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旧作  作者: hayashi
シーズン4 第3章「黒い政界」
104/114

黒い事情聴取

今までのお話。

臓器売買の件で、窮地に立たされたクジョウ首相、そして追い詰める共和党党首。その目の前にセイヤと共に現れた「共和党の情報源・サマー医師」。


時をさかのぼり、セイヤがサマー医師を事情聴取するところから始まります。

 それから――セイヤはまた入院部屋を抜け出し、治安局の制服に着替えて、3階にある心臓外科部長のサマー医師を訪ねた。

 もう午後1時半を過ぎていた。サマーの勤務先が同じトウア国立中央総合病院で助かった。


 セイヤは、サマーの診察室に入ると、午後の診察準備をしていた看護師に治安局の手帳を見せ、昼休み中のサマーを呼び出してもらった。午後の診察は2時からとなっているが、遅れるのが日常茶飯事で、患者は待つのが当たり前になっている。


 ――30分あれば充分だ――30分で落としてみせる。セイヤは時計を確認する。


 程なくして、サマーがやってきた。その姿は細身で小柄だったが、態度は尊大で威圧的な空気を醸し出していた。


 セイヤは、3件の子どもの殺人事件について極秘捜査で来たと言い、話を聞かせてほしいと人払いをさせた。そして自分が立てた仮説をもとに、サマー医師を問い詰めていった。


 最初はシラを切っていたサマーだが、やっと子どもの心臓移植について、シベリカ国のある病院の仲介をしていることを認めた。が、あくまでも脳死者からの正当な臓器提供だと言い張り、違法行為は何もしていないとふてぶてしい態度を見せた。


「どうしても気になるならシベリカへ行って捜査したらいかがですか。ま、他国の捜査権はありませんけどね」

 サマー医師はイスにふんぞり、冷笑した。


 そこでセイヤは核心を突くことにした。

「ところで、マオー氏とヤハー氏のお孫さんの情報を売ったでしょう。民主平和党と敵対する勢力に」


「いえ……患者の個人情報を外に漏らすようなことはしませんよ」

 いきなりの質問にサマ医師の目は泳いでいた。ふてぶてしさは相変わらずだったが、イスの背にもたれていた体を起こし、口に手をやっていた。


 人間ウソをつく時、思わず口に手をやることが多い。体を起こしたのは緊張したからだ。

 セイヤはサマーが情報を売ったことを確信した。


「東、北、西地区で起きた子どもが殺害された3件の事件について知っていますね?」

「ええ、ニュースは見てますから」

「3人は8年前に心臓移植を受けてますが、3人ともあなたが面倒みていたでしょ。このことはそれぞれの被害者の親御さんたちに確認済みです」

 本当は2件しか確認していないが、当然3件とも関わっているだろう。


「ええ」

 この件についてはサマーは認めた。セイヤは質問を続ける。

「この3人の情報も一緒に売ったのではありませんか」


「……そんなことはしてません。何なんですか……失礼ですよ。もう帰ってください。こちらは答える義務はないのですから。強制的に事情聴取をしたいというなら証拠をそろえ、令状をとってきなさい。ま、証拠をそろえられるならね」

 サマー医師は怒った風を装っていたが、決してセイヤに目を合わせようとしなかった。顔はセイヤに向けつつも、微妙に視線をずらす。


「こんなことが世間に明るみになったら、あなたも社会的制裁を受けるだろうから、そう簡単に本当のことを話してくれるとは思っていませんが……」

 セイヤはサマーから視線を外さなかった。


「正直に話したほうがいいですよ」

「正直に話してます」


「あなた、このままじゃ消されますよ」

 突然、セイヤは声を落とした。


「え?」

 サマー医師は虚を突かれた表情を見せる。


「あなたから情報を買った者は、あなたに本当のことをしゃべられるのを恐れているでしょうね。だから、あなたはきっと始末される」

「……」


「こっちは仕事上、そういう類の事件をたくさん見てきています。証拠がそろわないから表ざたにならないけど、口封じを疑われる事件は数え切れません。けっこう多いですよ。ニュースにならないだけで」


 セイヤはしれっと嘘を言った。

 サマー医師は言葉を無くしていた。


「あなたも自殺に見せかけられて殺されるでしょうね。治安部隊は人員不足で忙しいから、本当に自殺かどうか詳しく調べません。だから口封じで殺されるケースが多いんでしょう。自殺とみられる遺体には、実は他殺もかなり含まれていると思います」


 セイヤのでまかせは続いた。他殺遺体の惨さを脚色して語り、脅しに脅した。自殺に見せかけることができずとも、遺体が発見されなければいい。事件と認知されず、捜査もされない殺人事件について語り、ついでに遺体の残酷な処理方法も教えてやった。

 サマー医師の顔が蒼白になっていく。


「殺されるのが嫌だったら白状したほうがいい。

 もしあなたの身に何かあれば、世間と警察は当然、あなたが情報を売ったとする人物を疑います。だから逆にその者はあなたに手出しできなくなります。

 殺人の罪は重い。そのリスクを背負ってまで、あなたをどうこうしようとは思わないでしょう。

 もちろん、警察もあなたを守るために目を光らせます。情報を売った人物を公表したほうが絶対に安全です。

 あなた自身の罪については、情報を売ったことについては世間から責められるでしょうが、刑事罰を問われることはないと思います。ちょっと社会制裁を受けるか、恐怖と痛みをとことん味わいながら殺され、あげくに自殺で処理されるか、どっちがマシかよく考えてください」


 セイヤは「このままでは殺されるのは確実」として、サマー医師に迫った。

 サマーは床に目を落とし、黙り込む。


 室内は静寂に包まれた。セイヤは何も言わず、ただただじーっとサマーを見つめていた。サマーの額には汗がびっちりと浮かんでいる。傲岸な者は意外と臆病だ。最初、サマーの尊大で威圧的な態度を見た時から、ちょっと脅かせば容易く落ちるとセイヤは踏んでいた。


 そのうち、張りつめた空気を破るように、サマー医師は大きなため息をつき、ついに……共和党の大物議員の第一秘書官に情報を渡してしまったことを白状した。


 セイヤは大きく頷き、すぐにルッカー局長へ連絡を入れて、今までのことをかいつまんで報告し、サマー医師を護衛するよう要請した。


「今からあなたに護衛がつきます。安心してください」

 今までと一転してセイヤは優しく微笑む。が、心の中では……護衛というより監視だけどな。万一、寝返られたら厄介なことになりそうだからな……と冷たくつぶやいていた。


 サマー医師もさっきまでのふてぶてしい態度はどこへやら、「お願いします」とすがるような態度を見せた。サマーを引き入れるために、セイヤは「私たちはあなたの味方です」とアピールし続け、かりそめの信頼感を勝ち取った。


 しばらく経ち、サマー医師のもとへ護衛が到着するのを確認し、セイヤは公務員専用特別室に戻った。診察室では優しげな笑顔を振りまいていたセイヤの顔は、診察室を出た途端、無表情になる。が、その眼光は鋭かった。


   ・・・・・・・・・・

 

 特別室には、すでにルッカーが来ていた。

 公務員専用室は個室なので人払いの必要もなく、ルッカーには見舞客用のイスに座ってもらい、セイヤはベッドに腰掛け、詳細を説明した。


「なるほど、共和党党首が関わっていたか……」

 セイヤの話を聞いたルッカーは腕を組み、考え込むように目を閉じた。

「臓器売買が疑われるシベリカで心臓移植したマオー氏およびヤハー氏の孫の話を、明日の党首討論で持ち出される可能性が高いということか。民主平和党にとっては大打撃だな」


「その代わりサマー医師の証言で共和党も追い込むことができます」

「このことが公にされれば……シベリカ人の暴動が心配だな……戒厳令を敷くはめになったら選挙を行うことが難しくなる」

「共和党にとっては、戒厳令によって選挙が延期になってでも、民主平和党に打撃を与えるほうを優先するでしょうね。何もしないまま選挙に突入すれば、民主平和党が大勝してしまうでしょうから」

「そうだな……」

 ルッカーは目をつぶったままだ。


「あるいはサマー医師を民主平和党に引渡し、共和党と取引させますか? マオー氏とヤハー氏の孫の心臓移植の件について口外するな、と。もし口外すれば、サマー医師を使って、公の場で証言させ、共和党を叩く、と。そうすれば共和党を引かせることもできるでしょう」

 言葉を選びながら、セイヤは続ける。

「その場合、サマー医師は大事なカードですから、民主平和党がサマー医師を護るでしょう」


 そこでようやくルッカーは目を開けた。

「お前はどうするべきだと思う?」


 ルッカーの射るような視線に臆することなく、セイヤは自論を述べる。

「トウア国民のためを思えば、これ以上治安を悪化させず、選挙は速やかに安全に行ったほうが望ましいですが……

 しかし、我々の捜査情報を、ある特定の党のために利用させるのは問題です。

 この場合、サマー医師という強力なカードを得た平和民主党は共和党を牛耳ることができるでしょう。共和党と取引を行うのは、我々ではなく、平和民主党です。我々は直に取引する立場にありませんから」


 ここで一旦、話を切り、しばし考えた後、こう続けた。


「……すなわち、サマー医師を民主平和党に引き渡すという行為は、我々が民主平和党という特定の党のために動いたことになります。

 これは、選挙まで心臓移植の件を極秘扱いにし、マオー氏とヤハー氏の孫を警護する任務とは意味が違ってきます。こちらの任務は、あくまでもシベリカ人が暴動を起こすきっかけになるようなことは公にせず、選挙を安全に行うため、つまり国と国民のためでした。民主平和党のためではありません。

 しかし捜査によって得た『サマー医師というカード』を民主平和党に渡し、共和党と取引させるのは、特定の党に肩入れしたことになります。公務員がそんなことをすれば、やがて国に歪みが生じます」


 セイヤは言い終えたとして、ルッカーに軽く頷く。


 しかし、ルッカーはさらにその先の答えを促した。

「つまり?」


 セイヤはちょっと言葉に詰まったものの、このように結論付けた。

「私は民主平和党と共和党を取引させるべきではないと思います。サマー医師というカードを民主平和党に渡すべきではありません。

 その代わり、サマー医師には公の場で証言してもらいます。シベリカ国の臓器売買が疑われる心臓移植は個人が関わったことです。民主平和党は関係ありません。

 しかし、政敵を陥れようと画策し、党のために動いた共和党党首については個人犯罪とは言えません。共和党という組織がやったと捉えていいと思います。

 ですから告発ということで、サマー医師を使って公にしてもいいと思います」


 ここまで一気に話した後、セイヤは目線を下げた。


「ま、サマー医師を公の場で証言するように促し、それを手助けすることも、公務員としてやってはいけないことですが……それは私個人が私的に行ったということで、後で始末書を提出し、処分も覚悟します」


 そう言いつつも、もし減給処分になったら、リサを怒らせるかな……とちょっと心配になってきた。


 ふと見ると、ルッカーは苦笑していた。

「処分を食らってでも、それをやるか……お前って意外と正義感が強いんだな。もっと損得勘定で動くヤツかと思ったが」


「いえ……何が正義かどうかは自分には分からないです。ただ、悪どい手を使った共和党が一方的に民主平和党を陥れるのを黙って見ていられないだけです」

 セイヤは声のトーンを落としながらも、決然とルッカーに視線を合わせる。

「あとはシベリカ人たちの怒りが心配です。暴動が起きて戒厳令が敷かれたら選挙どころじゃなくなります。ですから、予め治安部隊や軍を出動させておいて、牽制するしかありません。選挙は行うべきです」


「そうだな…」

 そこでルッカーは席を立った。


「それにしても、よくサマー医師を白状させたな。お前のことだから上手く脅して真相を引き出したんだろうな」

「脅したのではなく、説得したと言ってください……」


 ルッカーは顔では笑っていたが、相変わらず鋭い視線をセイヤに投げかけていた。

「マオー氏とヤハー氏および3件の殺人事件の被害者、そしてサマー医師への事情聴取も、お前の勝手な行いになるが、私が命令し極秘任務でやらせたということにする。

 党首討論会へ出かける時は、お前が個人的にサマー医師に付き添うことを邪魔しないよう、医師を護衛する隊員らに言い含めておこう」


「ありがとうございます」

 セイヤも立ち上がり、頭を下げた。


「今はとにかくゆっくり休んでおけ。ご苦労だった」

 ルッカーは片手を上げ、立ち上がったセイヤを座るように促すと、部屋を出て行った。


 それから午後の診察が終わった頃を見計らい、セイヤは再び、サマー医師のもとを訪れ、公の場で共和党との関係を証言するよう求めた。

「明日、党首討論会が公共放送局で生放送されます。

 おそらく共和党は、マオー氏とヤハー氏は孫の件でシベリカ国で臓器売買に加担したとし、そのことをクジョウ首相は知っていて隠そうとした、と追い込むでしょう。

 そこで、あなたは共和党との関係を告白し、すべてを公表するのです。生放送ですから、テレビは余すことなく世間に伝えるでしょう。これで共和党はあなたを口封じできなくなります。あなたの身の安全は保障されたも同然です」


「……党首討論会へ乗り込むのですか? そんなことができますかね……」

「それについては、こちらで何とかします。必ずあなたをお守りします」

「……わかりました」

 最初の頃の不遜な態度はどこへやら、サマー医師はしおらしくうなだれた。部屋の外ではルッカーから派遣された隊員らが患者を装い、サマーを護衛、監視していた。


   ・・・・・・・・・・


 そして今――公共放送局の党首討論会が行われているスタジオでは、サマー医師が『シベリカ国で心臓移植を受けたマオー氏とヤハー氏の孫の情報』を3年前、共和党党首の秘書に渡したことを告白していた。


 さらにその2年後、つまり今から1年前、マオー氏とヤハー氏の孫と同時期にシベリカ国で心臓移植を受けた全ての子どもの情報が欲しいと言われ、渡したという。

 なぜ、政界とは関係ない一般人のそのような情報を欲しがったのかは知らないと述べた。


 ちなみに、これら心臓移植を受けた5件の家族については、それぞれ個別にバラバラに対応し、お互い知り合いになることを避けさせたという。

 ――移植を受けたシベリカ国の病院も5件とも異なり、トウア国立中央総合病院での診察もニアミスさせないよう注意をしたとのことで、5件の家族はお互いを知る機会がなかった。

 マオー氏とヤハー氏も、クジョウ首相に打ち明けるまで、お互いの孫がシベリカで移植を受けたことを知らなかったのだ。


「では、共和党は先に起こった3人の子どもが次々殺された事件について、その3人の被害者の共通点をすでに知っていたということですね。そして、マオー氏とヤハー氏のお孫さんも同じ共通点を持っていたことも」

 今度はクジョウ首相が共和党党首に詰め寄っていた。


 共和党党首は言葉を失っていた。

 形勢逆転とばかりにクジョウ首相は問い質す。


「ひょっとしてマオー氏とヤハー氏を脅迫したのは共和党ですか? 

 共和党は、臓器売買が疑われるシベリカで心臓移植を行った子どもの情報を持っていたのでしょう。先の3つの事件について被害者の共通点に気づいた共和党が、マオー氏とヤハー氏に孫の殺害予告を仕掛けたのではありませんか?

 マオー氏やとヤハー氏が騒ぎ立てれば、世間が注目し、民主平和党関係者がシベリカ国で心臓移植を受けたことが取りざたされ、臓器売買に関わったとし、民主平和党のイメージを落とせます。

 共和党はそれが目的だったのではありませんか?」


「いえ……そんなことは決して……」


「脅迫者は、先の3件の殺人事件の被害者がシベリカで心臓移植を受けたことを示唆しました。だからマオー氏もヤハー氏もこの殺害予告を単なる悪戯ではないと判断したのです」


「いえ……殺害予告などしてません。マオー氏とヤハー氏が脅迫をされ、治安局に極秘に警備を頼んだらしいという話を秘書から聞いただけです」

 共和党党首はさっきまでの勢いはどこへやら、その声には全く力が感じられなかった。


「先日、マオー氏のお孫さんへの襲撃未遂事件が起きましたが、これも共和党がやらせたのですか?」

「違います」

 共和党党首は激しく否定した。


「まさか、3人の子どもを殺害したのも、共和党ですか?」

「違います。そんなことをするはずないでしょ」

 さすがに共和党党首は声を荒げた。


 だが、クジョウ首相は攻撃の手を緩めなかった。

「ところで、なぜシベリカで心臓移植をした一般人である子どもたちの情報を欲しがったのですか? 何が目的だったんですか?」


 これはセイヤも知りたかった。

 目的はおそらく……シベリカ工作員であったあの少女を取り込むためだったのだろう。


 共和党は、シベリカ工作員がいると疑われる組織へ仲介者=スパイを送り込み、そこで工作員の少女をターゲットにし、少女の欲しがっているものを探り、それが「8年前のある時期にシベリカで心臓移植を受けた子どもの情報」だと知り、取引を持ちかけた。


 共和党にとっての見返りは、工作の情報だ。そこでシベリカ工作員による国会襲撃作戦を知った。


 国会が襲撃されたその日、共和党党首はじめ幹部は欠席していたり、あるいは午前中のみ出席していた。一日通して、重要案件を審議する大事な場なのにだ。さすがに共和党議員全員が午後の審議を欠席するのはおかしいので、新人と中堅議員は出ている。

 しかし銃撃され犠牲になった共和党議員は新人1名のみだ。

 対して、一番多く犠牲者を出したのは民主平和党だ。ほかの党の議員もわりと犠牲になっていた。


 国会が襲撃され、多くの死者を出したというインパクトの強さに、欠席していた議員を疑う者など誰もいなかった。


 さらに共和党は『少女の復讐』を利用して、政敵を貶めることを考えた。まず先の3人の子どもらが先に殺害されるように仕向け、それからマオー氏とヤハー氏を脅した。


 選挙前ということで、マオー氏とヤハー氏は必ずクジョウ首相に相談する。首相は、自分の秘書と党の重鎮だった者の親族がシベリカ国で心臓移植したことを、選挙が終わるまで隠そうとするだろう。

 それを共和党は狙った。「保身のために公にすべき情報を隠そうとした」とクジョウ首相を責めることができる。世間がこれを知れば、クジョウ首相のイメージは相当悪くなる。


「いずれにせよ……共和党、終わったな」

 でも、これって結局、クジョウ首相率いる民主平和党に肩入れしてしまったことになるのだろうか……セイヤにはよく分からなかった。民主平和党だって裏ではえげつないことをしているだろう。


 自分がやったことは正しいのか……

 いや、正しいか正しくないかは関係なく、ただ共和党の悪事を白日の下にさらしたかっただけなのかもしれない。言うなれば自己満足だ。

 もしかしたら、同じジハーナ人ということで、クジョウ首相を助けたい気持ちもあったかもしれない。だとしたら、結局、捜査情報を利用し、特定の政治家に肩入れしたことになる。

 

 ――自分が助けたい者を贔屓し、優先してしまう、時には関係ない他者を犠牲にする。それが人間だ。そこに公正さも、倫理も、正義もない――

 セイヤはただただ苦い思いを噛みしめていた。


 そして何といっても、シベリカ内紛工作に加担した自分には――共和党の悪事を責める資格はない。自分も間接的に、多くの人の命を奪う内紛を手助けしたのだ。犠牲者の中には子どももいただろう。


 そう今回、処分覚悟で動いたのは、正義のためではない――罪滅ぼしのために、罪悪感を軽くするために、自己満足のために動いたに過ぎない。


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