願い
リサは肺炎を起こし、病状が悪化し良くない状態が続いていた。
セイヤは病院に通い詰めた。家族以外は面会謝絶だったが「彼女に家族はおらず、婚約者の自分が唯一の家族だ」ということで付き添いの許可をもらった。
「リサはまた、亡くなった兄や両親の夢を見ているのか」
あの時――リサが立てこもり事件の犯人と格闘の末に気を失い、それから意識を取り戻した時、雪原の中でつぶやいていたことをセイヤは思い出す。
『逝かせてくれなかったんだ』
『せっかく、兄さんや父さん、母さんがいたのに……一緒に食事、したかったな』
――リサは今でも、心の奥底では自滅願望に囚われている――
そう、前々からセイヤは何となく感じていた。リサは死に場所を求めていたのだ――それが『リサの危なっかしさ』の正体だった。
だから、顔も知らないリサの兄や両親に向かってお願いした。
リサを解放してくれ……リサを連れていくな……食卓を囲み、リサと一緒に食事する役目は自分にくれ――と。
こんな神頼みのようなことは、幼い頃、両親が事故にあったあれ以来したことがないのに、願わずにはいられなかった。
そしてリサにも訊いてみたかった。
――やっぱりお前は失った家族のもとに逝きたいのか?
――オレは新しい家族になれないのか?
――過去が恋しいのか? 新しい一歩を踏み出せないのか?
しかし、リサは相変わらず苦しそうな寝顔しか見せてくれない。
そんなリサの姿から顔を背けた時、ふとテレビ台に置いてある碧いお守りへが目に入る。セイヤは思わずそれを手にした。
――オレは全然、借りを返してもらってない――
セイヤはリサに向かって、つぶやいていた。
――借りを返せ――