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旧作  作者: hayashi
シーズン2 プロローグ
33/114

虐待

シーズン2は、プロローグ、1章~5章、断章、エピローグという構成になる予定です。

 また親父が怒鳴っている……何でそんなに怒っているのか、分からねえ……


 子どもの頃、オレはそんな毎日を送っていた。

 ゴミが散乱した家でメシもまともに食べさせてもらえなかった。

 毎日のようにタバコの火を体に押し付けられた。背中、お腹そしてお尻……ついにはあそこを……親父は楽しそうにオレのパンツを剥ぎ、タバコの火を押し付けようとしていた。


 オレを虐めるのが心底楽しいらしい。


 もちろん、抵抗したさ。けど、親父の力にはかなわなかった。

 親父を蹴ったら、その10倍くらい蹴りを入れられ、意識を失った。その間にやられ――オレのあそこは火傷した。


 薬を塗ろうとしたが、薬箱が見当たらない。

 親父が隠したんだろう……オレが薬箱を探しているのをニヤニヤしながら見ていた。


 でも親父は、人に見られる『顔』には決して暴行しなかった。必ず服で隠れるところを狙った。

 コソコソと弱い者虐めをするサイテーなヤツだった。


 母親は新しい男を作って、とうの昔に逃げていた。

 ま、仕方ない……あんな親父からは逃げたくなるよな。


 母親が浮気性だったためか、親父はオレを「実の子ではない」と疑っていたようだ。

 オレもそう願ったさ。あんなヤツと血がつながっているなんて、ぞっとする。いつか母親を見つけて聞いてみたいと思っていた。オレは本当にあいつの子どもなのかってね。


 毎日毎日、親父から虐められる生活。

 オレにとって、家庭は戦場だった。敵は、オレの唯一の家族だった親父だ。

 虐め抜かれて、いつか殺されるかもしれない……オレにとっての家庭はそんな場所だった。


 学校もつまらなかった。いつも同じ服を着て、垢じみていたオレは皆から避けられていた。先生も見て見ぬふりをしていた。


 ――自分を守るためには戦うしかない――


 ああ、まだオレは「自分を守りたい」と思う気持ちが残っていてよかったぜ。中には「親が怒るのは、自分が悪いからだ」と全部、自分のせいにして心を殺すヤツもいるからな。あるいは本当に自分を殺すヤツもいる。

 オレの場合、親父があまりにサイテーだったから、「自分が悪い」なんて思わずにすんだのかもしれない。


 そして、ついにオレは……親父が酒に酔った隙を狙い、包丁でめった刺しにした。

 やらなきゃ、こっちがやられる。


 親父の顔は歪んでいた。

 とことん痛みと恐怖を味わって、死ね。


 そう思いながら、オレは何度も刺した。刃が親父の皮膚に沈み、そこから鮮血があふれ出る。親父の着ていたシャツが赤く染まっていった。


 だが、ひとつひとつの傷が浅かったのか、親父は死ななかった。

 でもこのことが世間で大騒ぎになり、親父が虐待していたことが明るみになり、オレは助かった。

 当時9歳だったオレはとりあえず保護観察処分となり、トウア市内にある第一トウア公立未成年養護施設送りになった。


 親父はすっかりオレに対して怯えるようになり、親権も放棄した。裁判所もこれを認め、オレは敵=家族から解放された。

 やっと敵がいない暮らしを送ることができるようになり、メシも腹いっぱい食えるようになった。体の発達が遅れていたオレはいっきに成長し、背も伸び体重も増えた。


 ――オレは親父と戦って、豊かで平和な暮らしを手に入れた――


 そういえば、養護施設の付設学校でも『平和教育・人権教育』が盛んだったっけ。

 オレの平和と人権は 散々家族に剥奪されたけどな(笑)


 譲り合い、話し合いなんて、オレの家族の間にはそんなもんは存在しなかった。そんなもんで解決なんてしなかった。


 そうだ――9歳のオレは戦って、親父をめった刺しにして、敵を倒して『平和と人権』とやらを手に入れたんだ。


 キレイ事を言っている先生らは何だかムシが好かなかった。オレのことを「かわいそう」と上から目線で同情し、したり顔で「暴力を振るわれたからといって、暴力で立ち向かってはいけない。憎しみが生まれるだけ」と説教をし、「憎しみの連鎖を断ち切るべき」「お父様と話し合った方がいい」と親父のことを知りもしないくせに無責任なアドバイスをしてくる。

 平和と人権をやっとこさ勝ち取ったオレは、平和と人権を奪い続けた親父には二度と会いたくなかった。


 だからなのか、ムシが好かない平和主義の先生たちから『不戦の民の子孫』と奉られていた『あいつ』のことも何だか気に食わなかった。

 ま、オレが気になる女の子があいつと仲良しだったから、嫉妬心もあった。それもあいつを虐めた理由のひとつだ。


 だが『優しい不戦の民』だったはずのあいつは、ついにオレに報復してきた。不意打ちをし、卑怯な手を使って、オレを木刀でめった打ちにしてきた。その時のあいつの目は狂気そのものだった。

 あの時、たしか……あいつは10歳で、オレは13歳だった。


 それからは未成年養護施設を出るまで、オレはあいつに怯えていた。

 オレだけじゃなく、しばらくの間は皆からも、あいつは危険人物として敬遠されていた。一人を除いて。


 でも、あいつは、こちらから手を出さなきゃ何もしなかった。基本的におとなしいヤツだったので、何年かすると『木刀暴力事件』の記憶は皆の中では薄まり、やがて忘れ去られた。あいつは再び――『不戦の民の子孫』として先生から奉られるようになり、『穏やかな人』『無害な人』『平和を大事にして戦いを拒否する人』『善人』と思われるようになっていった。


 けど、あいつの黒さはなかなかだぜ。

 あいつは、オレを大怪我させておきながら、謝罪すらしなかった。それどころか入院していたオレをわざわざ訪ね、さらに脅しつけ、このオレを震え上がらせた。


 今思えば、あいつも自分を守るために戦ったんだろうけどさ……あいつが究極の平和民族・不戦の民? 笑わせるなよって。


 オレはあいつを虐めるのをやめた。

 戦ってオレを完膚なきまでに叩きのめしたあいつは、オレの虐めから解放され、平和を手に入れた。オレが親父と戦い、親父の虐めから解放されたように。


 オレは基本的には強いヤツには手を出さない。弱い者だけ虐める。親父にそっくりだ(笑)

 母親を探すまでもなく、やっぱりオレは親父の子だったらしい、血は争えないね。


 だから学校で教わった『平和道徳』なんざウソだと思ったね。武器を捨てて、相手の警戒心を解け? 笑わせるな。武器を捨てたとたん、相手は心置きなく攻めてくるぜ。

 身を守りたいなら、武器を持ち、相手を牽制し、それでも相手が襲ってきたなら、徹底的に戦うしかない。勝つために卑怯で悪どいことをする。


 ――今、オレは23歳になった。フリーライターをしている。


 記事のネタとして、ちょっと前に世間で話題になった『特戦部隊のヒロインのその後』を調べていたら……びっくりしたぜ、『ヒロイン・リサ』の夫が、あいつだと知った時は。


 へえ……あいつ、早く結婚したんだな。

 そういえば、家族を「絶対的な味方だ」「一番信用できる、信頼できる」「一番大切で守るべきもの」と思うヤツが多いらしいけど、オレにはいまひとつ分からねえよな。オレにとっちゃ親父という家族は味方どころか敵だったからな。母親だって新しい男を作って、オレを捨てたし……家族なんて信用できねえ。


 けど、ほかのヤツにとっての家族はそうじゃないらしい。

 家族ってそんなにいいもんなのか?


 いや、オレの周りには離婚したヤツもわりといるし、そうとは限らなねえよな。

 虐待や育児放棄など家族間の暴行傷害事件、殺人事件もよく耳にする。オレはライターだから、そういった事件を取材することもけっこうある。家族間のいざこざくらい厄介なものはない。簡単に逃げられないからな。


 そりゃあオレだって『絶対的な信用できる味方』っていうのが手に入るもんなら、手に入れてみたいけどな。そしたら少しは癒されるのか? 穏やかな気持ちになれるのか?


 早くに結婚したあいつも『絶対的な味方』ってヤツが欲しかったのかもな……養護施設出身の連中はけっこう家族に憧れを持っているようだから。

 でも期待した分、裏切られた時のショックは大きいだろう。


 リサっていう女……どういうヤツなのかな。オレの母親と同じく信用できない女だったりして(笑)

 ちなみに、あいつも『ヒロイン・リサ』と同じく特戦部隊所属らしい。つまり今は公務員ということだ。子どもの時と違って、オレに対して無茶はできねえよな。


 ……『ちょっかい』出してみるか。いいネタになるかもしれねえし。


 ――相変わらずオレの心は黒かった(笑)――


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