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旧作  作者: hayashi
シーズン1 エピローグ
31/114

解放

挿絵(By みてみん)



 彼女の無造作に伸びている髪は、背中を完全に覆ってしまい、長くて重苦しかった。

 少なくとも、彼女の兄が亡くなったときから伸びっぱなしにさせて、あまり手入れしていないように見えた。


 彼女との暮らしをスタートさせた日。

「ちょっと切ったほうがいいのでは」と言ったら、「お金がもったいない。今月の家計がもたない」とイタいところをついてきた。


 そんなわけでオレが彼女の髪を切ることになった。

 ――オレに任せてくれるということは、彼女は自分の髪にさほどこだわりがないのか――

 彼女は「じゃあ適当に」と言って、「どのくらい切るのか」も聞かなかったし、「こうしてほしい」という希望も言わなかった。


 女のコなのに、めずらしい。自分自身に無頓着なのか……自分を大切にしようっていう気持ちが希薄なのかもしれない。

 ――それはやっぱり、まだ過去を引きずっているせいなのか――


 そう思ったら、彼女の伸びきった長い髪が許せなくなった。

 彼女にも腹が立った。また自分を粗末にして、オレに心配かけさせ続ける気かと。


 切るとしたらこのくらいが適当かなと、一度は彼女の肩下10センチあたりにハサミを持っていったけど、もっと上に移動させて彼女の髪を挟み込み、そのままハサミの刃を閉じてしまった。


 長い髪がかたまりとなって床に落ち、その部分だけ彼女の白い首がのぞいた。

 ハサミを入れた時、彼女の肩がビクっと動いたので、髪に無頓着だったはずの彼女もさすがに気になったようだ。ここまで短くされるとは思わなかったんだろう。


 もうそのままハサミを進めるしかない。

 彼女もオレに任せると言った手前、何も言わなかった。


 ハサミを入れる度に長い髪が次々に落ちていき、彼女から離れていった。

 彼女を縛り付けていた何かが離れていくようにも思った。だから、ハサミをどんどん進めた。


 あっと言う間に彼女の髪はすべて、首筋の半分の位置に届くか届かないかの長さになった。


 でも、実はそこからが大変だった。左右の長さが違ったり、妙に不揃いになってしまったりして、キレイに揃えるのに苦労してしまった。


 短いほうに合わせて切っていくから、さらに短くなってしまい、キレイに揃えられたと満足したとき、彼女の髪は生え際ぎりぎり、首の付け根あたりまで短くなっていた。

 こんなに短くするつもりはなかったけど、このほうがいいなと思った。


 それにしても右手が異常に強張っていて、痛くなってきた。長時間、ハサミを使い続けたからかもしれない。まあ、そのうち治るだろう。


「心機一転……新しく始めような」と彼女の頭に左手を置いた。

 彼女は少し笑顔を見せて頷いた。


 床に落ちている長い髪が、彼女を縛っていた過去の残骸のように見えた。


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