。治安悪化すれば彼らの存在力が増し、市民はますます彼らに頼ることになる。予算もつく。権限も強くなる」

「治安悪化は経済悪化も招きます。さすればトウアの税収が減ります。このようにトウアが弱体化することを喜ぶのは誰でしょう。国の機関である治安局や治安部隊ではありませんよね」

「治安部隊の連中はそこまで考えてないでしょ。彼らの頭にあるのは、自分達の予算を増やすことしかない」

「サハーさんはまるで治安部隊を市民の敵だと思っているようですね」

「いいえ、国家権力側につく警戒すべき組織だと言っているのです。そして自らも権力が欲しい。なので、ひょっとしたら自作自演の可能性もあるかも、と思っただけですよ」


「驚きですね。予算を増やしたいから、治安部隊が自作自演で治安を悪化させて、一般市民の殺害まで行っていると?」

 眉を上げて、苦笑するルイに、サハー氏もしれっと答える。

「あくまで可能性の話ですよ」


「では、治安部隊は自作自演で、先日の地下鉄爆破事件で多くの人の殺害を試み、今回のホテルでの暗殺未遂事件ではホテル警備員5名、そして犯人5名を殺したとおっしゃるのですか?」

 ルイはあえて呆れた口調を織り交ぜた。


「そこまでは申しませんが……ただね、軍もそうだけど攻撃能力を有する組織は恐ろしいですよ。

 治安部隊が軍と組めばクーデターも可能だ。国を牛耳り、国民を支配し、我々の敵になる可能性もあるんですからね。

 だから、国民は治安部隊と軍を監視し警戒しないといけないのです。国民を守ってくれる正義の味方とは限らないんです。いつ国民に刃を向けるか分からないのです。

 あなたは治安部隊と軍を信用しているようですが、それは甘いですよ。お嬢さん、分かりますか?」

 サハーはそう力説した後、嘲笑の表情を投げかける。


 が、ルイも負けてはいなかった。

「なるほど、サハーさんは外国は信用できるけど、自国の軍や治安警察は信用できないとおっしゃるのですね」

「いや、だから……」

 サハーの言葉が終わらないうちに、ルイは矢継ぎ早に言葉をかぶせた。

「ところで、サハーさん、あなたの事務所はシベリカ系の企業から様々な援助を得て、活動なさっているようですね」

 ルイが言うには、アサト・サハー氏は『社会問題を扱う研究所』とやらを設立し、そのスポンサーにシベリカ系の企業の名が複数あるという。


「いきなり何ですか?」

 サハーの顔色が変わった。


「どういうバックグラウンドを持った者がどういう発言をするのか、明らかにしておくことは重要なことです。テレビで発言するということは、世論へ影響を与えるということでもあるのですから」

 あくまでも冷静にルイは受け答えた。


「関係ないでしょ」

 慌て気味のサハーに、ルイは淡々と反論する。

「いえ、関係ありますよ。私はご存知の通り、旧アリア国の元大統領の孫です。だから当然旧アリア寄りの発言になるでしょう。

 そして、サハーさんはシベリカ系企業から多額の援助を受けています。ということは、シベリカに配慮し、シベリカ寄りの発言になるのも当たり前のことです。

 だからこそバックグラウンドの説明が必要なのです」


「個人情報を暴露するに等しい行為ですよ。あなた、訴えられたいのですか」

 サハーは眦を上げて恫喝するものの、ルイはしれっとサハーの痛いところを突く。

「シベリカ系企業から援助を受けていることを、なぜ隠したがるのですか?」


「今、そんな話は関係ないでしょ。議論のテーマから外れてますよ」

 サハーは口をわなわなさせつつ、反論を試みるも……ルイの冷静な発言は続く。

「どうでしょうか。私はさっきから、トウアの治安が悪化し、トウアが弱体化して喜ぶのは誰か、という話をしているんですよ。

 そして今回、狙われたマハート氏は、今のシベリカ国中央政府のやり方に批判的な人物です。マハート氏を消したいと思うのは誰でしょうね」


「何かとシベリカを敵視するあなたの憶測だ」

 サハーが声を強める。

 が、ルイは意に返さなかった。

「今回の事件が予算を得たいがための治安部隊の自作自演だ、と言うサハーさんも憶測で発言してますよね。

 そう、何かと治安部隊や軍を敵視するサハーさんの憶測と、シベリカを敵視する私の憶測……つまり、お互い様ということです」


「黙りなさい、この小娘が……その失礼極まりない生意気な態度は何だ」

 ついにサハーのほうが切れてしまった。

「どちらが失礼でしょうか」

 ルイは笑みを浮かべながら静かに切り返す。


「ほかの方の意見も聞いてみましょう」

 ここで慌てて司会者が入り、とりなした。


   ・・・


「ルイに軍配だね」

 リサがすっきりしたような顔で、残っていた牛乳を飲み干した。

 セイヤも胸が空く思いだった。


「あ、そうだ、今回のマハート氏暗殺計画情報の件で、ルイにいろいろ話を聞かなきゃね。今度、ルイをうちに呼ぼうか。後でルイに連絡とってみるね」

 そう言うとリサは立ち上がり、朝食の後片付けを始めた。

 セイヤはそれを手伝いながら……リサに仕事をやめてもらうのは難しそうだな……と密かにため息をついた。


「さて、こっちは皿洗いだから、セイヤは掃除をよろしく。洗濯機もまわしておいてね」

 久々の休日は、たまっていた家事で過ぎていった。


   ・・・・・・・・・・


 一方、この同じテレビ番組を見て、苦々しい思いを抱いた人物もいた。

「ルイ……少し調子にのっているようね」

 サギーは、テレビに映るルイを瞬きもせずジッと見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ