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約束  作者: 桂まゆ
1/4

承前

この物語は、夏のホラー2013参加作品です。がんばってみましたが、怖くない……(汗)

 地図アプリが示す、その場所を目指していた。

 目指す先は、「西国一」と呼ばれるほど美しい景色が広がっている筈だった。

 だが、そこに居たのは……。



 雑木林をひたすら、走る。

 古木の枝の狭間から見えるのは、雲ひとつない、蒼天。

 それが、何故か切なさを誘っている気がするのは……自意識過剰なのだろう。と、おれは思った。

 いや、センチメンタリストだったのは、「わたし」の方か。

 「わたし」なのか、「おれ」なのか。

 もう、どうだって良い。

 あの場所から逃げる事が出来れば、それで良い。



 立ち止まるな。走れ。


 捕まるな!!


 そんなおれの脳裏に響く、言葉。薄く嗤う顔までも、絵になって浮かぶ。


(だから、言ったでしょう?)


 それは、悪夢のように。


 だめだ。追いつかれるな。

 走れ、走れ、走れ。


 不意に、目の前が開けた。

 あれが、終点だ。ようやっと、雑木林を抜ける事が出来たのだ。

 少しだけほっとして、それでも速度を緩めることなく、光の先に向かう。夏の、目を焼くような陽光が、おれを包み込んだ。

 目を細め、光を全身に浴びる。

 だが、そこに広がっていた光景に、おれの身体は凍りついた。


 荒々しい、波の音。

 そそり立つ、断崖。


 驚いたのは、それが、つい先刻、地図アプリを片手に到着した場所と同じ景色であり。

 反射的に首を振って周りを約260度程度見回した理由は、先刻、同じ場所で、在りえない人物と遭遇したから。

 大丈夫だ。周りに、人影はない。少なくとも、見える範囲には。


「だいじょうぶ、だよ、な?」

 思った事を口にするのは、おれの癖だ。

 ずっと、ひとりぼっちだったから。言葉を忘れるのが怖くて、思った事を口にするようになっていた。口にした言葉を耳で聞いて、そして安心するのだ。おれは、生きているのだと。

 こんな、小さな。いつ消えてもおかしくない、おれの、生。

 それでも、まだ、捨てるわけにはいかない。まだ、答えは出ていない。

「大丈夫だって、まだまだ大丈夫だって、言えよ!」


「大丈夫なわけ、ないじゃない?」


 ほら。思った通りだ。

 真後ろから、聞こえた、声。

 おれの、声と同じ……自分の声、すなわち自分の耳で聞く自分の声は、頭がい骨の反響により、自分が発している声は違うらしい。

 その、おれが「自分の声」だと思える、その声で、そいつは告げる。


「そう、言って欲しかったんでしょう? わたしに?」


 わざとらしい。最後の「わたしに?」が疑問形なのが。


「どうして、此処に来たの?」

 それは。

 おれが、選んだからだ。お前と一緒に逃げると。


 恐る恐る、振り返る。

 真っ青な空の下。

 白いドレスの裾が潮風に翻っていた。

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