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彼と娘の大事と呪われし父君

タイトルからお察しのように「ドラ〇エ」ネタを織り交ぜたコメディーです。「ドラ〇エ」ネタはあまりにも有名過ぎてそこかしこで使用されているので便乗した次第ですが……大丈夫かな(汗)



用語解説【男妬有惨おとうさん】……男の嫉妬が惨めな様、またそのような人物

※作者の造語です



古来より人は戦ってきた。

守るため、生きるため、そして何かを手に入れるために。

これもまたそんな戦いの歴史の一片を担う、ある二人の男と一人の女性の物語である。




「あの、これつまらないものですが……」

下座に座る若者が、おずおずと手にした箱を差し出した。彼は修一しゅういち。このたびある任務クエストの為にこの地を訪れた、一人の勇者である。

いつもは涼しげな顔もこの日ばかりは緊張で硬くなっていた。無理もない。

目の前に立ちはだかる存在が放つ敵意が尋常ではないからだ。

リラックスするため彼は自分に言い聞かせた。


大丈夫。装備に抜かりはない。この日のためにどれだけ研鑽を重ねたか思い出せ!

胸に秘めたる思いは一つ

≪お嬢さんを僕に下さいっ!≫


「つまらない者? 確かに君には魅力がないな」

銘菓が詰まった箱を見もせずに、というより顔を新聞で隠した状態で年配の男が言った。男の名は哲郎てつろう。立場としては修一の敵、さしずめ魔王といったところだろうか。


是が非でも、どんな手段を使ってでも勇者を追い返す。彼をそんな存在にする諸悪の根源は一つ

≪娘はやらんぞっ!!≫


「お父さん!」

哲郎の言葉に非難の声を上げたのが、何を隠そう彼の娘であり修一の婚約者、優希子ゆきこである。彼女の配役は姫をおいて他にないだろう。かつて数多の姫君が一族の因縁やら政略の狭間で頭を悩ませたように、彼女も現在悩みが一つ

≪どうしてこんな雰囲気に……≫


ここまでくればもうお分かりだろう。修一に与えられた任務クエスト。それは人生の節目、一つの試練。はたまた未知への挑戦。そう、初めての……おつかい。違う、初めてのご挨拶である。



「これまで優希子さんとお付き合いさせて頂いた中で、彼女の優しい人格に触れるたび、僕の人生のパートナーはこの人しかいないと強く感じました」

一通り身の上を話し終えると修一は切り出した。まずは好印象を持たせ交渉を有利に進める計画らしい。


「フン、娘と過ごした時間が私の半分にも満たないくせに偉そうなことを言うんじゃない」

カウンターパンチが決まった。『ゆうしゃに5のダメージ!』


「ちょ、何言ってるのお父さん!」


「だって本当のことじゃないか」

口をとがらせた彼にはもう父の威厳など残っておらず、娘を渡さんと闘志を燃やす【男妬有惨】へとなっていた。


「いいんだ、優希子さん。……僕も男です。お義父さんの気持ちは痛いほどよく分かります」

「特に、男手ひとつで立派に育て上げた娘さんは何よりの宝。それを急に現れた見知らぬ男が持っていくというのはあまりにも身勝手な話ですよね」


修一は膝の上の拳を固く握りしめると、攻めに転じた。それは『いのちをだいじに』から『ガンガンいこうぜ』への作戦変更に酷似していた。


「ですが、天地神明に誓って申し上げます。僕達の婚姻を認めて下さった暁には、明るい家庭を築き、必ず彼女を幸せにします! ですから、どうかお嬢さんを僕に下さいっ!!」

彼は深々と床に手をついた。


――決まった


かの高名なRPGなら『かいしんのいちげき』に値するだろう。


「修一さん……」

優希子は自分の婚約者を改めて見つめた。


重い沈黙を破って発せられたのは、哲郎の意外な言葉だった。

「分かった。そこまで言うなら、……娘をあげよう」


「「えっ!!」」


「ほ、ホントですかっ!?」

突如差し込んだ希望の光に顔をほころばせながら、修一は確認する。


頑固そうな父親は、渋々といった表情で頷いた。

「男に二言は無い。おい、優希子。ここからは男同士の話だ。二階にあがってなさい」


「う、うん。分かった」

優希子は心配そうに修一をちらりと見た後、退室した。


より一層張りつめた空気の中、哲郎が一言。

「これで満足か?」


当惑する修一。

例のRPGにちなむなら『ゆうしゃはこんらんした』


「えっ……と、意味がわかりません」

彼は正直に事の真意を尋ねる。


「約束通り優希子を(二階に)あげただろう! さぁ帰ってくれ!」

話はこれまでだ、と言わんばかりの勢いで哲郎は修一を追いたてる。


「あー……なるほど。あげるってそういう意味。 ……って小学生ですかッ!? 」

彼は思わず婚約者の父親だという関係も忘れて突っ込んでしまったが、この場合は仕方がない。


「あーうるさい、うるさい。大体なんだ、ちょっとばかし髪の毛が多いからって調子に乗りよって!」


「何の話をしているんです!?」


急な話題転換についていけず、声を荒げた修一とは対照的に、哲郎は哀愁漂う表情で静かに語りだした。

まるで歴戦の老兵が次代を担う者たちに教訓を教えるように。

「それは一瞬にして訪れる……。後悔した時にはもう何もかもが遅いのだ」


「……お義父さん、真面目に話をしましょう」


なんとか話をもとに戻そうとする娘の男に哲郎は再びキレた。

「その呼び方はやめろ! 貴様の毛根けっこんなど無くなればいいんだ!!」


「結婚と毛根の両方を呪ってきた!?」


「うるさいっ」

机が掌で強く叩かれて修一は怯んだ。しかしここで退いては優希子と結婚することは叶わない。脱出リレミトは許されないのだ。彼は深く息を吸い込むと、真剣な面持ちで口を開いた。


「……僕は優希子さんを愛しています」


「それがどうした。私だって愛している」

修一が心の底から絞り出した純粋な台詞を、中学生レベルの屁理屈が一蹴する。


「……ぐっ」

愛の種類が違ぇェェ! 

修一は反論したい気持ちを喉の奥に押しやると、再び続けた。


「必ず優希子さんを幸せにします。だから僕達の結婚を認めて下さいっ」

余計な言葉は必要ない。彼は再び思いのたけをぶつけたが……


「もう間に合っている。娘想いの父親に恵まれてあの子は幸せだ」


「ぬぅッ!」

まさに暖簾に腕押し、糠に釘、馬の耳に念仏。一向に話が進まない腹立たしさに修一は唇を噛んだ。そんな彼に追い打ちをかけるかの如く哲郎はあくび混じりに一言。


「もうこんな時間か……どうりで眠いはずだ。帰ってくれ」


「まだ昼の三時ですよ!」

修一は時計を指さして言ったが、娘を思うあまり愛情の闇へと囚われて【男妬有惨】と化した哲郎にはもう届かない。


「悪かった。簡潔に言おう、帰れ」


『帰れ』


『お引き取り下さい』よりも粗野で絶大な氷属性の文言である。いい加減しつこいとは思うが……その威力は『マヒャド』に匹敵する。


「シンプルッ!!!」

取り付く島もない。このままでは……!





「お父さんっ!」

ドアが開いて優希子が雪崩れ込んできた。未来を、希望を掴むために。


「ゆ、優希子……。あがってなさいと言っただろう」


「お父さんはそんなに、私が幸せになるのが嫌……?」


娘の抑揚のない声に、子煩悩な魔王は胸が締め付けられそうになる。幽閉していたはずの姫から不意打ちを受けて彼のMPは大きく減少した。

「な、なにを言っているんだ。父さんはいつでもお前の事を……」


「それなら、それならお願い、許して。私、この人と一緒になりたいの」

揺るぎない意志の籠った眼差しに、哲郎は思わず後ずさった。


もう娘を止めることは出来ない、と彼の経験が告げている。


「宜しくお願いします!」

そして誠心誠意懇願する眼前の若者が、かつての自分と重なった。今はもう別れてしまったが、彼もまた妻の父親に頭を下げた一人だったのだ。


フッ……今度は自分の番、か。

自嘲気味に心の中で呟くと、彼は目の前の男をまっすぐに見据えた。


「……修一君といったね」

初めて相手の名を口にした哲郎には、もう先ほどまでの刺々しさが消えている。


「親が言うのもおかしいが、優希子は私には勿体ないぐらいの優しい、出来た娘だ」

目が細められ、ふいに彼は顔を背けて窓の外を眺めた。その体が微かに震えているのは気のせいではなさそうだ。


「……幸せにして、幸せになってくれ」

修一と優希子の目が見開かれる。

そして二人は顔を見合わせた後、高らかに宣言した。


「「はいっ!!」」



こうして新たな世界(世帯)がまた一つ、【男妬有惨】の呪縛を乗り越えて創造された。




ど、どうでしょう??


ちなみに僕は『こんらん』していませんよ。


『さくらん』しているんです!

だって天下の「ドラ〇エ」をこんな風にしちゃうなんて……ね。

批判も含めて感想、待ってます!

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