爆破事件
まえがき
↑着色が間に合わなかったので、とりあえず着色前のペン画をアップ^^;
漫画イラストと小説の融合エンタメと謳っているので、できるだけ絵を付けようということで。
ペン画でもっと描きこんで白黒で行くか、着色するか、迷っているのだけど・・・
仕上げたら、また改めてアップします。
少し汗ばむ陽気に包まれた初夏の日。
慌しい朝の通勤客や学生たちでごった返しているトウア地下鉄中央駅――ここは、首都トウア市の街の中心地にある大きな地下鉄駅で、様々な線が乗り入れているため、乗り換え客も多かった。人々はそれぞれ目的地に向かって、脇目もふらずに足早に歩いていく。
そこへ大地を揺るがすような爆音があちこちで鳴り響き、熱風が吹き荒れた。粉塵が巻き起こり、人々の悲鳴と怒号が交差し、中央駅はパニックに陥った。
通報を受け、治安局の警察捜査隊と救助隊、爆破物処理隊が駆けつけた時には、地下通路に煙が立ち込め、粉塵で空気が濁り、怪我人であふれかえっていた。
消防隊が鎮火に当たり、間もなく消火された。
爆破物処理隊がほかに爆破物が仕掛けられていないか見回り、救助隊は人々の救出に動いていた。
爆弾が仕掛けられたらしいその付近には、手足が千切れ焼け焦げた死体が散乱しており、辺りに立ち込める臭いも強烈で、思わず吐いてしまう隊員も一人二人ではなかった。
遺体を見慣れている経験豊富な警察捜査官らも青ざめていた。それだけ遺体の損傷が激しかった。
別の場所にも爆破物が仕掛けられている可能性があるということで非常線を張り、パトロール隊も出動し、ほかの地下鉄駅の見回りを強化した。爆破が起きた地下鉄中央駅周囲は交通規制がかかり、隊員らは交通整理にも借り出された。
さっそくマスコミも嗅ぎつけ、報道を始めていた。
セイヤとリサが所属する特戦部隊にも出動要請がきた。手がいくらあっても足りないので、爆破のあった地下鉄中央駅に出払っている警察捜査隊やパトロール隊の協力をせよ、とのことであった。
「何だか大変なことになっちまったな」
部隊室に駆け込んだセイヤとリサに、ジャンが声をかけた。
「今さっき隊長から詳しい指示があった」
「オレたちの任務は?」
「第2パトロール隊の補佐をする。今後はそこの隊長の指示に従えだとさ。まずは爆破が起きた地下鉄中央駅周辺へ向かう。行くぞ」
ジャンとセイヤとリサが地下鉄中央駅に到着した頃には、負傷者の救急搬送は粛々と進み、遺体だけが残されていた。
その並べられている遺体にはビニールシートがかけられていたが、それでも惨さが伝わってくる。中には手足がなく人の形を成していないのが分かるものもあった。臭気もすごい。そんな死体が地下から次々と運び出されてくる。
爆破でやられただけではなく、逃げ惑う人々が階段で将棋倒しとなり、押しつぶされて亡くなった子どももいたという。
リサは目を背けた。
が、すぐに思い直し、ビニールシートがかけられた遺体を凝視した。兄さんなら目を背けず、被害者の姿を目に焼きつけ、犯罪者を必ず見つけ捕まえようと心を奮い立たせるはずだと。そして、血に染まりながら死んだ兄の姿を脳裏に浮かべる。
……この人たちも兄さんと同じ……さぞかし無念だっただろう、痛かっただろう、苦しかっただろう……そう思うことで吐き気を抑えた。
「許せねえな」
隣でジャンがいつになく低い声でつぶやいた。
セイヤは黙ったまま、リサと同じように死体をただただ見つめていた。この悲惨な光景を脳に刻み込むように。
「さて仕事しよう。ほかに爆破物が仕掛けられていたら大変だ」
ジャンとセイヤとリサは、第2パトロール隊の隊長から指示された持ち場のパトロールを開始する。
初夏の気候は3人を汗だくにした。
中央駅周辺は喧騒にまみれ、粉塵が収まったはずなのに空気は澱み、周囲の景色が霞んで見えた。
本当ならばさわやかな季節のはずなのに、肌を撫でていく風は生ぬるく、息が詰まるような気持ち悪さを覚えた。
夕方――
交代時間がやってきて、セイヤとリサは一時帰宅を許された。
二人は疲れ果て、シャワーを浴びるのが精一杯でベッドに倒れ込んでしまった。食欲は全く涌かなかった。脳裏には、ビニールシートがかけられていたとはいえ、人の形が成されていない焼死体の姿が思い浮かぶ。しばらく肉は食べられないだろう。いや一生、口にできないかもしれない……それだけ強烈なショックを受けた。身体的な疲れよりも精神的な疲れが大きかった。
――この中央駅爆破事件では11名が亡くなり、26名が重傷を負った。
その後、マスコミはさらに大騒ぎを始めていた。各テレビ局に次の爆破予告が送られてきたからだ。
『治安局への挑戦状』というタイトルで「今日から1週間後の3日間、地下鉄全駅、トウア最大の規模と言われる中央都市ビルとその周辺の繁華街と建造物を爆破する」という内容であった。
・・・・・・・・・・・・
同じ頃――海が近く、生臭い潮の匂いに包まれた古びたアパートの一室。
夜、地下鉄中央駅爆破事件の報道の加熱ぶりをテレビで見ながら、サギーは食事を続けていた。
大皿にはレアに焼かれた牛肉のステーキがあった。肉にナイフを入れると血がにじみ、皿の上に流れ出てくる。その血が滴る肉にかぶりつき、屠られた動物の肉をサギーは噛み締めていた。皿にこぼれていた血もパンでふき取り、一滴の血も残さなかった。
……例の工作を成功させなくては……
サギーは咀嚼していた肉を飲み込んだ。
地下鉄中央駅爆破事件とこの爆破予告によって、トウア世論は『治安部隊の強化』へと動くだろう。が、それでも例の工作は、今このタイミングで起こさざるを得なかった。『治安部隊強化の声を牽制する工作』については、また改めて手を打てばいい。
まずは『シベリカ政府から極秘に出された指示』を優先しなくてはならなかった。
生ぬるく鬱陶しい空気を追い出すかのように、サギーは窓を開け放ち、故郷よりはるかに星が少ない夜空を見上げた。